余り語られない撮影所のあれこれ(46) 子供番組
★子供番組
子供に向けた番組の総称である「子供番組」というものは、どういったモノを指すのか?
まだまだ多くの人には誤解があるとしか言い様がありません。
今回は、撮影所のあれこれというには風呂敷が大き過ぎるのですが、子供番組から2時間ドラマ、時代劇や教育映画等々の多くのジャンルの作品の撮影に立ち合った私の眼から観た「子供番組」を歴史を見ながら考えてみようと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●子供番組とは
子供が観ることを対象にしたテレビ番組の総称です。
その子供番組のほとんどの発端は、教育番組です。
学校・社会・情操を目的とした教育番組が中心ですが、娯楽を主とした番組もあり、広義ではアニメ番組や特撮番組や子供向けのドラマも含まれるようです。
子供向け番組や児童向け番組と呼ばれることもあります。
酷い場合は子供向け番組=ジャリ向け番組=「ジャリ番」と呼ばれます。勿論、隠語です。
これは、撮影所の中で映画>時代劇>現代劇>子供番組という扱いがあったことが原因でした。
「子供番組」は「子供(騙しの)番組」とみられていたのです。
それが「騙し」ではなく、「子供(に理解できる内容にまで噛み砕いて作っている)番組」ということを理解出来ていない「子供番組」の制作現場を知らない人達の発言が元になっているのです。
時代劇のスタッフに「映画は芸術なんだよ。高尚なモノなんだ。子供騙しでいい子供番組には、芸術要素なんてなくても作れるよ」と面と向かって笑われたこともありました。
特撮番組やヒーロー番組を特定して呼ぶこともありますが、本来子供番組には、アニメーション、教育番組、ドラマと多彩なジャンルを内包しています。
中にはペットを扱った「天才!志村どうぶつ園」等々の教養、バラエティ番組も子供番組であるという見解を示している放送局もあります。
どのジャンルも大半は30分程度の放送枠で放映され、民放で放送されているものは、広告代理店の製作関与、視聴率よりも玩具の販売促進に重点をおいた戦略といったような点は同じですw
尚、教育番組を除き放映期間は半年から1年程度の作品が多いのですが、1980年代までは「特撮ドラマ」への人気も高く、2年半放映した「忍者部隊月光」「隠密剣士」「がんばれ!!ロボコン」、ほぼ2年放送した「男!あばれはっちゃく」「秘密戦隊ゴレンジャー」「仮面ライダー」などが存在します。
●歴史
テレビ放送が始まるより以前からラジオ放送や雑誌、絵本という媒体で「子供向け」という枠とジャンルは存在していました。
教育的な側面を持つ童話や寓話が発端ではなかったのかと思われます。
この童話や寓話も、本来は大人向けの話を子供や児童にも理解し易い様にアレンジした教育の教本であったのです。
その教本的内容がラジオを経てテレビ番組へと移り、視覚的に子供にも受け入れし易くなると、内包するジャンルは一気に拡がります。
実写による童話の再現に始まり、アニメーション技術の発展と現場の努力によって童話内容がアニメ化されて行きました。
更に、当初の童話的内容にアレンジすらも入ってきます。
コレが、「教育番組」と「子供向けドラマ番組」の発端となって行きます。
◯教育番組
「教育番組」はNHKのEテレに代表されるように、授業放送的な内容から低年齢向けの番組までが存在します。
教育番組であるが故に、子供の興味や好奇心を惹くような工夫がこらされ、着ぐるみ・人形・CGなどによる、「ポンキッキ」の様なマスコットキャラクターが出演している事も多く、いくつかのコーナーを組み合わせた比較的テンポの早い展開のものも存在します。
特に近年ではCGを駆使したものも増えてきています。
中には「親子で楽しめる」事を目的に、大人の鑑賞にも耐えうるような練り込んだ内容で、大人のファンがついているものもあります。
「カリキュラマシーン」「ウゴウゴルーガ」「ピタゴラスイッチ」等はその先進的・実験的な内容で、幅広い年齢層に話題を呼びました。
今も尚一層拡がりをみせています。
◯子供向けドラマ番組
「子供向けドラマ番組」は、教育的な内容から発展しながらも、大人向けのドラマを児童向けにアレンジして製作されたドラマのジャンルであるとも言えます。
基本的に子供を対象にしたドラマなので、子供を含むファミリー層や若者向けの作品も内包し、基本的には全日帯に放送されています。
幼稚園や学校へ行って学ぶ時期の少年少女である幼児・小学生・中学生が主役になることから、学園ドラマやその要素を含むものも多く見られます。
これは、子供の身近な世界からの共感を呼ぶことで興味と理解を引き出そうとしているのだと思われます。
