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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第五話「優輝の苦悩! 逆襲のクロコダイルカルア!」
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クロコダイルカルアに鉄槌を

 ボクはちらりと真横を見遣る。あられもない姿を晒している華怜と渚先輩。魔法少女に関わらなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。クロコダイルカルアを倒すのももちろんだけど、彼女たちを救わなければ。

 そうだ、一時的ではあるが、魔力を消費させる方法がある。ボクはクロコダイルカルアを狙い撃ちするふりをして、両腕に魔力を集中させる。脳内の呪怨がひときわ激しく殲滅を唆す。お前なんかに従ってたまるか。

「覚悟を決めたか。ほら、撃てよ」

「お望みどおりにしてあげる……と、思ったか。ありがたき祝福よ! 彼の者たちに降り注げ! 全治全能オーラルリカルバリア

「て、てめえ!!」

 発動寸前に体をねじらせ、目標を華怜と渚先輩に変更する。もちろん、二人に止めを刺すなんて馬鹿な真似はしない。発動したのは回復魔法だ。


 柔らかな光が降り注ぎ、無残な傷跡を覆い隠していく。傷だけではなく、着ていた服まで修復されていくという万能さだ。ひとりでに治療されていく様は魔法としか言いようがなかった。

 効力が切れると、二人は同時に目を覚ました。そして、いきなり当惑しているようだった。無理もない。傷が完治しているうえ、磔にされているのだから。さすがに拘束している縄までは解除できなかったみたいだ。

「ちょっと、どうして縛られてるのよ。私が気絶している間に変な真似していないでしょうね」

「誰もチンチクリンのレンちゃんなんて弄らないわよ。まったく、お姉さんを縛るだなんていい趣味してるわ」

「あんたはその減らず口を一生縛られてなさい」

 復帰早々喧嘩している。うん、大丈夫そうだ。


「二人とも大丈夫」

 ボクは声掛けしながら縄を解く。固結びにしてあるせいで、四苦八苦する羽目になった。最後は魔法少女の力を利用して無理やり真っ二つに引きちぎったからな。


 全快した二人を前にクロコダイルカルアは唾を吐き捨てた。

「手駒を増やしやがったか。だが、雑魚を助けたところで意味ねえぞ。そんなまどろっこしいことしてねえで、さっさとかかってきやがれ」

「敵に塩を送るのも癪だけど、私たちを助けるよりも先にあいつを倒した方が効率的だったんじゃないの」

「だって、倒した後に魔力切れになって二人を助けられなくなるのが嫌だったからさ」

「まあ、優輝らしい考えじゃない」

 華怜は破顔するとボクの前に躍り出た。


「クロコダイルカルア。復活したからには、今度こそあんたを倒すんだからね」

 威勢よく宣戦布告する。クロコダイルカルアはつまらなそうに吐き捨てた。

「雑魚には用はねえんだよ。本気で殺されたいんなら、一向にかまわないんだぜ」

「彼の者曰く、雑魚と侮ると寝首を掻かれるってね。泣きを見るのはあなたの方よ」

 華怜に続いて渚先輩も臨戦態勢に入る。二人とも宝石を構えてやる気満々だ。


 そんな二人を制してボクはクロコダイルカルアに立ちふさがる。

「気持ちは分かるけど、ここはボクに任せて。回復したばかりで本調子じゃないでしょ。あいつは万全じゃないと敵う相手じゃないよ」

「いいえ、もうやれるわ。優輝こそ下がってて。この私が……」

「いや、サキちゃんの言う通りよ」

 いきりたっている華怜を渚先輩が諌めた。不満を顕わに頬を膨らませるけど、先輩は華怜の肩に手を置いた。

「全力で攻撃すれば勝てるのは必定。あえて私たちを回復したってことは、サキちゃんにも作戦があるのよ。ならば、任せてみるのが筋じゃない」

 理論的に解説されれば言う通りなんだけど、単にあいつを殺さない程度に魔力を調整したかったんだよね。華怜は加勢したくてうずうずしていたが、渋りつつも後方待機を選んだ。


「結局はお前ひとりが相手か。仲間を助けるなんて悠長な真似をしやがったからな。俺様とてもう容赦はしねえぜ。俺様を倒すつもりがねえのなら、てめえを半殺しにして無理やり秘密を暴くまでだ」

 例の奇声とともにチェンソーをかざす。ボクとて、これ以上手加減はできない。頭の中の声に従うのは癪だけど、鉄槌を下す時が来た。


 相手をおちょくってしまったがため、クロコダイルカルアは遠慮なしに差し迫って来る。気を抜けばチェンソーの餌食になってしまうため、悠長に魔力を溜めることができない。さっき素直に魔法を撃てばよかったなんて後の祭りだ。

 気もそぞろになっているだけ、幾分威力は落ちてしまう。おまけに、ちょこまかと動き回る相手に命中させるのも難しい。

「ギャッハーッ! 逃げ回ってばかりじゃねえか。今更命乞いしたって許さねえぜ」

 光線を撃つという先入観からか距離を置こうとする。でも、クロコダイルカルアはすぐに追いついてくる。ならば、逆をいけばどうだろう。相当怖いけど、やってみるしかない。幸い、あの魔法を放てるだけの力は十分に込められている。


 耳を澄まさないでも自然に響く機械音。ボクは耳はおろかすべての感覚を遮断するように目を閉じる。そして、思い切って前へ踏み出したのだ。

 接近戦を得意とする相手に、盲目のまま突撃するなんて愚行の極みであった。どう考えても自殺行為だし。でも、結果的に相手の虚を突くことができたのが功を奏した。第六感というべきか、頭の中の悪魔の囁きというべきか、無意識のまま呪文を詠唱した。

「穢れし者よ! 邪悪なる意思を悔い改めよ! 悪行退散セイバーダクネロンド

 集中させた魔力を破壊光線へと転換して一気に放出する。遠距離で放つべき魔法を至近距離で発動しているのだ。まともに受ければひとたまりもあるまい。


 実際、クロコダイルカルアはガマが潰れたようなうめき声を発しつつ、ステージの柱へと直進していく。光線の勢いにより圧殺されそうだ。

「冗談じゃねえ。あっさりやられてたまるかよ。集約せし祈りよ! 我が身に祝福をもたらせ! 魔壁招来マテリアルリカルバリア

 咄嗟に防御の魔法を唱える。ルビィの全力の攻撃を阻止した一手だ。しかも、チェンソーを盾にするという熱の入れよう。さすがにボクの魔法でも無理か。


 いや、押している。クロコダイルカルアは全力で堪えようとしているようだが、体は着実に柱へと向かっているのだ。

「おいおいおい、嘘だろ」

 奴の顔から余裕が消え去った。ボクの仲間を散々痛めつけた報いだ。命までは取らないからたっぷり反省してくれ。


 爆音とともにやつは柱へと突撃する。真っ二つに崩落したことで、ステージ自体も壊滅しようとしている。ボクは華怜と渚先輩を抱きかかえると、すぐさま地面へと飛び降りた。避難が完了したのと、ステージが破壊されたのとは紙一重であった。派手に器物破損しちゃったし、さすがにクロコダイルカルアは無事ではいられないだろう。

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