謎の敵闇道化師
「話が脱線しまくりだけどさ。ヴァルダイヤモンドの話してたんじゃないの」
頭の後ろで手を組んで、蘭子が椅子にもたれかかる。気絶していた割にしっかり会話を把握しているんだな。もしかして、気絶していたフリということも有り得る。ともあれ、全然本筋が進んでいないのも確かだ。いい加減本題に入ろう。
「ぼくがヴァルダイヤモンドを狙っていた理由でしょ。それにはカードが関わっているんだ」
言うが早いか、蘭子は通学用鞄からカードの束を取り出した。裏面から正体は丸わかりだ。人気カードゲームデュエルウィザーズ。
って、ダメじゃん。学校にカードゲームなんか持ってきちゃいけません。先生に見つかったら没収されちゃうよ。
「バレなきゃ平気だって。他にもニンテンドースイッチとかもあるよ」
ニャルラトホテプ星人の理論を押し通さないでもらえますかね。彼女は学校に何しに来ているんだか。
「ゲーム機の話は置いといて、実はデュエウィザに関して都市伝説があるんだ」
いつものひょうきんな態度はどこへやら。急に真面目な表情になって蘭子は語りだす。一撃で空気を変えられ、ボクらは固唾を呑む他なかった。
「君たち、闇道化師って知ってる」
「聞いたことないわ。先輩、知ってる?」
「さあ。遊戯王のカードかしら」
社長が使っていた低級モンスターだっけ。それとは関係ないか。
ボクたちがボケている一方で、蘭子は真面目な表情を崩さない。普段の彼女であれば便乗するはずなのに、すさまじい豹変ぶりだ。
「今のところは、ぼくらゲーム仲間にだけ通じる都市伝説みたいなもの。けれども、そのうち問題は表面化してくるに違いない。実際、ぼくの兄さんも犠牲になったからさ」
すでに犠牲者が出ている。その事実に、ボクらは生唾を飲みこんだ。静まりかえった部室の中で蘭子の声だけが響く。
「カードゲーム大会の上位入賞者に狙いをつけて声をかける怪しい人物がいるというんだ。そいつはいきなりカードでのバトルを挑んでくる」
「単にゲームで遊びたいだけの不審者じゃないの。私たちが本腰を入れるような相手ではなさそうね」
ボクも華怜と同意見だった。でも、ただの不審者に魔法少女たる蘭子が本腰になるのは不自然だ。
蘭子も反論は承知のうえか、調子を崩さずに続けた。
「もちろん、ただ勝負をしかけてくるだけじゃない。そいつに負けると、どこかへ神隠しにされるっていうんだ」
ゲームの勝負に負けただけで神隠しだって。不審者が誘拐しているだけとも捉えられるが、それはそれで問題だ。
「魔法少女じゃなくて警察の方がおあつらえ向きなんじゃないの」
「相手が普通の人間ならそうかもね。でも、ぼくは見ちゃったんだ。闇道化師はただの人間ではない。あいつの所業は魔法としか言いようがなかった」
遠い目をして、身を乗り出す。机に添えられている手は激しく震えていた。
「兄貴と一緒にカードゲームの大会に出た帰りのことだった。デュエウィザが発売開始して間もない頃だったから、環境が定まってなくて、なかなかにカオスだったな」
「蘭子、話が脱線してる」
「おっと、いけない。ともかく、その大会で兄貴が優勝を果たし、意気揚々と帰路についたんだ。
でも、人通りの少ない路地に差し掛かったところで、いきなり変な人に絡まれた。不良とかじゃないよ。まあ、不良の方が数倍マシだったかもしれないけど。
そいつはサーカスが開かれているわけでもないのに、ピエロの恰好をしていたんだ。おまけに、闇道化師って名乗ったから確信犯だったよ」
町中で堂々とピエロのコスプレをするなんて、不審人物以外の何ものでもない。この時点で通報するに値する。
「カツアゲされるんじゃないかってビビったけど、そいつはいきなりデュエウィザの勝負を挑んできたんだ。しかも、断ったらひどい目に遭うと脅してきた。
