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俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
幕間挿話 その三

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258 眠りし宝

 オースフィア大陸では、ポーションの研究や量産が行われていた時期があった。

 だが、ポーションは悪魔の技術だという噂が広まったことで禁忌(きんき)とされ、その製造や継承が徹底的に禁じられた。


 癒しの力は神より(たまわ)りし神聖なるもの。

 それを(ないがし)ろにするポーションは、悪魔によって生み出された害悪そのもの。

 ポーションを使った者は、やがて悪魔と化するだろう……

 そのようなことが、まことしやかに語られた。


 他にも、瞬時に傷が癒えることで命が軽んじられるだの、魂が(けが)れるだの、中毒性を伴う副作用があるだのと、流言(りゅうげん)が飛び交った。

 各地で破棄を呼びかける運動が起こり、暴動にまで発展した例もあった。

 そんな騒動を鎮めるため、この大陸からポーションの存在が抹消された。


 それを企てたのは、ギムナ皇国だった……




 極端なことを言えば、ギムナ皇国の財政は、オース教の寄付金、薬の輸出、奴隷売買で成り立っている。


 ギムナ皇国の領土がある大陸中央部は、乾いた荒野と砂漠が広がっている。

 そのような厳しい環境で生き抜くには、人間ですら商品にするしかなく、傭兵や出稼ぎ、身売りや口にできないような裏家業などを(いとな)んで、糊口(ここう)(しの)ぐしかなかった。

 そんな人たちが、理不尽な運命に意味を持たせるため、もしくは帰属意識を刷り込むために、厳しい(おきて)を作った。

 それらは時を経て、オース教という宗教へと変貌(へんぼう)した。


 陰の部分を覆い隠すように、オース教は神聖なる神に仕える宗教国家だと自称し、後にギムナ皇国と名乗るようになる。それ(ゆえ)に、許される属性は神聖のみ。それも、神に尽くした末に(さず)けられる奇跡の力が(たっと)ばれる。

 その反面、神聖以外の力は忌避(きひ)された。


 他国が法術の研究によって発展していく(かたわ)らで、流れに取り残された皇国だったが、遅ればせながら、(ひそ)かに他属性の研究が行われるようになった。

 だが、その名目は「悪しき力を知ることで、その対抗策を得るため」とされ、研究をしていることすら極秘とされた。

 そんな環境では研究もままならず、他国に追いつき追い越すなど到底不可能。だから、それを補うため、もしくは覆い隠すために、皇国は薬学に力を注いだ。


 現在のキュリスベル王国でも、聖法術士は人気があるが癒しの力が使えるほどの術師となると数が少ない。

 命に(かか)わる傷病(しょうびょう)を癒せる高位の術士ともなれば、国王や主天導師(リンプス教の最高位)と同等以上の警護がつくという。

 ささやかな癒ししか行えない術士であっても、実力を隠さなければ日常生活に支障をきたすほどで、力を行使する際も……リンプス教ならば、法師服に仮面を付けて素性を隠し、あらかじめ設定された高額な寄付金と引き換えに……というのが一般的だ。

 地元密着型の宗教であるノスフィアならば、その辺りは大らかだけど、それでも日々の奉仕やお参り……つまり、信仰心の(あつ)さで恩恵に差をつけている。


 とはいえ、大多数の民は自然に治るのを待ち、症状が重ければ薬を使う。

 薬といえば、この野草をすり潰して傷口に当てれば治りが早いとか、この草の根と木の実を茹でて煎じたものを飲めば腹痛が和らぐなどといった民間療法が主流で、重篤な症状であれば薬師を頼ることになるのだが……

 腕の良い薬師は貴族に召し抱えられるので、(ちまた)の薬師は怪しげな者が多く、効果があればもうけものといったお(まじな)いに近いものも少なくない。

 しかも、そこそこ高価なので気軽には頼れないし、よほど信頼できる薬師であっても、命と運と借金を天秤にかけた最後の手段となることが多かった。


 そんな中、ギムナ皇国が売り出した薬は、解熱薬、鎮痛薬、消毒薬、酔い止めなど、細かな用途に応じて用意され、高い効果がある常備薬として評判になった。

 価格も控えめなので、今でもギムナ薬と呼ばれて大陸全土で重宝されている。


 ギムナ薬は、オース教の布教にも利用された。

 人民救済を掲げるオース教は、奇跡と薬の力を背景に、国境を越えて大きく勢力を広げていった。

 それに伴い、多くの寄付金が集まるようになった。


 これがギムナ皇国の大きな収入源になっているのだが、それに匹敵する収入源がもうひとつある。

 ……奴隷売買だ。


 正義を掲げる神聖な国が奴隷売買に手を染めているのはおかしな話だが、彼らが庇護(ひご)しているのはオース教の信徒のみ。

 信徒に(あら)ざれば人に(あら)ず……

 つまり、オース教にとって異教徒とは、人ではなく野獣や家畜と同じ。

 従って、ギムナ皇国では、奴隷売買は家畜の売買と同じ感覚だった。

 奴隷となる運命から(のが)れるのは簡単だ。

 オースの神は寛大(かんだい)だ。信仰を捧げて信徒となれば、救済される。

 ただし、私財を全て捧げ、敬虔(けいけん)な信徒になれば……だが。


 いち早く宗教の力に気付いたギムナ皇国は、救済という武器(アメ)を振りかざして、大陸全土にオース教を布教させようとした。

 その試みは、オース教に対抗してリンプス教の布教を始めたキュリスベル王国や、独自の神霊宗教(シャーマニズム)を持つ獣人たちなど一部例外があるものの、(おおむ)ね成功した。

