フライングパイタッチ
でも、心なしか高度が下がっているような。ボクってそんなに重かったかな。身体測定で体重五十一キロって出たけど。平均よりもちょっと下だから重いとか言われたら心外だな。せめて、体重六十九キロの覇王に言ってほしい。
「ご、ごめん。勢いよく飛んじゃったけどさ。やっぱ無理」
「いや、無理って何言ってるの。まさか、飛ぶのが無理とか言わないでよ」
「そのまさか。だって、ぼく、目を開けてないもん」
なんですと。盲目のまま飛ぶって自殺行為に他ならない。
「お願いだから目を開けてよ。このままじゃ墜落しちゃう」
「うーん、できそうにないかな」
「どうしてさ」
「だって、高い所がこわ……いやあああああ! 地面が、地面が、とおくにぃぃぃぃぃ!!」
いきなり発狂した。おそらく、開眼したのだろう。激しく上下左右に揺られながら墜落していく。まさか、この子、高い所が苦手とか。悟った時にはもう遅い。ボクらは二人そろって急降下していったのだ。
SEをつけるとしたら「チュドーン」だろうか。派手に地面に撃墜してしまう。どこぞの未来少年みたく、全身が痺れるだけで済んだというのが奇跡だ。魔法少女の耐久力高すぎるでしょ。
「えっと、助けてくれてありがとうって言うべきかな。でも、高い所が怖いのにどうして飛んだのさ」
「君を助けるにはこうするしかないって思って。飛行魔法なんて滅多に使わないからさ。ぼくにだって、どうしてこんな魔法が使えるのか分からないよ」
高所恐怖症のくせに飛行魔法を習得しているって。この子もまた受難だな。
「どうでもいいけどさ。そろそろ手を放してくれないかな。さすがにずっと触れられてると恥ずかしいっていうか」
なぜだかエメラルドは頬を赤らめている。手? そういえば、なんだか柔らかいものに触れているような。このプニプニしたものは一体……。
「って、ご、ごめん!」
どさくさに紛れてって言い訳は通用しないだろう。ボクの両手はエメラルドの胸にジャストミートしていたのだ。フライングパイタッチって羨ましいような嫌な必殺技だな。
あまりにもベタすぎるラブコメ展開を披露してしまったが、事態は依然として劣勢のままだ。空中戦ができない以上、ピジョンカルアに攻撃する術はない。そのことを承知しているのか、相手は滞空したまま狙いをつけている。
「人間ってのはつくづく不便だな。空を飛びさえすればこっちの天下だぜ。天駆ける双翼よ! 刃となりて彼のものを切り刻め! 双翼鋭刃」
上空から無数の刃を降らせる。回避は間に合いそうにない。幸い、さっき魔法を発動しかけたおかげで、魔力の残滓が宿っている。呪文を再構築すればなんとかなりそうだ。
「刃向いし魔力よ! あるべき地に帰せよ! 鏡映魔射」
ボクの周囲にバリアが展開される。透明な壁に阻まれ、羽根の刃は百八十度方向転換する。どうにか刃は防げたぞ。けれども、跳ね返した刃は予想以上の加速度を得ている。
「お、おい。こっちに来るんじゃねえ」
ピジョンカルアは上空でうろたえている。落下の勢いをそのまま、というか、更に加速して刃が刃向ってきているのだ。急上昇しようとしているものの、刃は問題なく追いすがっていく。
そして、自分自身が放った刃に全身を切り裂かれ、ピジョンカルアは墜落していった。地面へと引きずりおろせたことで、条件は五分となったわけだ。
羽を傷つけられたことで、ピジョンカルアは怨嗟の眼差しを向ける。そして、胸を震わせると周囲に綿毛を舞わせた。
「噂に聞いた魔法を跳ね返す魔法ってやつか。ならば、呪文を忘れさせて封じてやる。蓄積されし記憶よ! 忘却の彼方へ消え失せよ! 暗記抹消」
不規則に揺れる胸毛の群れ。刃は跳ね返せたけど、こいつはどうかな。
「鏡映魔射」
エメラルドを庇うように前に立ち、バリアを展開する。壁に阻まれ、綿毛はピジョンカルアの方へと転換していく。
「おい、嘘だろ」
それはボクのセリフです。まさか、綿毛さえも反射できるなんて。自分自身で放った綿毛に纏わりつかれ、ピジョンカルアは必死に抵抗しようとする。だが、徐々に動きが緩慢になった。心なしか、呆けた表情になっている。
「ここはどこだ。私は誰だ」
知りません。自分で自分の記憶を消してしまってはどうしようもない。このまま放置しておいても害は無さそうだけど、エメラルドが颯爽と進み出る。
「よし、後はぼくに任せておいてよ。吹きすさぶ暴風よ! 刃となりて一閃せよ! 蒼天空牙」
アホ毛に魔力を集中させ、カッターへと転換。大きく頭を一振りし、真空波よろしく発射する。
「私は、誰だぁぁぁ!!」
だから知らないって。断末魔の叫びがそれってのもなんか虚しい。自我が判明しないまま、ピジョンカルアはアホ毛カッターの斬撃を受け、爆散した。
高所恐怖症なのに空を飛んじゃいけません(飛べねえよ)




