余り語られない撮影所のあれこれ(47) 無生物の擬人化の実写演出方法
★無生物の擬人化の実写演出方法
今回は、タイムリーな話題を……と思います。
現在「がんばれいわ!ロボコン ウララー!恋する汁なしタンタンメン!!の巻」の劇場公開に合わせて、東映YouTubeofficialにて「中華擬人化セレクション」が無料配信されています。
不思議コメディシリーズから「ペットントン」「どきんちょ!ネムリン」「勝手に!カミタマン」「魔法少女ちゅうかなぱいぱい!」の4作品。メタルヒーローシリーズから「テツワン探偵ロボタック」の1作品の各番組のエピソードの中から「中華料理を擬人化」した各回だけを厳選して配信されています。
「ロボタック」は正式にはメタルヒーローシリーズですが、不思議コメディシリーズが放送を終了し、メタルヒーローシリーズに統合される形での作品である為に不思議コメディシリーズの様な内容となっていましたw
そして、この「擬人化」を好んで脚本に取り入れ、シュールな世界観を作り上げていた脚本家が「浦沢義雄」氏です。
今回の「がんばれいわ!ロボコン」の脚本も担当し、真骨頂とも言える擬人化を脚本に取り入れているようです!
さて、そんなシュールな無生物の擬人化を実写にするには、普通に撮影していては演出できません。
今回は、配信映像を例にあげ、どのようにして「擬人化を演出」したのかという部分のみに注目してwその方法をご紹介してみようと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
そして、一番最新の「ロボタック」にしてみても20年以上前ですので、まだまだCG合成がバンク映像に使われる程度ですし、不思議コメディシリーズでの最新である「ちゅうかなぱいぱい」に至っては30年以上前の「フィルム」作品ですから、光学合成ですらバカ高い時代です。
つまり、CGの誤魔化し無しの手作業の演出技術です。
言い換えれば、アナログ操演による擬人化演出であり、それがいかにチープであろうとも「擬人化演出」の基本であったことは事実です。
●「ペットントン」第30話「横浜チャーハン物語」
「擬人化」の黎明期とも言える作品ですww
基本的にシューマイもチャーハンも動きませんw
後々に演出される「話す」「皿ごと動く」というモノは無く、只一点「グリンピースが動く」ことで、シューマイとチャーハンの各々の感情を表現しようとしています。
この「グリンピース」の動きは、勿論「吊り」で演出しています。
以前、特撮番組の撮影現場vol.1「東映不思議コメディシリーズ」の中でも書きましたが、爆発でも撮るなら別ですが、通常は不思議コメディシリーズに操演さんは来ませんw
ですからピアノ線が本来使われるのですが、操演でもない素人では扱いが難しいので「テグス」と言われる釣り用の糸で吊りを行っていますw
単純な上下運動と左右への移動だけですから、これで十分ですw
●「どきんちょ!ネムリン」第16話「肉まん・アイス大戦争」
擬人化表現が格段に進化するのが、この「ネムリン」からです。
多分ですが、「ネムリン」より参加している人形操作のスタジオ・ノーバの存在が大きいのではないかと思われます。
前作「ペットントン」と比べても人間が入ることの出来ないサイズになった「ネムリン」は、その操作に専門知識を持つスタジオ・ノーバに人形操作を依頼しました。
このことで、人形操作の技術を現場スタッフが学ぶ機会を得ることにも繋がりました。
アイスの蓋と肉まんの半切りを「口」と見立てて吊ることで、口パクを表現して無生物を喋らせる事に成功しました。
また、多数のアイスや肉まんを同時に吊ることで、大戦争の表現を演出してみせています。
そして、擬人化表現は吊りだけではなく、人形劇用に使われる人形の足下からの持ち棒をアイスや肉まんの足と見立てることで、歩かせる事にも挑戦し、チープながらも合戦絵巻を演出してみせてました。
この様に、飛躍的に表現をアップさせた不思議コメディシリーズの擬人化演出は、次回作の「勝手に!カミタマン」でひとつの頂点を迎えます。
●「勝手に!カミタマン」第19話「長寿庵の中華三兄弟」
この作品にもスタジオ・ノーバさんは参加されています。
そして、この作品は色々な無生物が擬人化されました。
雛人形にフランス人形といった人形は序ノ口で、扇風機といった人間形体を離れたモノも擬人化し、タクアンや蕎麦をはじめとする視聴者には身近な食品達が擬人化されました。
その中でも果敢に汁モノである麺類の擬人化に取り組んだ第19話は挑戦的であり、また、擬人化表現のひとつの頂点を見せてくれました。
ラーメン鉢のままの移動。
これは、テグスによる「引っ張り」によるものです。
それも複数同時の引っ張り移動は、引っ張りの方向の計算と鉢のスムーズな滑りとが必須で、更に汁モノである為に溢れやすい液体がついてまわるのです。
更に、この滑らせる様な移動は、一定方向にだけではなくて引き戻す事も可能なのです。これは、引っ張りの方向性が一方向だけではなくて、反対方向への引っ張りにも対応したテグスの取り付けが必要だという事になります。
また、空中を浮く表現での移動は、鉢自体を吊っているのは確かなのですが、液体を不安定な円形の縁の中に入れてある重量のある鉢の吊りは、一歩間違えれば液体を溢すどころか、落下から鉢が割れて中の麺類が飛び散る危険性すらあるのです。