裏がありそうだったけど、兄貴は『勝てば問題ないだろ』と闇道化師の挑戦を受けることにした」
「兄妹の血筋は争えないのがよく分かるわね」
渚先輩が嘆いていた。蘭子とよく似た兄貴なんだろうなというのは容易に想像できた。
「正直、闇道化師の強さは並外れていた。販売開始直後のカードゲームとはいえ、兄貴は他のカードゲームで何回も優勝を果たしている実力者。善戦してもいいはずが、手も足も出なかったんだもん。
そして、見ちゃったんだ。敗北した兄貴に対して、道化師が魔法をかけているところを」
「魔法だって」
絵空事で片づけられそうな申告だが、魔法少女自らが魔法と認めてしまっている以上、信じる他なかった。
「いきなりのことでびっくりして、ぼくはその場から逃げ出してしまった。そして、兄貴は道化師と共にどこかへ消え去ったんだ。
その後、似たような事例はないか調べたところ、各地で道化師による被害が出ているって書き込みがあったんだ」
一通り場所を聞いたけど、日本全国に点在していた。同一人物の犯行だと仮定すると、数日の間に遠距離移動を繰り返していることになる。財力と時間があれば不可能ではないけど、犯罪のために日本縦断旅行をするなど狂気の沙汰ではない。
「しかも、北海道での目撃証言があった一時間後に熊本で目撃されているわね。日本にある交通機関では不可能な移動をしているわよ」
ならば、複数犯の仕業か。でも、犯人が異世界からの侵略者なら、ワープしたと仮定すれば不可能ではない。
本来であれば、ただのいたずらで片づけられただろう。しかし、実現可能となる存在をボクらは知っている。
「十中八九ダイカルアの仕業ね」
華怜が総意を述べた。同時に、蘭子がダイヤモンドに固執する訳もなんとなく理解できた。
「要するに、ダイヤモンドの力を借りて、お兄さんを救い出したいということでしょう」
「その通り」
わざわざアタック25の名司会者の真似をする手の込みようだ。
「魔法少女になったから分かるけど、闇道化師の魔力はそんじょそこらの怪物よりも桁違いだった。だから、最強の魔法少女の力を借りたいと思ったんだ」
「事情は分かったけど、そんな得体の知れない相手と戦うのは気が進まないな」
負けたらどこかへ連れ去られるんでしょ。しかも、あのエメラルドをして強敵と言わせるんだもん。どんな強大な相手か想像するだけでも恐ろしい。
「もちろん、ダイヤモンドだけに頼るつもりはないよ。おまけにしかならなそうだけど、ルビィやサファイアにも戦ってもらうからね」
「誰がおまけよ。言われなくても、そんなふざけた奴は私が倒してあげるわ」
「サキちゃんは出しゃばらなくてもいいわよ。お姉さんに任せておきなさいって」
発破をかけられたことで、華怜と渚先輩はやる気に満ち溢れている。肩を落としていると、唐突に蘭子に小突かれた。
「魔法少女としての戦力は申し分ないから、マサッキーには別の特訓をしようかな」
「別の特訓って?」
「デュエウィザの特訓だよ。道化師は強いカードゲーマーの前にしか現れない。ならば、ゲームの戦力を整えておくのも重要じゃん」
特訓する必要性あるのかな。ただ、蘭子は「ぼくが特訓したげる」と聞く耳を持たない。かくして、蘭子先導による闇道化師討伐作戦が開始されるのであった。大丈夫かな。
次回予告
謎の敵闇道化師を倒すため、特訓を続けるボクら。すると、昴がとんでもないお願いをしてくる。
おまけに謎のライバル比呂麿や、ハウンドカルアまで登場。
もう、なんかてんやわんやになってるけど、まさかの新しい魔法少女が誕生する!?
ヴァルトパーズ、君は一体誰なんだ!?
次回、TS魔法少女は戦いたくない第八話「腹ペコの錬金術師! 創造の戦士ヴァルトパーズ!」




