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余り語られない撮影所のあれこれ  作者: 元東△映助
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余り語られない撮影所のあれこれ(70)殺陣師とアクション監督

★殺陣師とアクション監督


●5万回斬られた男

新年早々に「5万回斬られた男」である「福本清三」さんの訃報が入って来ました。

福本さんの享年77歳という年齢は、私の父親が他界した年齢でもあり、元日のご命日というのは、私の祖父の他界した命日でもあります。更に私の撮影所での初仕事は東映京都撮影所でしたので、何か私自身と福本さんとの間に勝手に運命すら感じてしまっていますw

何はともあれ、福本さんのご冥福をお祈り致します。


さて、その福本さんの「5万回斬られた男」という二つ名に関連して、今回は「殺陣師」と「アクション監督」という職業に関して語らせて頂こうと思います。


尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw

今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。


●殺陣師とアクション監督の違い

アクション監督と殺陣師というのが、アクションに関わる役割の職業であるのはどちらも同じなのですが、細かなところが大きく違っています。

一番違っている点は、カメラアングルを指定できてカット割りを作れるのかどうかという点です。

アクション監督は監督と名前を冠する様に、アクションシーンに限られますが、カメラアングルを始め監督にしか許されないカット割りの権限や編集権限といったシーン内のキャストとスタッフの監督をするのが役割なのです。

つまり、本来作品を監督している監督=本編監督がアクションシーンの演出をすることは、基本的にはないという事になります。

但し、作品自体は本編監督の下に監督権限があるので、アクション監督と云えどもストーリーやキャラクターを逸脱した演出や編集は、本編監督から待ったがかかる場合があります。

アクション監督以外の肩書きには、殺陣師、技斗、アクションコーディネーター、スタントコーディネーターというモノがありますが、これらの肩書きの方々は、カメラアングルをカメラマンに委ねて自分なりのアクションを組み立てる事に専念することになるのです。


殺陣師(たてし)と技斗

主に時代劇の撮影の際に、刀によるアクションである「殺陣(たて)」の組み方を考えコーディネートする役割の職業です。

読み方は、一般的には「タテ」ですが、語源が「殺人」の漢字変換からきているので「サツジン」と呼ぶ場合や敢えてそう呼ばせる場合もあります。

尚、歌舞伎では立ち回りの事を「タテ」と呼ぶことから、後から出来た「殺陣」に「タテ」という読みを着けたのが広まったとも云われています。

どちらにしても、本来は舞台の舞踊や剣劇等の立ち回りから着いた役割の名称となります。

この名称が各映画会社の撮影所にも広まり、時代劇の立ち回り=チャンバラ=刀でのアクションシーンの振り付けをする振り付け師の事を「殺陣師」と呼ぶようになったのです。


これに対して日活撮影所を発祥とされる「技斗(擬斗、擬闘)」は、現代劇の場合の格闘等の体術を使ったアクションを中心とした立ち回りを組み立てる役割の名称として呼ばれています。

ですから技斗は現代劇。殺陣師は時代劇として区別されているようです。

但し、私は現代劇のドラマにおいても「殺陣師」とか「アクションコーディネーター」といった肩書きしか耳にした事がありませんでしたから、東映や東宝系列の撮影所では余り「技斗」という肩書きを使っていなかったのではないかと思われます。


殺陣師や技斗、アクションコーディネーターと呼ばれる人達は、前途したようにカット割りやカメラアングルの指定等の監督権限を委託されていませんから、監督からシーンの意図とカメラマンからカメラアングルを聞いて、立ち回り=アクションを決めて行きます。

メインの役割の代役状態で殺陣師が立ち、周りの「大部屋さん」=「立ち回り役者」=「アクションクルー」と実際に刀を組みながら立ち回りの段取りを教えて行きます。

殺陣師に代役に立たれた役者は、殺陣師の動きを見て真似る事になりますが、基本的には立ち回りの主役である者は余り複雑な動きはしていません。周りが派手に立ち回る事で、複雑なチャンバラシーンが現れるのです。

先ずは、ゆっくりとしたスローモーションの様な動きで刀さばきや足さばきを確認し、何回かの立ち回りの段取り練習でスピードをあげていきます。

刀の切りつけや払い方には「型」があります。剣道とは違った殺陣特有の刀の取り回しの「型」もありますが、身体の動きも合わせて大きく逸脱することはありませんので、その細かな「型」を組み合わせて立ち回りを決めて行きます。

