クソガキさんと決勝戦、と思っていたのか
敗北したにも関わらず、清々しい表情の覇王。よほど、あの子と戦うのが光栄だったんだな。
「惜しかったね、覇王。もうちょっとで勝てたじゃん」
「だが、負けは負けだ。土壇場で大自然の女神を繰り出してくるとは、格が違う。まあ、大魔獣バハムを手に入れられなかったというのは心残りだがな」
「そのバハムっての強いの」
「最上級レアカードの中でも屈指の強さを誇るドラゴンだ。滅多に手に入らないから、レートでは数千円は下らないな」
一パック百五十円五枚入りのカードで、数千円の価値が出るなんて。まさしく、青い眼の白竜並みの暴挙だ。優勝賞品にするならふさわしいと評するしかない。
気になって壇上に飾ってあるメッキ加工されたカードを覗いてみる。炎をまき散らし、市街地を壊滅させている黒龍が描かれている。えっと、登場時にすべてのカードを破壊する。うん、強すぎるね。カードゲーム初心者でも出鱈目な効果だってことは分かる。
さて、いよいよ決勝戦だ。Lの相手は魁罵という少年。小生意気に帽子のつばを後ろ向きに被っている。
「決勝戦もLって子が楽勝かな」
「いや、そうとは限らんぞ。あの魁罵というガキ、カードゲームの大会で何度も優勝を成し遂げている強者らしい。いくらLとはいえ、そう簡単には勝てぬだろうな」
そうなんだ。ごく普通の性悪そうなガキんちょにしか見えないけど。
さっそく対戦が開始される。序盤から果敢に攻めるL。負けじと魁罵も小型モンスターを展開して攻勢をかけていく。速攻タイプ同士の戦いか。覇王のセオリーに則るなら、先に攻撃できる方が有利。つまり、先行の魁罵の方が優勢というわけだ。
しかし、Lは相手を上回るペースでモンスターを繰り出していく。あまりの勢いに、魁罵は対処するのに精いっぱいだ。
「やはりな。戦って分かったが、Lのデッキはアグロ。序盤重視だから、中途半端なミッドレンジだと逆にカモになるのだ」
「相手もそのアグロとかいうやつじゃないの」
「一見そう思えるかもしれぬが、ディフェンサーを交えているなど、後半戦を意識したカードも混在している。まあ、五、六ターン目が分かれ目だろうな」
うん、全然分かんない。高次元すぎて、カードゲーム初心者には付いていけません。
Lが優位に立ったまま、七ターン目を迎えた。魁罵の場にはモンスターがいない。残り一枚の手札を潰さんばかりに握っているだけだ。
「もっと楽しみたかったけど、もうおしまいかな。ぼくのターン、グレゴリアスドラゴン召還」
Lの切り札だ。三体のモンスターが揃っているので、速攻能力を得ている。そいつが出現した途端、魁罵は持っていた手札を叩きつけた。表になったのは一コストの雑魚モンスター。打つ手なしと認めた瞬間だった。
優勝を達成し、Lは意気揚々とバハムのカードを手にする。天才ゲーマーの名は伊達じゃなかったってわけか。
「うーん、惜しかったね。あ、でも、ぼくの第二の切り札を出させたあの子の方が歯ごたえがあったかな」
傷口に塩を塗ってどうするんですか。クソガキさんとはいえ、泣き出しそうになってるじゃん。
いや、様子がおかしい。たかがゲームに負けただけのはずなのに、激しく肩を震わせている。古風な表現だと、狐憑きに憑かれているかのようだ。悔しがるにしても大袈裟じゃないか。
「バハムが…バハムがないと、ダメなんだ」
あまりの衝撃に、机が揺れている。ただならぬ様相に、係員が介抱へと向かう。
「バハムをよこせぇぇぇ!!」
会場内に絶叫が木霊する。負け犬の遠吠え。それにしては鬼気迫っていた。
そして、異変はすぐに表面化することとなる。少年の全身が急成長していき、腕や背中に棘が生えてくる。ぐるぐる巻きの尻尾を打ち鳴らし、砲台のような口から激しく息を吹き鳴らしている。
オレンジ色の水棲生物に特有の鱗をきらめかしたそいつは、タツノオトシゴに瓜二つだった。いきなり怪物が現れるなんて、まさかダイカルアの仕業か。
「バハムは俺のものだ」
魁罵が変身した怪物は口から空気砲を撃ってくる。敷居を貫通し、虫食いのような穴を穿ってくる。壁を貫く空気砲って、あんなのを人間が受けたら大怪我は必至。最悪のケースだってありえる。
怪物が出現したことで、参加者たちは一斉に逃げ惑う。ボクたちも避難しなくちゃ。
「優輝氏、チャンスだぞ。この騒ぎだと魔法少女が出るやもしれぬ。できればヴァルダイヤモンドに会いたいが、来るだろうか」
覇王は観戦する気満々だ。まずいな。こいつがいたら変身できないよ。とっとと避難してくれないかな。
嘆いていると、覇王の脳天にチョップが叩き込まれた。うつらうつらしている覇王だけど、鬼の形相をした華怜と鉢合わせしてしまった。
「馬鹿な考え起こしてないで、さっさと逃げなさい。それとも、命を捨てたいの」
「うむ、ダイカルアの怪物より先に殺されそうな」
「何か言った」
「いえ、なんでもありません」
凄みに負けて、覇王はそそくさと退避していく。華怜、グッジョブだ。でも、冗談抜きで、抵抗していたらダイカルアの怪物より先に殺されていたかもな。
「ダイカルアの怪物が出たかバ」
「バンティー。あんた、どっからでも湧いて出てくるわよね」
「ダイカルアがあるところ俺っちありだバ。っていうか、ゴキブリみたいに言うのは止めてほしいバ」
本当にどっからでも出てくるよね。そもそも、どこに潜伏していたのやら。詮索すると後悔しかしなさそうだからやめておこう。
「あいつはシーホースカルアだバ。口からの空気砲には気を付けるバ」
「見れば分かるわよ。タツノオトシゴの英訳がそれだから、名前も察しがついたけどね」
渚先輩に冷静に突っ込まれる。ただ、悠長にバンティートコントをしている暇はなさそうだ。無差別射撃を続けるシーホースカルアのせいで、会場は壊滅寸前だったからだ。カードが欲しいだけでこんなひどいことをするなんて。いくら悪ガキだからって許さないぞ。
とはいえ、空気砲とやりあうなんて御免だし。なんて悶々としていると、華怜と渚先輩が進み出た。
「優輝、あなたは先に逃げてなさい。あいつは私が引き受ける。あなたは無意味に戦う必要はないわ」
「彼の者曰く、水属性に炎は効果はいまひとつってね。ならば、お姉さんがやるしかないでしょ」
「水に対して水も効果はいまひとつよ」
「炎をぶつけるよりはマシじゃない」
あの、何の話をしてるんですか。でも、二人の意図は把握した。下手に暴走してしまっては被害が広がる一方だ。ここは任せるとしよう。
ほとんど避難完了したために、人通りは皆無。再度衆目を確認し、華怜と渚先輩は同時に宝石を構える。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリールビィ!」
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーサファイア!」
発生と同時に二人の姿が魔法少女へと変貌する。いつになっても一瞬の早着替えに慣れることはない。ともかく、怪物を前に赤と青の二色の戦士が並び立ったわけだ。
バハムの元ネタは言わずもがなです。
グラブルのアニメでも1話で召還してましたよね。




