ヴァルダイヤモンド再始動
過去の話を一部加筆修正しています。編修マークが付いているのが該当部分です。
ちなみに、春の覇権アニメはどう考えても「ツインエンジェルBREAK」だろ。異論は認める。
ロックフェスの会場で繰り広げられていたのは地獄絵図だった。会場に残っていた人々が軒並みバグカルアに変えられてしまっている。おそらくというか、十中八九クロコダイルカルアの魔法のせいだ。
「これはひどいわね。あのワニ、対抗する魔法少女がいないからってやりたい放題やっているわ」
「華怜は、華怜はどうなったんだ」
壇上へ向かおうにも、群れを成すバグカルアが邪魔をする。渚先輩は変身することができない。ならば、ボクがや……。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーサファイア!」
え、ちょっと。先輩、何してるんですか。止めに入る間もなく、先輩の全身は光に包まれていく。まばゆさに顔を背けているうちに、先輩はヴァルサファイアへと変身を遂げていた。
「レンちゃんばかり頑張らせちゃ、先輩として立つ瀬がないからね。彼の者曰く、後輩のためにお膳立てするのも先輩の役目というでしょ」
「いや、そういうのは後輩の仕事なんじゃ」
「ま、お姉さんに任せておきなさい。さすがに再変身するときついけど、このくらいどうってことないわ。身も凍りつかせる氷河よ! 刃となりて悪しきを討て! 鋭閃絶氷」
つららを発生させると、バグカルアの群れへと一直線に投げつけた。その軌道がそのまま、クロコダイルカルアへの道となる。先輩の意図を察し、ボクはまっしぐらに走り出した。
「後は頼んだわよ、サキちゃん」
一瞬振り返ると、強制変身解除された先輩が力なくへたり込んでいた。先輩が決死の覚悟で作ってくれたチャンスだ。絶対に無駄にはしない。ボクは脇目も振らず、ステージへと全速力で向かっていった。
「ギャッハーッ! まだバグカルアになってねえやつがいたか」
ステージ上で睥睨されたボクは、クロコダイルカルアから罵声を浴びせられた。全力で走った直後で胸が苦しかったけど、面には出さないように顔を引き締めた。
「クロコダイルカルア。華怜はどうしたんだ。それに、会場のみんなをバグカルアにするなんて、許さないぞ」
「正義の味方ごっこか。てめえが粋がっても怖くねえぜ」
「質問に答えて」
必死の剣幕に圧されたか、クロコダイルカルアは苦虫を噛み潰したような顔をする。後に鼻息を鳴らすと、ある一点を指差した。
会場の支柱に誰かが磔にされている。着ていた衣服はほとんどが破れ、半裸どころか全裸に近い。かろうじて局部が隠されているぐらいだ。
煽情的な光景以上に、肢体に刻まれた傷に言葉を失った。そして、追い打ちをかけたのは、無残な姿を晒している者の正体だ。
「華怜。まさか……」
「殺しちゃいねえよ。まあ、変身のし過ぎで勝手に死にそうになったけどな。前も言ったが、こいつは入信させればさぞかし強力な怪物になり得る。ダイカルアの戦力増強も司教としての役目だからな。おっと、こいつもいい素材になりそうだな」
華怜の横に新たなる犠牲者が並べられる。泥と生傷で汚された長身の少女。
「渚先輩!」
先輩まで捕まってしまったのか。ボクはダイヤモンドを握る手に一層の力を籠める。
「優輝、今更何をしに来たんだバ」
上空より飛来してきたコウモリにどつかれる。突然の暴力に抗議しようとしたが、考えてもみれば糾弾されても仕方ないことをしているんだ。ボクは甘んじて項垂れる。
「ごめん、バンティー。戦うことが嫌でバカなことをしちゃった。でも、もう大丈夫。ボクがみんなを救ってみせる」
「トチ狂ったかバ。君には戦う力はないはずだバ」
「ギャッハーッ! コウモリの言う通りだぜ。てめえはさっさとバグカルアにしちまうか」
これ見よがしにチェンソーを突き立てる。みんな、ボクを舐めているな。ならば、本気を出すまでだ。
ボクは先ほど発見したダイヤモンドを高々と掲げた。照明を浴びて輝く宝石にその場の誰もが瞠目しただろう。
「バ!? いつの間にダイヤモンドを取り戻したんだバ」
「おいおい、まさか、てめえが正体なのかよ」
「クロコダイルカルア。いくらボクでも怒るときは怒るんだからね。華怜や渚先輩、みんなをひどい目に遭わせたんだ。お仕置きさせてもらうよ」
場のノリで変身ヒーローよろしくポーズを取る。心意義に呼応するかのように、ダイヤモンドがひときわ眩い輝きを放った。
「アーネストレリーズ! ミラクルジュエリーダイヤモンド!」
変身の呪文とともに、衣服がはじけ飛ぶ。白銀の衣装をまとい、グローブとブーツが装着される。胸にある大きなリボンにダイヤモンドが収まり、一回転するとともにスカートが翻る。