子供向けドラマとしての学園ドラマということから、有名な子役を輩出することも多く、後々に大人向けドラマに転進する役者さんもいらっしゃいました。
「子供向けドラマ番組」としては「ケンちゃんシリーズ」に代表される子供の日常を主軸にドラマを展開する実写ドラマが多く製作されました。
しかし、実写ドラマは1980年代以降製作本数が減少し、枠自体もなくほぼ壊滅状態で、アニメ番組にその主軸を移しています。
◯特撮ドラマ
「特撮ドラマ」はテレビ番組の草創期から、さまざまな作品が製作されていました。
その前身は「鞍馬天狗」等に代表されるような時代劇の大人向けヒーロー物が下敷きに有りました。
この要素から、1958年の「月光仮面」によって「変身ヒーロー物」という「特撮ドラマ」でもっとも強力な路線を確立するに至ります。
「怪奇大作戦」等々のホラーブームの時代に乗って変身しない特撮ドラマも漣面と製作されていましたが、「ウルトラQ」を経て「ウルトラマン」「ゴジラ」といった「怪獣ブーム」起こり、それが終息を迎える時期の1960年代の後半から次第に衰退を始め、「第二次怪獣ブーム」「変身ブーム」が沈静化を始めた1973年頃から予算がかかりすぎるとして本ジャンルは敬遠され始め、代わりにコストパフォーマンスが高いアニメーションが台頭してきました。
1980年代の終わりには変身ヒーロー物を除き、ほぼ消滅していました。
1990年代には放送局に変身ヒーロー物以外の「子供向けドラマ」の枠自体が開いていませんでした。
●特撮ヒーロー番組とアニメ番組
現在全日帯で放送されている「特撮ドラマ」の殆どがこの「変身ヒーロー番組」というドラマジャンルであり、過去に於いても日本で放送された子供向けドラマ全作品の半分以上を特撮が占めています。
また、1970年代前半の「第二次怪獣ブーム」や「変身ブーム」によって多くの制作会社から特撮作品が盛んに作られました。
その当時は、台頭してきたアニメ番組よりも子供たちの人気がありました。
しかし、当時から基本的に男児向けのヒーロー物が主体で、女児・ファミリー向け番組は少なめでした。
その女児・ファミリー向け番組を担ったのが「アニメ番組」でした。
●世界の子供番組
アメリカやイギリス等の欧米では、子供番組と言えば「セサミストリート」に代表されるような着ぐるみ・人形を駆使した教育番組か、カトゥーンと呼ばれるアニメ番組が主軸であり、特撮ドラマ番組の制作はほとんど無く、日本から輸入していたり、日本からの輸入番組にドラマ部分だけを新規撮影して繋げて新たな番組を作っていたりします。
また、多くのアニメ番組も各国に輸入されています。
特に欧米での子供番組の内で日本の子供番組の占める割合は多く、近年では日本に憧れる外国人の要因の内で日本のアニメ番組や特撮番組を観てと言われる割合が、どんどん大きくなってきています。
しかし、まだまだ日本以外の国々では「子供の為だけの番組」という認識が高く、その国々の子供に対する道徳意識で批判される場合もあります。
●近年の子供番組
日本では近年、地上波民放で放送される子供番組は減少傾向にあります。
その理由に生活様式の変化や少子化による視聴者数の減少、各テレビ局で視聴率優先の番組編成が主体になり、時間枠の確保が難しくなった事などがあげられます。
その他に、内容によって些細な事でも保護者側からクレームを寄せられる傾向があり、制作側にとっても当初予定していた番組が作りづらくデメリットが多いという事情も加わってきています。
「子供番組は子供向けなのだから健全で純粋で、人の生き死にや悲惨さを扱うべきじゃない」とまで言われる保護者もいらっしゃいます。
ですから、当初は高学年児童向けや娯楽主体に番組が作られていたものの、内容を変更して大衆化したり保護者の要望によって、次第に低年齢層向けや教育的な内容へのターゲット変更がされる事もしばしばあります。
これらの背景によって、地上波に比べて視聴率や編成に左右されないBS放送、スカパー!、ケーブルテレビなどに放送の主体が移りつつもあるのも事実です。
●今一度、子供番組とは
子供番組は、今や「子供向け番組」としてだけではなく、かつて「子供向け番組」を楽しんだ大人も一緒に楽しめる番組になってきています。
それは、少子化の現代において、低年齢層を主体とするスポンサー玩具の購買力だけでは、制作が成り立たなくなってしまっているからだというのも事実です。
その上で、今までになかった表現の「特撮ヒーロー番組」や「アニメ番組」も多く製作され、特に「アニメ番組」に至っては大人番組としてしか観られない内容やクオリティの番組すら製作されています。
このことから、「子供番組」は「子供の為だけの番組」ではなくなってきているのです。
むしろ、視聴対象年齢の広い「大衆的番組」を内包するジャンルへ発展して来ているのです。




