潘帝太郎の正体
ピンクと白のストライプ模様のパンツが白日の下に晒される。華怜ってピンク色が好きなんだな。って、そうじゃない。何やってんだよ、昴!
「バカ! あんた、いくらなんでも怒るわよ!」
「だから、予め謝った」
スカートの裾を押さえ、けたたましく吼えかかる。華怜相手にあまり悪びれていないというのもすごい。仮面パンティーによって晒された後で今更ではあるが、バッチリと目撃しちゃって悪い気がするな。華怜がすごい形相で睨んできたから目を塞いでおく。
いきなりの暴挙に激しく動揺する人物がいた。
「な、なんて、破廉恥な……バ」
「バ?」
昴がすかさず追及する。口を覆ったものの後の祭りだ。
「今、バと言ったわよね」
「ぼくもちゃんと聞いたぞ」
「失敬な。バぐらい普通の人間でも言うだろバ」
「もう言い逃れできないぞ。明らかに不自然なタイミングでバと言っただろ。お前の正体は分かってるんだからな」
蘭子が名探偵よろしく指を指す。さすがに言い逃れできなくなったのか、潘先生は歯噛みしている。追い打ちをかけるように、渚先輩と昴も詰め寄ってきた。
「ちょっと、やめなさいよ。先生が困ってるじゃない」
この機に及んでも擁護しようとする華怜。しかし、よろめく先生を支えようと密着したのがまずかった。わずかなと評しては酷だが、潘先生の腕が女性特有の双丘に当たってしまったのだ。
「し、辛抱たまらん、バ」
許容範囲を超えてしまい、ボンと煙をたてる。必死に腕を払っている華怜だが、そこには教室内においては不自然な生物がしがみついていた。
「バンティー、あんたどうしてここに」
あまりにも決定的な証拠を突きつけられ、華怜は顔を引きつらせる。
「変なことを言ってはいけないバ。俺っちは新任教師潘帝太郎だバ」
「どこの世界にコウモリの先生がいるのよ!」
「ギャアアアアアアアアス!!」
ホームラン! 幸いガラスはぶち破らなかったが、柱に叩き付けられて墜落した。
目を回しているバンティーだったが、受難は続くようだ。怒りを顕わにした華怜が指を鳴らしながら接近していく。飛び去ろうとするも窓に鍵がかかっている。おまけに、華怜に手助けするように、脇を他の女性陣三人が固めている。
「説明してもらいましょうか。そもそも、どうして人間になることができるわけ」
「バレてしまったからには仕方ないバ。俺っちの正体を明かしてやるバ」
正体って、コウモリは仮の姿だったというのか。固唾を呑んでいると、バンティーは翼をクロスさせる。ダイカルアの怪物の挙動を想起し、ボクらは身構える。
「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、人間になあれバ」
痛々しい沈黙がその場を支配した。え、なに? ラミパスラミパスルルルルルーとでも言っておけばいいわけ。
「違ったか。パラレルパラレル人間になあれの方がよかったかバ」
「あんたね、ふざけてんじゃないわよ」
恫喝され、バンティーはボクの背後に隠れる。なるほど、ボクなら隠れ蓑になれるという魂胆か。でも、残念だったね。
一応頭をさげておき、ボクはバンティーの翼を掴んで宙ぶらりんにして差し出す。かえって磔にされてしまい、バンティーは右往左往している。
「彼の者曰く、年貢の納め時は潔くってね。さあ、白状してもらいましょうか」
「そうだぞ。変身の呪文なら、いなりこんこんが好きだぞ」
「私はハニーフラッシュ」
蘭子はマニアック過ぎるし、昴は古すぎるな。他人に変身する呪文の議論をしている場合ではないが。
いくらごまかしても無駄と悟ったのか、バンティーは大人しく項垂れる。
「内緒にしていたバが、バレては仕方ないバ。ご察しの通り、俺っちは人間になることができるんだバ」
「人化できるのなら、どうして最初からそうしなかったのよ」
「人間になるには多大な魔力を消費するバ。常時人間になっていたら、あっという間に魔力が底を尽いてしまうバ。先生になっていた時も、休み時間を利用して元の姿に戻っていたバ」
理由はありきたりだけど、陰で苦労していたことは分かる。
「それで、苦労してまで人間になっていたのには訳があるんでしょ」
「渚は察しがいいバ。俺っちが人肌脱いだのは偏に君たちのためバ」
「ボクらのため?」
やっていたことといえば、女生徒といちゃついていただけだ。ボクらのためになることなんて、全然やっていない。教え子として断言しておく。
