並び立つダイヤモンドとエメラルド
すると、誰かと肩がぶつかった。不注意だったと慌てて頭を下げる。
「マサッキーじゃん。まだ逃げてなかったの」
「その呼び方は、Lか」
面をあげるとアホ毛が視界に入ったから間違いない。
「君こそ早く逃げてよ。じゃないと危ないよ」
「え~、君の方が危ないんじゃない。なんかどんくさそうだし」
さりげなく突き刺さることを言ってくるな。
「ぼくはちょっとトイレに用があるからさ。お構いなく逃げてていいよ」
「奇遇だね。ボクもトイレに用があるんだ」
「もしかして、ビビッて催しちゃった。じゃあ、とっとと行っといれ」
いや、ダジャレを言うのは誰じゃ。なんて冗談を抜かしている場合ではない。ボクらの方にもバグカルアが接近してきているのだ。魔法少女の力を持っていたとしても、変身前を狙われてはひとたまりもない。
脇目も振らずボクは男子トイレに駆け込む。すれ違う時にLが意外そうな顔をしていた。それはお互い様だったかもしれない。だって、Lは一目散に女子トイレへと飛び込んだのだ。あれ、逆じゃないの。もしかして、間違えたのかな。ボクも経験あるから分かるよ。
とにかく、まずはダイカルアを退けるのが先決だ。個室に籠らずとも、男子トイレ内にはボク一人。堂々と変身したとしても問題ない。ダイヤモンドを取り出すと、高々と掲げた。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーダイヤモンド!」
まばゆい光に包まれ、着ているが一瞬で分解。白銀のドレスが装着され、胸のリボンにダイヤモンドが飾られる。
変身が完了した直後、隣の部屋から同様の光が漏れ出ていた。不思議に思ったけど、とりあえずは現場に赴くのが急務だ。
「そこまでだ、ピジョンカルア」
威勢よくダイカルアの怪物へと啖呵を切る。しかし、妙なことが起こった。挑発をかけた声が唱和したのだ。
どういうことかと、ボクは顔を横に向ける。すると、似たような恰好をした少女が同じようにこちらを注視していた。緑色のドレスに緑の宝石。そして、自己主張するようにアホ毛が揺れている。
間違いない。前にカードゲームの大会に現れた謎の魔法少女。ヴァルエメラルドだ。
「その姿は、まさかヴァルダイヤモンド!?」
相手もボクの登場に驚愕しているようだった。どうなってるんだ。一体どこから現れた。
「まさか、魔法少女が二人だと。しかも、噂に聞くヴァルダイヤモンドがいるではないか」
ピジョンカルアも動揺を隠せないでいた。同じ魔法少女同士なら味方のはず。まず怪物を退けるのならおあつらえ向きの布陣である。
「クロコダイルカルアを倒した魔法少女か。そいつを倒せば俺は一気に司教入りってわけだ。バグカルア、あいつらを根絶やしにしろ」
運が悪いことに、相手は野心家であった。怯んだのは一瞬で、すぐにすべてのバグカルアをボクらに差し向けてくる。まごついていると、エメラルドが一歩進み出た。
「雑魚は黙ってなよ。無限なる幻影よ! 音速を超越し我が身に集え! 超速分身」
魔法を唱えると、彼女の姿が幾重にも分身する。そして、好き勝手に声を発しながらバグカルアへと飛びかかっていった。
単純な殴る蹴るだが、ほぼ一撃でバグカルアを沈黙させている。腕っぷしに強さはルビィに引けを取らないようだ。十体以上控えていたはずのバグカルアは一瞬のうちに全滅してしまった。
「こんなとこでしょ。じゃあ、お次は鳩さんだね」
分身したまま手を叩いている。あちらこちらから声が響くからやかましい。
「貴様の記憶を消して、分身も消してやる。暗記抹消」
