昴の目的
ボルガ博士の頭の中に仕掛けられた爆弾並の兵器を投下され、当然他の女性陣が黙っているわけがなかった。
「すばるん、抜け駆けしちゃダメだよ。いくら幼馴染でも許さないかんね」
「そうよ。サキちゃんとの付き合いはお姉さんの方が長いんだから」
「あのね、付き合いの長さで言えば、優輝と幼馴染である私の方が長いんだからね」
三者三様でまくしたてる。女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。しかし、一斉射撃を受けても動じないとは、昴の胆力は恐るべしだ。
いや、それどころかボクの腕をがっちりとホールドする。実力行使にまで発展して、女性陣三人は目を白黒させるばかりだ。
「優輝でないと達成できないミッションがある。どうしても借りたい」
「人をレンタル品みたいに言わないでもらえますか」
ボクじゃなきゃダメというのはそそられるけど。
「ずるいぞ。マサッキーとはまだデートしたことないのに」
「一緒にカードを買いに行ったくせに」
「ど、どうして知ってんだよ」
「ウルルに聞いた」
折角の反撃も数秒で封殺された。のんびりしているわりに妙な威圧感がある。華怜と渚先輩も吼えかかろうとするも躊躇してしまっている。
結局、反対意見が出ないまま、昴に同行することが決定した。彼女と二人きりというのも不安でしかないんだよな。
さて、問題の日曜日がやってきた。一応デートという形になるかもしれないので、カットソーにデニムとおめかしした出で立ちで臨むことにした。
待ち合わせ場所に指定されたのは五宝駅。ここを選ぶということは遠出するつもり満々というわけだ。ますますデートの可能性が高まったな。
約束時間の十分前。昴はまだ来ていないみたいだけど、明らかに目立つ集団がすでに到着していた。駅前に設置されている赤アフロの道化師人形に身を寄せ合っている三人衆。一様にサングラスをかけて変装しているつもりっぽいけど、正体はバレバレなんだよね。
「本当に昴は来るのかしら。優輝がようやく到着したみたいだけど」
「すばるんは案外ゆっくりしたとこがあるかんね。そのうち来るっしょ」
「っていうか、この変装は意味あるの。さっきから通行人に白い目で見られているわよ」
「追跡するならサングラスは常識じゃん」
聞き耳を立てていると、そんな会話を拾うことができる。ストーカーするんだったら、もっとしっかり隠れてくれないかな。気が付かない振りをするのが大変だよ。
やがて、約束時間の一分前になって、ようやく昴が現れた。頭をニット帽で隠しているのは前に出会った時のままだ。また身に着けているということは余程のお気に入りだろう。ただ、清楚なロングスカートにカーディガンとかなり気合を入れてコーディネイトしてきた。黙っていれば大人しそうなだけに、絵になるぐらいの美しさを醸し出している。
「ごめん、待った」
話しかけられたけど、しばらく返事をすることができなかった。
「い、今来たところ」
咄嗟の嘘も声が裏返る。彼女が本気を出しているということは、ひょっとしなくてもアレなんじゃないのか。
動揺しているボクをよそに、昴は平生を保っている。過剰に緊張しすぎて空回りしては元も子もない。深呼吸して落ち着きを取り戻さねば。
「ボクを呼び寄せた目的は何なの。もしかして、その」
「要件がまだだった。これを見てほしい」
核心に迫る質問が遮られ、代わりに一枚のチラシを突きつけられた。もしかして、ごまかされたのか。疑念が渦巻くけど、チラシの内容を目で追っていくと杞憂だと分かった。まさか、ボクを必要としていたのってこんな理由だったのか。
差し出されたのは二駅先にある町の和菓子屋のものだった。まんじゅうやらみたらし団子やら定番の商品が並んでいるけれども、ひときわ目立っているのが中央に描かれている大福である。
一日限定十個というだけでも人気のほどが窺い知れる。加えて、特異性を際立たせているのが宣伝文句だった。
「ただしカップルでの購入に限りますってどういうこと」