その事で立ち回りが舞踊の振り付けのように、一連の動作の流れの中での「組み立て」を覚えれば良いだけなので、撮影現場での練習時間はさほどかかりません。

但し、危険が伴うシーンや新しい段取りでの立ち回りの際には、慎重なチェックが必要となる為に時間を費やす場合もありました。


●アクション監督

アクション監督制度は、本来アクションが本編上の重要な要素を占める香港アクション映画から出てきたモノで、アメリカ等の撮影所では「セカンド監督」=「監督が一部の監督権限を委託した者」が相当するかと思われます。

日本では古来、立ち回り=アクションシーンも本編監督の演出の一部であり、立ち回りの組み立ての補助として多数の立ち回り経験のある者が「殺陣師」として助言する事で成り立っていました。

そこにアクションシーンを全て監督委託する「アクション監督」という役割を加える事で、アクションシーンをより魅力的なモノに変えて行くことを目指したのです。

ひとつの話に二人の監督となると、話の途中でカラーが変わる懸念もありましたし、事実そうなってしまっている作品もありますが、それでもアクションシーンを専門職に委ねる事で、迫力やスピード感のあるアクションを手に入れることが出来る様になるのです。


アクション監督が付く作品では、アクション監督自らがカット割りを決めてカメラアングルを指定出来て、アクションコーディネートまでもこなします。

しかし、アクションコーディネートをアクションコーディネーター等に委ねてカット割りやカメラアングルに専念するアクション監督も居ます。

それは、アクションコーディネーターから次代のアクション監督を育成する目的に充てられている場合がほとんどだったりします。


しかし、悲しいかな現在の日本のテレビや映画の映像作品において「アクション監督」が役割として存在するのは、特撮ヒーロー作品の撮影においてぐらいです。

刑事ドラマ等での格闘シーンやアクションシーンでは、殺陣師やアクションコーディネーターが居るくらいで、アクション監督は存在しないのが通例となっています。


●殺陣師やアクション監督になれば…

殺陣師もアクション監督も元来、スタントマンだったりスーツアクターだったり大部屋俳優さんだったりします。

その経験の積み重ねを基にして、人柄や演出力等を考慮して先輩方からお墨付きを頂き肩書きが上がって行くのです。

しかし、アクション監督は、少なくとも同じ作品の中ではスタントマンやスーツアクターをする事はありません。

プロ野球のように監督と選手を兼務する事は、まずないのです。

本編監督と主役や脇役が兼務するのはありますが、アクション監督では少なくとも私は聞いたことも見たこともありません。

殺陣師もほとんどが殺陣師のみで切られ役をする事はありませんでした。

しかし、予算が少ない作品やスタントをする者が少ない作品では、アクション監督や殺陣師がスタントマンやスーツアクターや切られ役やアクション俳優を兼務する事も無いとは言えません。


つまり、殺陣師やアクション監督は、その役割になった時点で切られ役やスタントマンやスーツアクター等からは「卒業」といった感覚が強いのです。

監督が助監督に戻ったり、カメラマン=撮影監督が計測マン=撮影チーフに戻ったりというのはたまに聞きますが、照明技師や録音技師が助手に戻るといったことは余り聞きません。

学校の先生が教頭や校長の試験を経て役職をあげると、管理職として担任が持てなくなります。だから、あえて現場大好きとばかりに管理職にならない選択をされる先生もいます。

そんな方々と同じように、現場が好きで自分が演じる事が好きな方々は、アクション監督や殺陣師への道を選択しない場合もありました。


●アクション監督から監督へ

アクション監督から本編監督に成られる場合もあります。

現在、数名のアクション監督が映画やテレビ作品の演出を全て手掛けて「監督」と呼ばれる存在となっています。

本編監督が苦手とするアクションシーンを、アクション監督に委ねる事で善いところ取りの映像を得ようとした状態から、そのアクション監督自らが本編まで監督するようになってきたと云えます。

この映像表現の変革は革新的なモノなのですが、監督が従来アクション監督ですから、アクションに重きを置く傾向があるのがタマにキズですw


●あとがき

アクション監督は、本来のアクション監督を要する作品が少ないこともあり極一握りしか成れません。

ましてや、女性のアクション監督というのは未だにいません。

将来、女性のアクション監督が出てきて頂けることを願いながら、特撮ヒーロー作品を観る今日この頃です。

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