優輝、夢での邂逅
日がすっかり落ちてしまい、街灯だけが頼りとなる頃。ようやく自宅までたどり着いたボクはそのまま布団に直行した。穂波がせっかく作ってくれたハンバーグを食べられなかったのは申し訳なかった。でも、蓄積された疲労はひたすらに惰眠を求めていたのだ。
しばらくうつ伏せになっていると、自然に夢の中へと誘われる。まどろみの中、ボクの頬には温もりが感じられていた。すごく懐かしい。心地よいリズムで腰をさすられており、夢うつつを助長していた。
一体誰だろう。ボクはゆっくりと瞼を開ける。すると、柔和な笑みを浮かべた女性が視界に入った。顔立ちははっきりしない。でも、全くの他人というわけではなさそうだ。それどころか、とても親密な関係にありそうだ。
「優輝」
女性に呼びかけられる。どうして、ボクの名前を知っているんだ。疑問に思ったものの、口に出すことはなかった。彼女の顔がはっきりするにつれ、理由は自ずと明らかになったからだ。
ふんわりとカールさせた髪に、大人の女性にしては小柄な体躯。どことなく穂波と似ていたけれども、出るところは出ていて妙に扇情的だった。ぶっちゃけると、穂波が成長した姿といっても差し支えないかもしれない。
未来の穂波と対面している。夢の中だったらあり得ないことじゃないけど、はっきりと違うと分かっていた。彼女にはずっと前に対面したことがあったからだ。いや、対面なんて陳腐な言葉は使うべきじゃないかもしれない。
「あなたは苦悩しているようですね」
「どうして分かるんですか」
「あなたのことはお見通しよ」
微笑ながら小突かれる。額を押さえるけど、じんわりとした痛みが何故か心地よかった。
「あなたに課せられた使命は重大かもしれません。私にも責任の一端がありますし、軽々しく大丈夫というのは不謹慎というものでしょう」
「ボクの力のことが分かるのですか。これのせいで化け物に襲われそうになるし、おまけにボクが邪神の鍵だなんてトンチンカンなことを言われるし」
ついこぼれ出る愚痴。でも、女性は黙ってうなずいていた。それからも永遠と文句を吐き捨てたけど、女性は優しく聞き役に回るばかりだった。夢の中とはいえ、申し訳ないことをしたな。
ひとしきり怨嗟を吐くと、頭を撫でられた。
「担うには重すぎる使命があるかもしれません。できることなら放棄しても構わない、と言いたいところですが、そうにもいかないのです」
奈落へと突き落とされた心地だ。やっぱり、この力を捨てることはできないのか。
「おそらく、邪神の勢力も苛烈になっていくことでしょう。あなたも、あなたの大切な仲間も無事では済まないかもしれません。
でも、つらいことがあっても投げ出さないでください。あなたは自分で思っているほど弱い子じゃないんだから」
「でも、戦ったら邪神が復活するかもしれないんだよ。なのに、頑張れだなんて」
「確かに、あなたの闘争心が奴の餌となりうるかもしれません。しかし、よく考えてごらんなさい。あなたにとって最も絶望しうることを。つい最近にも味わいかけたでしょ」
柔らかな顔立ちには似つかない、きつい追及だった。けれども、ボクは胸によく染みていた。
ボクが馬鹿な思い付きをしたせいで、大切な者を失いかけたじゃないか。もちろん、痛いのは嫌だ。戦って傷ついたり、誰かを傷つけたりするのは嫌だ。
でも、ボクが臆病だったせいで、守れるはずだったものを守れない方がもっと嫌だ。
握りこぶしを握っていると、女性は力強く肩を叩いた。
「もし、挫けそうになったら思い出して。私はあなたの傍にいるってことを」
踵を返すと、女性の体は天へと昇っていく。「待って」と声をあげるものの、吹き付ける突風が無情にも打ち消していく。想いを届けようとしても、すさまじい風圧を防ぐのに精いっぱいだ。
それでも、ボクは腹の底から叫んだ。
「母さん!!」
遥か天空へと旅立ってしまった彼女に聞こえていたかどうかは分からない。でも、振り向いてくれたような気がしたんだ。ボクは高々と右手を突き上げると、再び眩い光に直面するのだった。
目覚めた時、すぐそばにあったのはパンツだった。おかしいことを言ってるって。いや、どっからどうみてもパンツだ。ただし、全身をボッコボコに殴られたコウモリがおまけで付いていたけど。
「やっと目を覚ましたバか。それなのになぜ目を合わせやしないんだバ」
「朝っぱら珍妙な格好のコウモリを見たくないからだよ」
朝どころか、前前前世から見たくないよ。色々とツッコみどころはあるけど、まず言わせてもらいたい。
「どうしてパンツなんか被ってるの」
「ダイカルアの怪物が出たってルビィに知らせに行ったついでにパンツを盗んだらこうなったバ」
「後半部分が余計だよね。って、そのパンツってまさか」
事実を知って、ボクは慌てて枕に顔をうずめる。昔から変わらずピンクが好きだなって感慨している場合じゃない。凝視してたなんて知られたら、さすがにボクの命も危ないよ。
それよりも、重要なことを口走っていなかったか。
「まさか、こんな朝からダイカルアが出たの」
「早朝から騒いで人々の寝不足を誘い、絶望させるチキンカルアだバ」
はた迷惑すぎるでしょ、その怪物。
「ルビィに伝えたら『学校前の運動にちょうどいい』って急行していったんだバ」
「朝の六時から元気だな、華怜」
「でも、強敵だったらルビィだけじゃ危ないバ。できれば君にも手伝ってほしいバ」
懇願されるけど、恰好がアホなせいで説得力がない。
「とはいえ、昨日のことがあったばかりだバ。嫌なら無理しなくてもいいバ」
お笑い系の怪物っぽくて実は違うってパターンも有り得る。変身すると、また変な声に苦悩させられそうだし。
だから、バンティーをも無視して惰眠を貪ろうとした。でも、ふと夢の中の言葉がよぎったんだ。もし、華怜が馬鹿な野郎にやられることがあるなんて。
ボクは布団を蹴飛ばすと、ポケットの中のダイヤモンドを握りしめた。昨日帰ってきた時のままの恰好だから、そのまま飛び出しても支障はない。
「バンティー。チキンカルアが出たのはどこ」
「やる気かバ。意外だったバ。やはり、俺っちの目に狂いはなかったんだバ」
「いいから教えて」
「こりゃ失礼。えっと、商店街だバ」
案外近いな。ボクは箪笥の上に飾ってある家族写真を一瞥する。五年以上前に四人で旅行に出かけた時に撮ったものだ。
穂波をおんぶし、ボクの頭を撫でている女性。彼女へと一礼すると、ボクは部屋を飛び出すのであった。ボクはできれば戦いたくない。でも、誰かが涙するなら容赦はしないんだからね。
次回予告
次からは第二クールだね。やっとクロコダイルカルアを倒したと思ったら、また敵が出てくるのか。
最近ボクらの間で流行しているデュエルアンドウィザーズというカードゲーム。その大会で謎の天才ゲーマーと出会ったんだ。それだけならいいけど、ダイカルアのシーホースカルアまで出現する始末。
そんな時に登場したのは……まさか、第四の魔法少女!?
次回TS魔法少女は戦いたくない第六話「謎の天才ゲーマーと自由の戦士ヴァルエメラルド」