鳩胸の毛を舞い散らしてくる。広範囲に広がるから、分身していたとしても回避するのは難しい。むしろ、的が増えている分、命中する可能性が高まってしまっている。
分身が逆手に取られたわけだけど、エメラルドはどうするつもりだ。
「毛で攻撃するならこうやるんだよ。吹きすさぶ暴風よ! 刃となりて一閃せよ! 蒼天空牙」
分身を解除し、一人へと戻る。そして、アホ毛に魔力を集中する。的が減ったことで、胸毛を躱すのは容易になった。そのうえ、魔力を込めたアホ毛をカッターにして反撃に出た。
豊満な胸のせいでピジョンカルアは鈍足そうな印象を受ける。高速のアホ毛カッターは回避しきれないか。
すると、ピジョンカルアは巨大な両翼を広げた。大仰に羽ばたくと、巨体が浮上していく。ヘリコプターの離陸よろしく、周辺にすさまじい風が巻き起こった。その勢いにより、アホ毛カッターが押し戻されていく。って、強風はまずいよ。スカートがめくれるじゃんか。
ボクと同様にスカートを抑えつつ、エメラルドは呟く。
「あいつ、飛べたんだ」
いや、鳩だから飛べるでしょうよ。まあ、巨大すぎて飛べるって印象なかったもんな。アホ毛カッターを上空へ向かわせるも、急上昇するピジョンカルアには追いつけないでいる。空中戦に持ち込まれたか。対空攻撃手段を持たないこちら側が圧倒的に不利だ。
「カッターを飛ばす魔法か。それなら俺だって使えるぞ。天駆ける双翼よ! 刃となりて彼のものを切り刻め! 双翼鋭刃」
広げた翼が刃へと変換され、一気に降り注ぐ。かつて、クロウカルアが使用してきたのと同様の魔法だ。雨あられの如く投擲していることから、ボクら二人を一気に根絶やしにする寸法だろう。
ならば、そのまま跳ね返すまで。ボクはバリアの魔法を展開しようと呪文を紡ぐ。しかし、
「コロセ……」
頭の中の邪な声が邪魔をする。そいつに抗おうとするせいで、どうしても詠唱が遅れてしまう。やばい、間に合わない。このまま八つ裂きにされてしまうのか。
目をつむっていると、突然足元が浮かび上がった。あれ、どうなってるんだ。まさか、既にカッターが命中したせいで絶命し、幽体離脱してしまったのか。ああ、短い人生だった。こんなことになるなら、魔法少女なんかになるべきじゃなかった。後悔にまみれながら、ボクは目を開ける。
すると、真正面にピジョンカルアがいた。本当にどうなってるんだ。やつは上空に逃れているはず。真っ向から対峙するなんてありえない。
もっとあり得ないのは眼下だった。ハハハ、見ろ、人がゴミのようだ。いや、天空城の王位継承者じゃないよ。でも、そう言ってしまいたい気分だった。なにせ、本当に人がゴミみたいに小さく見えるんだもん。
周辺状況を把握していくことで、ボクは一つの答えを導き出した。現在進行形で空を飛んでいる。それは曲げようのない事実だけど、問題はそこじゃない。どうやって飛んでいるか。もちろん、飛行魔法なんて使えないよ。じゃあ、やっぱり死んだんじゃ。でも、頬をつねると痛い。だから、夢ではない。もちろん、感覚があるってことは死んではいない。余計にどうして飛んでいるのか分からなくなってきたぞ。
「まったく。世話が焼けるんだから」
上空から声が聞こえる。どこから話しているんだ。見上げてみると、胸があった。ただし、貧乳だ。なんてふざけている場合ではない。緑の宝石ってことは、もしかして。
「エメラルド。君って飛べたの」
「ぼくの魔法だよ。天空へと導く大翼よ! 我が身へと宿れ! 蒼空天翌ってね」
ちらっとだけど、彼女の背から純白の翼が覗く。飛行能力を得る魔法か。分身できるうえに空も飛べるってやりたい放題だな。