そして、真骨頂は「麺類達が喋る」演出です。
冷やし中華は勿論、中華そばやもやし中華、五目中華までが喋ります。
前途した「ネムリン」の肉まんやアイスの様なひとつの固形物ではない麺類を喋らせるという表現方法は、さすがに「吊り」ではなくなっていました。
ラーメン鉢の底に穴を開けて、下から麺の中心を押し上げる様に棒状のモノで「突き上げ」ているのだと思われます。
もしくは、麺の下に風船状のモノを入れて空気で持ち上げている事も考えられます。
但し、液体のスープが存在するので、液漏れ防止と持ち上がる面積の均等制の為に、麺の下には膜の様にビニールかゴム状のシートの様なモノを広げていたとも思われます。
移動の際のテグスの引っ張りの仕掛けと、喋らせる際の下からの突き上げの仕掛けの両立で、麺類を擬人化する事に成功させています。
尚、この二つの仕掛けは同時には出来ません。
つまり、喋らせながら移動は出来ないのです。
喋らせる際にラーメン鉢自体を下から突き上げて、その場でカタカタと揺する程度は出来ている様子ですが、突き上げの仕掛けがある為に横移動は出来ていません。
更に、「麺類達が泣く」演出までも表現していて、マンガの表現の様に麺の下から左右に向けて水が飛び出すのです。
これも、ラーメン鉢の底の穴からホース状のモノを2本通して、水を噴出させているのだと思われます。
こちらも喋らせる演出の様に移動と同時には行えない「半固定」の様な状態だったと思われます。
●「ちゅうかなぱいぱい」第12話「レイモンドとチャーハン」
「カミタマン」から4年を経た「ちゅうかなぱいぱい」では、既にスタジオ・ノーバは携わっていませんでした。
しかし、「ちゅうかなぱいぱい」は、不思議コメディシリーズの真骨頂である擬人化演出に特化した作品でした。作品全体の物語の設定そのものに「ラーメンにされた、元人間のレイモンドを探す」主人公という擬人化設定を全面に押し出したストーリーが用意されていたからです。
そして、今まで培ってきたテグスによる「引っ張り」移動と「空中浮遊」、更に「突き上げ」による喋りをさりげなく取り入れながらも「人間へ変身する」という「擬人化を超えて人になる」という究極の演出に辿り着いたのです。
特筆は「突き上げ」による喋り演出です。
チャーハンの方は、下からモコっと突き上げてくるので余り目新しさはないのですが、レイモンドのラーメンの方は、なみなみと注がれた透き通る醤油ベースだと思われるスープの下から、シナチクとチャーシューの端だけが持ち上がるのです。
しかも、このシナチクとチャーシューの動きでスープに浮かんだ海苔が「固定されていないよ」とばかりに揺れるのですw
この事から、本物の液体を使用したラーメンに仕掛けを施している事が分かります。
最初は、吊りによるシナチクとチャーシューの引っ張り上げかとも思ったのですが、テグスがまったく見えませんし、テグスを結び着けている場所さえも特定出来ませんでした。
しかし、チャーシューの動きの時に少しですがアクリル棒が見えてしまっているのを発見し「突き上げ」だと確信できました。
ところが、液体の下からの棒状の突き上げによる仕掛けには「液漏れ」が心配になります。ですが、スープ量の変化が目に見えて無いために、ゴムパッキン等を駆使して穴から漏れ出す事の無い様な仕掛けを作成させていたと思えるのです。
尚、「ちゅうかなぱいぱい」には操演の羽鳥博幸さんがクレジットされています。
これは、吊り演出よりも弾着等の火薬効果がメインだったのではないかと思われますが、それでも気の良い羽鳥さんの事ですから仕掛けのアイデアぐらいは提供していたのかもしれません。
●「テツワン探偵ロボタック」第14話「恋する餃子の涙」
「ちゅうかなぱいぱい」より10年が経ち、不思議コメディシリーズは既に無く、メタルヒーローシリーズも本作品で最終になる「ロボタック」での擬人化演出ですが、特筆がありませんw
不思議コメディシリーズで擬人化演出を培ってきたスタッフもメタルヒーローシリーズには参加していなくて、更に本物の操演さんに操作される餃子は、テグスではないキレイな吊りで表現されていました。
そもそも、餃子を擬人化しなければならないストーリーではないことから、餃子自体は動きません。
しかし、夢の中で餃子に襲われる演出時には流石に吊りによって擬人化が表現されていました。
時代を追って擬人化演出を観てきました。
時代毎の擬人化に対する演出方法があったかと思いますが、結論を言えば「逆境と蓄積による柔軟な発想が、シュールな世界観を産み出す要因」ではなかったのかと思います。
中華料理の擬人化以外でも多くの擬人化を「浦沢脚本」という特異な才能によって余儀なくされた不思議コメディシリーズの演出は、予算のない中でも「マンガ的に表現する事で子供にも分かりやすく、擬人化したモノの感情をも表現する」という事に成功します。
そして、いたいけな青年?であった田舎育ちのアニメと特撮が好きでシュールレアリズムにハマりつつあった18歳の高校3年生の私を演出の道へと引っ張り込む事にも成功します。
事実、大学時代に製作した作品には「モニターと照明器具の擬人化演出」をコンセプトにした「モニタくん」というモノすらあったのですからww




