余り語られない撮影所のあれこれ(40) 「空撮」
★「空撮」
今回は、「空撮」です。
航空機等を使用して空中から撮影を行う方法なので、別に特撮でなくても行われている「空撮」なのですが、最近の空撮と過去の空撮では状況が変わってしまっているようです。
今回は、その辺りもお話できればと思います。
尚、例によって情報のほとんどが30年前ですw
今となっては変わっていることや、無くなっていることもあります。また、記憶の内容が30年の間に美化されたり劣化してしまっているものも存在しますwwその点をご理解の上、あらかじめご了承下さい。
●ヘリコプター
30年前の通常の空撮はヘリコプターで行っていました。
勿論、東映が所有している筈もなくて、民間の飛行機会社にチャーターしていました。
ヘリコプター自体の大きさ(定員能力)と拘束時間によって費用は変わったと思います。
現在でも、一番小型の2~3人乗りで1時間程度のチャーターで20万円程の費用がかかるようです。
ヘリコプターを使ったロケ中に、しきりに時間を気にする製作主任の姿が目に焼き付いていますw
基本的にヘリコプターを使った「空撮」は、空からの建物等のポイントを撮影する為のものなのですが、それ以外にも走っている劇用車両を上空から追いかけての「空撮」なんていうのも定番でした。
そんな場合は、カメラマンや監督がヘリコプターに乗り込み、トランシーバーで地上とやり取りをして「空撮」を行っていました。
大半はカメラマンだけが、チャーターした会社のヘリコプターの居るヘリポートや駐機場まで行って乗り込みました。
しかし、ヘリコプター自体をヘリポートや、ヘリポート代わりの広い空地等があれば呼ぶことも可能でしたし、ヘリコプター自体を撮影の被写体に使用させて貰う場合もありました。
ヘリコプターの足に掴まるヒーローや刑事や、ヘリコプターからマシンガンを構える悪役等の様に、ヘリコプター自体を被写体に使う場合には、勿論パイロットの方も出演して頂くことになるので、時には衣装や帽子等の小道具を身に付けての本格的なご出演となる場合もありました。
ヘリコプターは、燃費が悪く燃料の心配をする必要もありました。ですから、リハーサルはエンジンを止めて行われて、本番の時だけエンジンが回されました。
また、障害物の多い場所には近付けませんから、低空飛行は可能なのですが、障害物の無い広い場所でもなければ出来ませんでした。
勿論、条件が揃っても街中を低空飛行なんて出来ませんし、許可も取れないと思います。
航空燃料の費用と専用パイロットの費用からすれば、ヘリコプターの使用金額が高いというのは致し方ないのでしょうが、その為においそれとはヘリコプターをチャーターしませんでした。
●ワイヤーワーク
ヘリコプターの費用よりも安く、時間制限も無く「空撮」ができる方法が「吊り(=ワイヤーワーク)」です。
但し、低空に限られますし、ワイヤーを張る場所も限定されます。更にヘリコプターよりも準備時間がかかります。
「吊り」の場合は、クレーン車をチャーターする場合がほとんどでしたが、やはり半日もしくは1日単位でのチャーター費用はかかりました。
流石に拘束時間に対する費用としては、ヘリコプター程の費用はかかりませんでした。
ヘリコプターとの大きな違いのひとつに、低空での障害物の多い場所での撮影が可能だという点です。
そして、同一ルートを何度でも飛行させることも可能です。
その代わり、同一ルートを離れてしまうとワイヤーを張り直さねばなりませんし、直線以外のルートをつくることも出来ませんでした。
因みに、カメラを吊ったりカメラを担いだカメラマンを吊ったりする場合は、ピアノ線ではなくてワイヤーを張ります。
通常は、吊ったモノと共に吊った線が映るかどうかが問題なのでピアノ線を使いますが、カメラを吊るだけならば消したり見えなくする必要もないので、吊るモノに十分耐えられる強度のザイルやワイヤーを使用します。
但し、ザイルはワイヤーに比べて大きく伸び縮みしますから、使用場所が限られました。その代わりザイルはワイヤーよりも取り扱いが容易で使用回数もワイヤーよりも多かったです。
尚、ピアノ線で人等の重いモノを吊る際は、安全性の問題から細いピアノ線程使用回数を制限していました。
カメラだけを吊るのが軽くて良いのですが、カメラだけだとフレームが安定しません。更に撮影した映像を即座にチェックできないフィルムでの撮影では、撮影出来たかどうかのリスクがつきまといます。
ですから、カメラを担いだカメラマンごと吊るのです。
その際も軽いカメラマンが有難いので、通常はカメラ助手の仕事だったりしました。なぜだかメインカメラマンはどっしりした方が多かったのも確かですが、御高齢のカメラマンが多かったのも確かでした。
その中でも松村文雄カメラマン(=現在のスーパー戦隊のメインカメラマン)は、メインカメラマンになっても自分でカメラを担いで吊られていました。
「面白い映像を撮る為だったら、怖いの何のって言ってる場合じゃないし、俺がカメラ担いで撮ったモノなら皆納得するだろう」
と、笑って言う人でした。
まあ、30年も前の話ですから松村カメラマンも40歳代でしたからw
●ドローン
今や「空撮」と言えばドローンという程の定番になりました。
所謂、リモコン式の無人飛行機にカメラ機能と無線映像送信機能を搭載したモノです。
ビデオカメラの小型化とデジタル化。記憶媒体の超小型化とGPSの性能向上、更に映像の通信機能の向上等が相まって、10年程前から海外で商業使用が開始されました。
日本でも数年前から商業利用としてのカメラドローンが使用され始めました。
それは、ドローンの技術の修練を積んだプロが使用するドローンです。
但し、そんな中でも映像センス等によって、映像業界からのリピートがかかるかどうかは別なのですがw
ドローンの利点は、ヘリコプターやクレーン車の様な大型機械の用意が必要な訳では無く、「操演さん」の様に特別技術を持った人間を呼べば自力の自動車等で撮影現場まで来てくれて、しかも準備時間が余りかからない。
低空の障害物が多い場所でも条件によっては撮影可能なのです。
更に映像が手元でも確認出来て、監督やカメラマンの望むフレームサイズにも対応可能です。
また、今まで考えられなかった映像を収めることも可能になり、ワイヤーワークやヘリコプターでも不可能だった映像を撮影することも可能なのです。
例えば、ナパーム爆発の上空からの映像等は、ヘリコプターでは炎に近付き過ぎると風圧によってきちんとした炎の撮影が出来ません。更にナパームの風圧や炎によってヘリコプター自体にも危険性があります。
これは、ワイヤーでも同じで、ナパーム爆発をするような場所は周りが開けた場所なのでワイヤーを繋げる支柱が無い場所の場合が多く、支柱代わりにするクレーン車が必要なのですが、このクレーン車に張られたワイヤーにカメラをセットするとバランスが悪くなりナパーム爆発等の突発的な風圧では、重量バランスを崩す可能性があるのです。
しかし、ドローンも電波の届く範囲が限られる事と、操作には修練が必要であり、街中等の撮影許可を必要とする場所での撮影では、航空機のフライトプラン並みのドローンの使用許可が必要となる場所もあったりします。
ドローンは、まだまだ新しい分野の「空撮」技術ですが、それだけに新しい感動的な映像を見せてくれる可能性のある魅力的な技術とも言えます。
但し、ドローンにはドローンの、ヘリコプターにはヘリコプターの、そしてワイヤーワークにはワイヤーワークの良さがあり、各々にしか撮影出来ない「空撮」映像が有ることも確かだと思います。