「前にぼやいていたバ。ボランティア部に顧問の先生がいないから廃部になるかもしれないバって。ならば、俺っちしか適役がいないバ」
そういえば、任せておけみたいなことを言っていたな。顧問の先生をどうにかするにしても、まさか自分自身が先生になるなんて。半ば予想はできていたことだけどね。
「こっちの世界に来てから数か月。俺っちの魔力も大分蓄積されてきたバ。ようやく人化できるようになったからには、役立てたいというのが人情だバ」
「コウモリに人情を説かれると複雑」
まして、人徳者でもないしね。すんなりと教師として潜り込めたというのが不自然ではあるが、「それは聞かないお約束バ」だそうだ。人間になれるコウモリが催眠術を使ったとしても驚くべきことではない。
潘帝太郎がバンティーだったというのはそこまで驚くべきことではない。問題は別にある。
「それで、仮面パンティーとかいう変態も君でしょ」
「違うバ」
即答された。あれれ、おかしいぞ。ネーミングといい言動といい、該当する生物は一体しかいないはずなのに。
「嘘つく子はお姉さん許さないからね。私のパンツを持っている男なんて、父親を除いたらあんたぐらいしかいないでしょ」
「そうか、渚の父親が仮面パンティー」
「絶対違うから」
その理論だと、華怜の父親やボクの父さんも候補になってしまう。顔にパンツを被るのが趣味の父ちゃんなんて嫌すぎるぞ。
「誰が仮面パンティーかはともかく、ダイカルアの怪物に勝つことができるなんて並の魔力ではないバ。敵か味方かは分からないけど、見逃してはおけないバ」
自分のことを棚に上げて達観している。人化できる時点で君も並の魔力の持ち主ではないですよね。
このまま押し問答していても埒が明かない。仮面パンティーの正体はそのうち分かるだろう。
それに、はっきりさせておきたい問題は別にある。
「潘先生というか、バンティーがここに来たのはボランティア部の顧問の問題を解決するためだよね。まさかだけど、バンティーが顧問になるつもりじゃ」
「そのまさかだバ」
露骨に嫌な視線が送られ、バンティーは怯んでいる。顧問の先生が必要とはいえ、よもや妖精が先生になるなんて前代未聞だろう。いや、居たか。
バンティーは滞空するや、翼を広げてすぐに折りたたんだ。
「変態!」
お前が変態だ。そんなツッコミはさておき、掛け声の後、バンティーの姿が変貌していく。翼が消失し、人間のそれと思われる手足が生えそろう。髪をオールバック気味に整え、白い歯をちらつかせる。あっという間にそこには新任教師の潘先生が顕現していた。
って、「変態」は変身の掛け声だったのか。ならば、お前確信犯だろ。
「君たち、変態を違う意味で捉えているのではないのかね。変態とは動物の正常な生育過程において形態を変えることを表す。そうウィキペディアに書いてある。決しておかしな意味で使っているのではないぞ」
「コウモリが人間になるのはどう考えても異常でしょうが」
「別に驚くことではない。ライダーがバイクに変身する時代だ。コウモリが人間になるぐらいなんら不思議ではないだろう」
威張ることかな。無機物になるよりはまだ分かるけど。
「ともかく、今日からこの俺がボランティア部の顧問だ。同時に魔法少女ヴァルキリーの総監督を務めさせてもらう」
「なによ、魔法少女ヴァルキリーって」
「魔法少女が五人もいて統括する名前がないのは不便だろう。前から考えていたのだ」
無駄なことには頭が回るんだな。蘭子は「五人揃ってゴレンジャーみたいなものか」とすんなり納得しちゃってるし。
「ヴァルキリーなら妥当じゃないの。バンティー特戦隊とかにされるよりマシだし」
うん、フリーザの手下みたいなのよりはいいな。渚先輩に同感です。
「よし、決まりだ。対ダイカルア特殊戦闘魔法少女部隊ヴァルキリー。ここに発足するのを宣言する」
「勝手に音頭を取らないでよ。それに名前が長すぎ」
「略してヴァルキリーだからちょうどいいだろう」
略すもなにも対ダイカルアなんちゃらかんちゃらを省略しただけだよね。ボクらの部隊名が決まったのは前進ではあるが、肝心のことは解決していないし。仮面パンティー。奴は一体何者なのだ。
次回予告
いよいよカードゲーム大会の本番を迎えた。特訓の成果を見せる時。そして、闇道化師の正体を暴くときが来たんだ。
対峙する闇道化師。招かれたのは……まさかのゲーセン!?
そして、蘭子との宿命の決戦が始まる!
次回、TS魔法少女は戦いたくない第十話「闇道化師との決戦! 地獄のゲーセンへようこそ!」




