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妖精  作者:    
36/36

36 異世界人のあなたと私

 「よう。体調不良治ったみたいだな。2人して幸せそうな締まりの無い顔しやがって。」


 仕事が終わった後の夕暮れ時にリプレビュートと王宮の庭園で遊んでいると後ろから聞き慣れた声がして振り向けばザックが立っていた。ザックは仕事上がりなのか制服を少し着崩して穏やかな笑みを顔に浮かべていた。


 「うん。ありがとう!ところでザック、最近口悪くなってない?」


 「あー、こっちが素な。御礼は祝福1回で勘弁してやろう。」


 ニヤッと笑うザックは上から目線で祝福を要求する。こいつめ、私の祝福は超人気なんだよ。でも、とてつもなく世話になったから大人しく祝福してあげよう。私は鞄に入れていた手袋をつけるとザックの右手をそっと握った。


 「ザックがユーリの次くらいに大活躍しますように!」


 私の言葉と一緒にきらきらがザックを包み込んだ。ザックは祝福を受けたにも関わらず何とも微妙な表情を浮かべる。


 「なんだよ、その祝福。」


 「えー、だってユーリには毎日『一番活躍しますように。』って祝福してるから、ユーリの次って事は二番目だよ。凄いでしょ?」


 手袋を外しながら笑って答える私にザックは呆れた顔をした。顔に『こいつら馬鹿夫婦だな』って書いてあるけど気にしないもん。だって、私にとってはいつだってユーリが一番だもの。


 あの後、私とユーリは沢山話し合いをした。私とユーリは異世界人で人種も違えば育った環境も世界も何もかもが違う。すれ違いにならない方がおかしいのだ。だから、お互いに思っていることはこれからも隠さずに口に出そうと約束した。


 ユーリが常々、密かに心に思っていたことはとっても可愛いことだった。


 祝福の時に他の男の手を直に握るのが嫌だ。護衛にあんまり可愛い顔で笑いかけないで欲しい。時々、私からキスして欲しい・・・


 普段の怖そうな雰囲気からは想像出来ないようなかわいいお願いに私は嬉しくなってくしゃりと表情を崩した。そんなの、いくらだって聞くに決まってる。そして、私からもユーリにいくつかのお願いをした。


 愛してくれているなら言葉でも欲しい。もっと可愛いと言って欲しい。結婚記念に指輪が欲しい。


 ユーリはその殆んどを聞き入れてくれた。聞き入れられなかったのは一つだけ。


 「ユーリはおとり捜査しないで。」


 「それは・・・。持ち回りだからなかなか難しいな。」


 「そっか。」 


 こっちも駄目で元々でお願いしているので断られても別にショックでも何でも無い。ユーリは申し訳なさそうに私の髪を撫でてから私のおでこに彼のそれをコツンとあてた。


 「おとり捜査から抜けるのは難しいけど、俺が愛しているのはマリだけだから信じて。」


 「うん。わかった。」


 言いながらユーリの顔がほんのり赤くなる。きっと恥ずかしいのを我慢して言ってくれてるんだろうな。嬉しくなった私はユーリの両頬を手で包むと自分から熱いキスを贈った。


 「お、噂をすれば愛しの旦那様がお見えだぞ。」


 ザックは私の後方を顎で指した。「マリ。」と呼ぶ声がして、振り返った私はリプレビュートとザックにさよならを言うとユーリに駆け寄った。


 あなたと私は異世界人どうし。これからもきっとすれ違うことがあるだろう。それでも、1つ1つを2人で一緒に乗り越えていきたい。ねぇユーリ、私たちならきっと大丈夫でしょ?


 ユーリは駆け寄った私の手を握ると優しく微笑んだ。愛しい人のうしろには赤とオレンジのグラデーションが見事な夕焼けが広がっている。

 手を繋いだ私達はいつものように並んでゆっくりと歩き始める。夕焼けに照らされた地面には寄り添う2人の影が長く伸びていた。

 


最後まで読んで下さりありがとうございました!

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