恐怖のチャーシューカルア(笑)
時は巡り巡ってまたも週末がやってきた。奇しくも一週間前と同じ公園に来ている。犯人は現場に戻るって理論かな。それだけだったらボクも特に言うことはないよ。でもさ、どうしても覇王に文句を言わなくちゃ気が済まない。
「どうしてこうなった」
最初に言っておく。ボクは男だ。股についているアレは飾りではない。なのに、膝丈のワンピースに麦わら帽子、そしてハイヒールという女の子然とした恰好をさせられていた。
「我が最高の作戦。これならヴァルサファイアもやってくるだろう」
「ねえ、色々とツッコんでいい」
誇らしげに鼻息を鳴らしているのは豚だった。うん、豚だね。だって豚耳カチューシャとマントを装備し、手には歯医者さんのポスターに描かれているばい菌がよく持っているフォークを持っていたのだ。
「よく豚耳カチューシャなんて持ってたよね」
「アマゾンで大抵のものは揃うぞ。エロゲーとか」
中学生がそんなの買っちゃいけません。
「何かの役に立つと思って買っておいたが、まさか陽の光を浴びる時が来るとはな」
さりげなくキュアサンシャインが変身する時のポーズの真似をしないでもらえますか。
コスプレグッズを揃えるぐらい気合が入っているのだろう。だから、なおさら気になった。
「鼻はどうにかならなかったの」
覇王の鼻には紙コップの底辺にマジックで縦線が二本描かれ、それを輪ゴムでマスクみたいにつけられるようにしたものが装着されていたのだ。他が既製品でクオリティーが高くても、鼻のせいで台無しにしてしまっている。
まあ、覇王の恰好なんかどうだっていいや。一番の問題は、
「ボクが女装する必要性皆無だよね」
「いいや、大ありだぞ」
ないじゃん。ただでさえヴァルダイヤモンドに変身するときに女体化するのに、普段でも女装しなくちゃならないのさ。
「か弱い女の子をいじめるダイカルアの悪人チャーシューカルア。そんな怪物をやっつけに来たヴァルサファイアを総出で捕まえる。うん、我ながら完璧な作戦だ」
作戦自体に文句を言うつもりはないよ。ないけど、
「やっぱりどう考えても女装する必要性ないじゃん」
「何を言うか。野郎が『助けて』と喚いても華がないだろ」
真顔で断言しないでもらえますか。大体、か弱い女の子なら適任がいるはずなのに。
残された作戦要員は木の陰から決定的瞬間を狙っている。ベレー帽に伊達眼鏡、そして膝まで隠すトレンチコートと恰好からして探偵のようだ。「いざとなったら腕時計に仕組んだ麻酔針で抹殺するわ」って意気込んでたけど、それは「あれれ~おかしいぞ~」って言ってる頭脳は大人な小学生だから。あと、麻酔針なんて仕込んでないし、殺傷能力もありません。
ボクがワンピースの裾を抑えていると、携帯電話で写メを撮って愉悦しているし。第一、ボクのコスプレ(?)を目にした第一印象が「なんで私より女の子っぽいのよ」っていうお怒りの言葉だったからな。でも、華怜の探偵姿も可愛いと思うよ。もちろん、探偵服も覇王の自前なのは言うまでもない。
「さっそく作戦を始めるぞ。少女よ、我がチャーシューカルアの魔の手に堕ちるがいい」
「え、えっと、きゃあ、助けて」
ノリノリな覇王だけど、乗気じゃないボクは棒読みで答えておいた。
「もっと熱を込めるのだ。じゃないとサファイアはやってこぬぞ」
「だって、女声出すのけっこう恥ずかしいんだよ」
おまけに覇王の中途半端なコスプレも相まって、幼稚園のお遊戯会をやっている気分になる。通行人から白い目で蔑まされ続けて、気分はゲンナリだよ。
「助けを乞うても無駄だぞ。じっくりと痛めつけてやる」
「誰か、誰か助けてぇ」
「ママー、あのお兄ちゃんたち変だよ」
「見ちゃいけません」
幼稚園児に指を指された上、母親によって釘を刺されてしまう。リアルに「見ちゃいけません」をされる日が来るとは。だって、ボクたち完全に不審者じゃん。
おまけに、ハイヒールなんて履いているもんだから足元がおぼつかない。コスプレ用にかかとを無駄に高くしているせいで、滅茶苦茶履きにくい。ちょっとバランスを崩したら派手にすっころびそうだ。大人の女性はよくこんなものを履いて町中を歩けるよね。正直、立っているのに神経を集中しすぎて演技どころじゃない。覇王のやつ、絶対にチョイスを間違えてるよね。
泣き面に蜂というか、ボクを更なる試練が襲った。今日はそこそこ風が強く、麦わら帽子がなびき、流されそうになっていた。帽子のつばを必死に抑えていたけど、神経を上にばかり集中させていたのがまずかった。いたずらな風はボクの下半身を吹き抜けていったのだ。
「きゃん!」
どっから出したんだろうという甲高い声を出し、ボクは咄嗟に裾を抑える。危なかった。危うくトランクスを晒すところだったよ。覇王が女性もののパンティーを穿かせようとしていたけど、それだけは断固拒否した。
ふと確信犯を見遣ると、なぜだか鼻血を出していた。あれ、どうした。暑さにやられるなら時期尚早だぞ。
「萌え~。パンチラハプニングとかマジでごちそうさまです」
「ねえ、いい加減着替えるよ」
正直無駄だよね。いくら演技しても全然サファイアはやってこないし。陳腐な劇を晒したうえ、自前のトランクスまで晒しそうになるなんてまさに踏んだり蹴ったりだった。
このまま無意味なお遊戯会を続けなくてはならないのかな。ゲンナリとしてきたまさにその時だった。
「ダイカルアの怪物が出たぞ」
遠方から男性の声が響く。まさか、チャーシューカルアのことじゃないよね。こいつは怪物というかただの変質者だけど。警察に通報されなかったのが奇跡だ。
うわ言かと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。ドスドスと重たい足音を響かせ、典型的なメタボ体型の怪物が迫ってくる。全身ピンクでカールした短い尻尾を揺らし、ギットギトに脂ぎっている。そして、鼻が正真正銘の見事な豚鼻だった。