「ラブラブ大福は味もさることながら、カップル限定販売ということで話題になっている。食べてみたいけど、私だけでは買えない。だから、優輝には私の彼氏になってほしい」
つまり、大福を買うためだけに偽カップルを演じてほしいということか。過度な期待をしただけ虚しいな。
そして、追跡している三人娘も落胆しているだろう。いや、安堵しているのか。
「すばるんのことだからそんなこったろうと思ったよ」
なんて、蘭子が胸を張っているに違いない。だからといって、ストーカーを止めるつもりは毛頭ないんだろうな。昴は察しているのだろうか。
呆れ顔になっていると、チラシとは別に小さな箱を差し出された。パッケージいっぱいに所狭しとヒーローがポーズを取っている。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……全部で十六人のヒーローだ。
こんな無駄に多い集団といったら、現在放送中のあの戦隊しかいない。分かってはいたが、念のため昴に確認を入れてみた。
「えっと、これは何かな」
「無理に付き合ってもらったお詫び。食え」
「何故に命令形」
「十六ニンジャ―ソフビもついている」
むしろ、そっちの方がメインなんじゃないかな。差し出されているのは十六ニンジャ―の食玩であった。食えと指示されているのは付属のラムネのことである。ラムネの方がおまけのような気もするけど。
折角もらったので、遠慮なく開封させてもらおう。出てきたのは濃紺色の戦士。裏面のラインナップで確認してみると、十三ネイビーと紹介されていた。ネイビーは普通採用されないよね。すでにブルーとかヴァイオレットがいるから、若干色合いが被っているし。
ネイビー人形の腕をいじくっていると、昴が興味深く凝視していた。この人形が余程珍しいのかな。
「えっと、こいつが気になるの」
「いや、まさかネイビーを当てるとは思わなかった。最後の一ピースをこんなところでお目にかかれるなんて」
更に人形に釘付けになっている。まさかだと思うけど、とある可能性に行きついたため訊ねてみる。
「もしかして、十六ニンジャ―人形を集めているわけ」
「後はネイビーだけでコンプリートできる」
確定的だった。開けてみないと何が入っているか分からない人形を十六体全部集めるってどれだけ金を使ったのだろうか。蘭子といい、金銭感覚がおかしい奴らばかりだ。
結局十三ネイビーは昴の手に渡った。見返りにおまけのラムネをもう一個もらった。「陳腐な味がくせになる」と昴も勝手に貪り食っていた。ちらりとバッグの中を覗いたけど、ラムネがえげつないくらい詰め込まれていた。
電車で隣同士に座って揺られている間、斜め向かいからの視線が痛かった。サングラス女子中学生三人組って逆に目立つよね。昴は見て見ぬふりをしているのではなかろうか。
「わざわざ大福を買いに行こうだなんて、普段からこういうことしてるの」
「食べ歩きは趣味みたいなもの。私の舌を唸らせるものがあればどこへあろうと駆けつける」
正義の味方めいた格言を残した。虚言ではない証拠に、昴はスマホの画面を提示してきた。個人ブログのようだが、あちこちで食べ歩きした記録が連なっていた。数日やそこらで始めた量ではない。少なくとも一年以上前から積み重ねてきたことが窺える。
「もしかして昴のブログ?」
「そう。これまでの食べ歩きの記録が残されている」
意外と達筆のようで、食べ物の味の感想はもちろんのこと、販売店の雰囲気やら道中の出来事やらバラエティに富んだ内容となっていた。アクセス数もかなりのもので、食べ歩きのブログランキングで上位に食い込んでいる。
「すごいな、これ。ボクなんて学校の作文で手一杯なのに」
「文章を書くのは嫌いではない」
文学少女の才があるのなら、渚先輩と気が合いそうだ。まさか、当人がすぐそばにいるなんて思ってもいなさそうだけど。
しばらくして、目的地へと到着した。ここから更に歩く必要があるという。改札を出るや、昴はその場で足踏みをしておりやる気十分だ。
「おや、ムスカさんじゃないか。君もラブラブ大福を狙っているのかい」
突然チャラそうな男に話しかけられた。到着早々絡まれるなんて、治安は大丈夫なのか。




