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TS魔法少女は戦いたくない  作者: 橋比呂コー
第三話「噂の魔法少女は誰? 威光の戦士ヴァルサファイア」
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渚先輩

 二人に任せきりだと大変な目に遭う。ボクもまた手を回しておかないとな。とはいえ、頼れるのはあの人しかいないけど。

 放課後、ボクが訪れたのは校舎三階の外れにある教室だった。普段は空き教室になっていて、特別授業の時ぐらいしか使われることがない。ただ、授業が終わった後はとある部活の活動拠点となっていた。


 扉をノックすると、「どうぞ」と返答がある。先輩は既に来ているのか。ならばちょうどいい。

「お、サキちゃん。今日も出勤ご苦労さん」

「先輩、そのサキちゃんって呼び方やめてください」

「いいじゃないの、可愛いんだし」

 長い髪を三つ編みサイドポニーにし、眼鏡をかけた長身でスレンダーな中学三年生の先輩。たわわに実る胸の双房は嫌が上でも年上の女の子ということを意識させられた。彼女の名は美波渚みなみなぎさ。ボクが所属するボランティア部の先輩にして部長だ。


 ボランティア部というと相当珍しい部活だと思う。この中学に来てから初めて知ったもん。誰が作ったかは定かではないが、学校生活のみならず地域社会を円滑に進めるため諸活動に勤しむ部だという。まあ、早い話が何でも屋ってことかな。花壇の整理とか地域の清掃活動の参加とか色々やったっけ。

 そもそも、ボクの通う中学ってやたらと部活動が充実してるんだよね。道場を構えて剣道部と柔道部を設けているって時点でも珍しいと思うよ。


 普段依頼がない時は、精神的教養の促進とかいう名目で読書にふけったりしている。ちょうど渚先輩も小説を読んでいたところだった。「糞くらえブラック企業」って中学生が読むような内容じゃなさそうだけど。

「今日も依頼は無さそうだから暇つぶししていたところよ。サキちゃんも読む?」

「あまり面白くなさそうだから遠慮しておきます。それよりも、サキちゃんって呼び方どうにかなりませんか」

「いいじゃないの。くれはま さきでサキちゃんでしょ」

「くれは まさきですから」

 自己紹介の時にきちんと名乗ったにも関わらず、先輩はなぜかサキちゃんって呼んでくるんだよな。女の子すぎてあまり好きじゃない。


「またボクと先輩だけしか来ていませんか」

「そうなのよ。メインの活動が不定期だからって、他の部員は軒並み幽霊だし。大丈夫なのかしら、この部。まあ、真面目に出席してる私とサキちゃんは偉いってことで」

 ちなみに幽霊部員のうちの一人は覇王だったりする。「我には世界を救う義務がある」とろくに顔を出さない。大義名分掲げてネトゲやってるだけだと思うけど。


 二人しかいないというのならむしろ都合がいい。その辺に置いてあった小説のページを適当にめくりながら先輩の様子を窺う。椅子にもたれて足を組み読書に執心している。その様はさながら絵画のようだった。

 つい見とれてしまっていると、「ん? 何か用」と声をかけられた。ボクは慌てて小説へと目を落としてしまう。もちろん、内容なんて全然頭に入ってこなかった。

「小説版魔女の宅急便。随分可愛らしいの読んでるわね」

「たまたまですよ」

 誰の趣味かは知らないけど、ジブリ映画の原作本が全巻揃ってるんだよね。それはともかく、いい口実ができたぞ。


「魔女で思い出したんですけど、最近この町によく魔法少女が出ているみたいですね。先輩はご存じないですか」

「知ってるわよ。ヴァルダイヤモンドとかが話題になってるらしいじゃない。ショッピングモールの怪物を瞬殺したって」

 ボクのことなんですけどね。言葉に詰まるが怪しまれるといけないので、どうにか話題を展開させる。

「他にもいるじゃないですか。例えば、そう、ヴァルサファイアとか」

 渚先輩の眉が動いた。読みかけの小説を閉じると、足を組み替える。先輩がやると滅茶苦茶扇情的だからやめてくれないかな。


「ボクのクラスでも騒がれていましたよ。颯爽とダイカルアの怪物を倒す正体不明の青い魔法少女がいるって」

「へえ、そうなんだ。まったく、正体は誰でしょうね」

 あれ? まるで他人事のようだぞ。

「先輩は正体を知らないんですか」

「知る訳ないじゃない。暇なマスコミが血眼になっても暴けていないのよ。一介の中学生が探索できますか」

「無理ですよね」

 外れなのかな。なんとなく先輩だったら有益な情報を掴んでいるって予想していたんだけど。


「魔法少女の正体を探る時間があったら勉強にでも励んだら。そっちの方が余程有益よ」

 最後に釘を刺されてしまった。先輩が言うと説得力がありすぎる。国語学年一位とか取ってたからな。成績面では雲上人だよ。

「さて、この本も読み終わったし、次の本でも読むかな」

 読み終わるの早いな。厚みから四百ページは優に超えていそうなのに。教室の脇に立てかけられている本棚に読んでいた本を戻し、最上部に位置する別の本を取ろうとする。長身の彼女でも背伸びをしないと届かないため、乱雑に陳列されている。そのため、うっかり指を滑らせたりすると悲劇が起きる。

「ひゃん」

 可愛らしい悲鳴が響いたので、うっかり本を閉じる。やばい、しおりを挟んでいなかった。って、そんなのはどうでもいい。


 本棚の前で頭を抱えてうずくまる渚先輩。傍には開かれた二、三冊の本。どうやら頭に小説を直撃させてしまったようだ。ボクもたまにやるけど、先輩は二日前にも同じ失敗を犯していませんでしたが。

 ふと、視線を下ろすとボクは慌てて目を逸らす。とっさに体操座りをしていたせいか、股の間から白い布切れが丸見えになっていたのだ。

 ボクが挙動不審になっていると、

「あー、サキちゃん、今パンツ見たでしょ」

 渚先輩はすぐさま立ち上がろうとする。だが、急に動いたのが運の尽きだった。

「きゃひぃ」

 またも可愛らしい悲鳴を上げる。つんのめった挙句、机の角に膝をぶつけてしまったのだ。悶絶している先輩。なにかとどんくさい一面があるからな。凛として去っていったヴァルサファイアとは似ても似つかないよ。ボクが手を差し伸べると、「すまないわね、サキちゃん」と照れ臭そうに腰をあげた。とりあえず、二回もパンツを見てしまったことは黙っておこう。バンティーのせいで余計なことに意識を割いちゃったじゃないか。

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