「清廉潔白! 我、すべてを統べる戦士! ヴァルダイヤモンド!!」
雄々しく名乗りをあげると、クロコダイルカルアはにやりと牙を剥き出しにした。チェンソーを担ぎ、ステージから飛び降りてくる。
「ようやく現れやがったな、ヴァルダイヤモンド。てめえを葬り去れる日をずっと待ってたぜ」
言うが早いかチェンソーを構え、起動させる。嫌な轟音に足がすくんでしまう。魔法少女の加護で死ぬことはないと悟ってはいても、本能的な恐怖に抗うのは難しい。
でも、逃げるわけにはいかないんだ。華怜や先輩にひどいことをした奴を放っておくなんて、それこそ男の沽券に係わる。
ボクは頬を叩くと、なけなしのファイティングポーズを取る。すると、その時だった。
「コロセ、ヤツザキニセヨ、センメツセヨ」
例の声が脳内を支配する。折角構えたのに、片頭痛を堪えるかのように片手をつむじに当てる。くそ、なんなんだよこの声は。懲らしめたいとは思っているけど、殺すつもりはないんだってば。
苦悩していると、クロコダイルカルアは鼻息を鳴らした。
「おい、てめえ。もしかして変な声が聞こえていねえか」
「ど、どうして分かるの」
「図星かよ。っていうか、前にも幻聴がするって俺様に訴えてきてただろ」
そういえば、クロコダイルカルアと初対面した際にそんなことを言った覚えがある。もしかして、この声について知っていることがあるのか。
「大司教が気にかけていたみてえだが、本当に当たりかどうかは俺様が直に確かめるしかねえな。別に難しいことをするつもりはねえ。単にてめえをぶっ倒してみれば分かる話だ」
素直に教えてもらえそうもない。しかも、クロコダイルカルアは本気を示すかのように、これ見よがしにチェンソーを唸らせてくる。接触している地面が徐々に削り取られていく。
すぐにも逃げ出したいけど、「コロセ」という声に苛まれて及び足になってしまう。おまけに、抗戦の合図と受け止められたのか、クロコダイルカルアはチェンソーを持ち上げてきた。じりじりと迫る恐怖の刃。もはや、敵前逃亡なんてできそうもない。
腹をくくったボクは咄嗟に頭に浮かんだ呪文を唱えた。
「刃向いし魔力よ! あるべき地に帰せよ! 鏡映魔射」
奇声とともにチェンソーが振り下ろされる。だが、ボクの目前に展開された光の壁により、肉体に到達するより前に刃は跳ね返される。証拠に、クロコダイルカルアの胸に一直線の傷が走る。相手の攻撃をそのまま反射する魔法だ。よし、出だしは上々だぞ。
「前も使ってきたバリアの魔法か。防御出来て安心とか思ってんなら甘いぜ」
反射されると了解してもなお、クロコダイルカルアはチェンソーを振るってくる。光の壁に阻まれているうえ、一裂きする度に胸に亀裂ができている。あまりにも無駄な連撃。早くも万策尽きたかな。
いや、違う。矢継ぎ早に繰り出される斬撃により、壁が綻び始めている。まさか、あいつ、力任せに壁を崩落させるつもりか。
嫌な予感は的中した。自らが傷つくのも厭わず猛襲されたせいで、光の壁は音を立てて崩れ去っていく。流血しているにも関わらず、クロコダイルカルアは狂喜の雄たけびをあげている。なんてやつだ、無理やりバリアを突き破って来るなんて。
自ら壁を解除し、相手と距離を置く。確実にダメージを与えているものの、バリア一辺倒の戦法は通じなさそうだ。もっと他に方法はないのか。
「ジュウリンセヨ、ネダヤシニセヨ」
頭の中の声が強くなっていくと同時に、勝手に右手に魔力が集中されていく。あの魔法だけはダメだ。力任せに放ったら、あいつを完膚なきまでに粉砕してしまいそうだ。確かにあいつは憎むべき敵だけど、殺すなんてもってのほかだ。どうにか降参させないと。
「ブチノメセ」
意思とは裏腹に、謎の声は相手の殲滅を呼び掛けている。気を抜くと、ボクの右手が勝手に破壊光線を放ちそうだ。どうにか別の魔法にエネルギーを転換するんだ。
苦心していると、クロコダイルカルアがチェンソーを突き立てて指を指した。
「また変な声に悩まされてるってか」
「君もエスパーなの。どうしてそんなこと分かるんだよ」
「てめえに教える義理はねえな。変に抵抗して弱っちくなってもつまらん。さっさとてめえの全力魔法を撃って来いよ」
大手を広げて挑発してくる。こういうのって、どこかに罠があるはずなんだ。撃ったが最後、反射されてこっちが大ダメージを受けるとか。
でも、あの脳筋野郎が姑息な作戦を使ってくるかな。本当に無策かもしれないし。それに、あいつに対して躊躇する理由なんて本来はないはずだ。ならば、遠慮なく撃ってもいいような。
いや、ダメだ。お仕置きで手加減して撃つならまだしも、本気で殺すなんて御法度だ。どうにかして標的を逸らさないと。