 これにより、貧しい荒野に生まれた小国は、未曽有(みぞう)の好景気を迎えた。


 そこに現れたのがポーションだった。

 あっという間に製法が広まり、大陸全土で研究と製造が行われた。

 傷を癒したり体力を回復したり効果は様々で、品質によって差はあれど通常の薬ではあり得ない、それこそ神様の奇跡でしか成し得ない効果のあるポーションは世界を変えた。

 時を同じくして、大陸全土で奴隷制度を批判する声が高まり始めた。

 これによって薬や奴隷の売れ行きが落ち込み、オース教の影響力が弱まっただけでなく、ギムナ皇国の財政も一気に悪化した。


 ギムナ皇国は、これを他国による攻撃ではないかと疑った。

 そこで冒頭の話に戻る。


 ギムナ皇国は己が権益を守るため、陰謀を駆使してポーションを駆逐(くちく)した。

 だが、それだけで話は終わらなかった。

 悪辣(あくらつ)なことに、他国には禁じておきながら、ギムナ皇国では聖水の研究と称して各種ポーションの研究が続けられていた。




 リーフォニア伯爵家の当主であるハルキは、フロイス子爵領グィルムにある商都メルシアに滞在し、その復興に尽力していた。

 その間、領地ではひと足早く戻ったディアーナが領主代行の任に就き、それまで代行を務めていたイーゴ・マルセイは、新しく(もう)けられる学院の長となるよう命じられた。


 新たな学院は、ミレンスに隣接する、長らく放置されていた領主城を利用する。

 そのために以前から準備が進められ、国王様から正式に許可が下りたことで、本格的に計画が動き始めた。

 ディアーナたちが戻って来た頃には城の手入れが終わっており、学院に関わる部分はマルセイが、それ以外の部分……たとえば、備蓄倉庫、いざという時の避難場所、研究施設などはメイプルやサンディが担当することになった。


 そこでメイプルは、ハルキから了承を得て、領主城内に念願の自分専用の研究室を作ることにした。

 その研究室でメイプルは、安っぽいソファーにちょこんと座って、手にした書類に視線を走らせていた。


 漆黒の召喚術士(マスターブラック)の召喚(びと)グリーンは、研究員として王立学院に通っているのだが、知識が豊富で筆談で話す彼女の評価は高く、沈黙の賢者などと呼ばれて尊敬を集めていた。

 その正体がメイプルなのは、今さら言うまでもないが……

 この書類は、メイプルが沈黙の賢者となって王都に行った際、学院や王宮で入手したもので、ギムナ皇国の内情が書き写されている。

 それらを読み終えると、丁寧に整えて机に置いた。


「そういうことだったのですね……」


 ため息交じりに小さく呟くと、物思いに(ふけ)る。


 机の上には他に、オース教から押収した硬質カバンの中身が並べられている。

 いくつかの薬瓶が開封されて中身が減っているのはメイプルが実験に使ったからだが、どれだけ調べても「これはポーションかもしれない」という疑惑止まりで、今まで断定できずにいた。

 なにせ、希釈して使うポーションなんてものは知識や文献をどれだけ調べても出てこないし、効果についても拍子抜け……とは言わないまでも、記述にあるほどの劇的な結果は得られなかった。

 だが、その謎が、書類の一部──王宮からの報告書で判明した。


 かつてポーションは、傷や病を癒したり、体力の回復や解毒をしたりなど、用途によって様々な種類があったらしい。

 その技術はすでに絶えている……はずだったが、ギムナ皇国で極秘調査を行った結果、ポーションの製法や材料などが判明した。

 机の上の薬剤がポーションの一種だということも……

 ポーションの一種と書かれている理由については、「ギムナ皇国の技術では完全なる再現は難しかったのだろう」と、書きが添えられていた。


 再びメイプルが呟く。


「お宝……でしたね」


 メイプルの脳裏に浮かんだのは、ウラウ村の外れにあるかつての湿地帯だった。


 宝が眠ると伝えられ、ヒュメラ村の村長や前領主のブロウデン男爵が手中に収めようと画策していた場所なのだが、結局、お宝の正体は分からずじまいだった。

 だけど……

 川辺に沿ってわずかに自生していた紅睡蓮(ベニスイレン)矢切草(ベルニエ)こそが、ポーションの重要な材料だったのだ。

 あの場所が湿地帯だった頃には、その貴重な野草が一面に生い茂っていたのだろう。だとすれば、当時の人たちにとっては宝箱のようなものだ。


 クロエに野草のサンプル採集をお願いしたメイプルは、机に広げられた荷物を片付けて書斎に移ると、王様向け、王宮向け、研究室向けと書き分けて、報告書を作り始めた。


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