表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

エピローグ

 そう、その日はまだそれで終わりじゃなかった。

 榊を負ぶって自宅マンションに戻って来たまでは良かったんだが、彼女を降ろして鍵を開けようとすると逆に鍵がかかったのだ。

「……?」

 すると中から錠が開く音がして。

「おっかえりー!! 冬馬君!」

 なんて、歳に似合わずハイテンションに母さんが抱きついて出迎えたのだ。

「ぐへ! か、母さん!? なんで帰って来てんだよ!?」

「えー、だって昨日電話したら冬馬君元気なかったからー、心配になってエジプトから舞い戻ったのよー……ってどうしたの!? なんかボロボロじゃない?」

 と、エジプトの服なのかよく分からないものを着ているエキゾチックな母さんは、俺の制服のぼろぼろさに目を留めたあと、

「へ!?」

 俺の後ろにいた榊に気がついた。

「え!? え!? ちょっと冬馬君、彼女、彼女!? いつの間に!?」

 振り返ると榊が『しまった』という顔で俺を見ていた。

 アイコンタクトによると

『申し訳ありません冬馬様。何分急いでこちらに来たもので、いつもの術をかけるのを忘れていました』

 とのこと。

「い、いらっしゃい! 冬馬の母です。ささ、どうぞどうぞ……お父さーん! お茶淹れてお茶ー! 冬馬君の彼女が来てるのーー!」

 なんて大声で母さんは叫びだした。

「は!? 父さんまで帰ってきてるのか!? ていうか母さん、声落とさないと近所に聞こえるって!」

 しかし既に遅かった。

 向かって右のドアが少しばかり開くと、そこから例の世話焼きのおばさんとその息子の圭介君らしき4つの目がこちらを見つめていたのだ。

 ――終わった……。




 自分のぼろぼろさについては放課後外で遊んでいて転んだんだとか適当に誤魔化した。

 あと榊の魔界の服に関しては、父さん母さん自身がエキゾチックな格好をしていたしそういうものを見慣れているせいか、2人は何も突っ込まなかった(流石に血はとっさに何かの術で隠したようだった)。


 夕飯はまあ、当初の狙い通り母さん手製のパスタだったわけだが、榊が帰ったあとの2人の追求がとてもしつこかった。

「ああ……知らない間に冬馬君に彼女が……。でも礼儀正しくて良い子だったわね、ねえお父さん?」

 母さんがお茶を淹れつつそう言った。

 榊に好印象を抱いてくれたならそれはこちらとしても嬉しいことだが。

「そうだなあ。冬馬、どうやって落としたんだあんな綺麗な子」

「え、いや、落とすとか! まだそんなんじゃないんだけど……」

「え? そうなの? うっそだー」

 なんて楽しんでいる両親。


 この2人はいつもこんな感じで、温かい。

 俺はここの子になれたことを本当に幸せだと思っている。


「でも冬馬君、元気そうで良かったわ」

「そうだそうだ。お前が昨日『冬馬が死にそうな声してた』なんて言うから慌てたぞ」

 2人は口々にそう言った。

「……俺、そんなに元気なかった?」

 自覚していなかったので少し驚いた。

 というより昨日の電話の内容自体、あまり覚えていないから抜け殻状態だったんだろうか?

「なかったなかった。でもなんだか今日はすごく元気そうだけど……ははーん、今日は日出さんのことで絶好調なわけだ」

 母さんはいたずらに笑う。

「だからそういうんじゃないって!」

 ……図星過ぎて反発するしかなかった。

 すると父さんが軽く笑って、

「まあ元気そうで何よりだ。どうだ、やっぱり1人暮らしはきついか?」

 それとなく、けれど一番訊きたかったんだろうことを尋ねてきた。

 そのあからさまさに俺はちょっと笑いつつも

「……そうだな……。やっぱりちょっと、寂しかったよ」

 やっと、そう言えた。






 それから1週間。

 父さんと母さんは俺に気を遣ってかすぐにはエジプトに戻らず、しばらく滞在していたが、とある大発見の一報で父さんは戻ることになった。母さんは、いっそのこと家族みんなで向こうに行こうなんて言ってくれたけど、俺はせっかく通い始めた高校だからと言って断った。

 じゃあ母さんがこっちに残ろうか、とも言ってくれたけど、母さんも向こうで色々成果を上げているらしく、勿体無いから行ってこいと、俺は強引に勧めた。


 少し寂しいけど、やっぱり強がってるけど。

 今回は自分に嘘はついていない。

 それでちょっとは、胸が張れた。




 ……で、彼女の方はというと。

 なすべきことは吉田の在籍記録をうまく誤魔化す事後処理だけだったので、1週間程度で片がついてしまったようだ。

 ところで俺が氷づけにしてしまったその吉田だが、向こうで洗いざらい喋ったらしい。

 それをもとにして魔王が死神一族の事件を調べ直しているんだとか。

 長老が総入れ替えになるのも時間の問題かもしれないと、榊はどこか嬉しそうだった。




 そして、放課後の教室。

 暁に染まるその場所で、俺は彼女と並んで空を見ていた。

「……そっか。今日、帰るのか……」

 分かりきっていたことだが、実際目前にすると未練がましくなる。

「はい。そのことに関してなのですが、冬馬様」

「……ん?」

 今日でお別れだっていうのに、榊はいつもと変わらないなあと少ししょげつつ、俺は心ここにあらずな感じで彼女の言葉を聞いていた。

「また、こちらに来ようと思っているのです」

「……そうか……」

 またこちらに来るのか……。


「…………て、え!?」


 彼女が微笑んだ。

「今日は一旦魔界へ帰りますが、またすぐここに戻ってこようと思っているのです。今や私の赤誓鎌の契約主は貴方ですから、貴方の傍に控えていなければ意味がないですからね」


 ……。

 …………。

 ………………!


 俺の沈黙を何と勘違いしたのか榊は遠慮がちに言う。

「あの……、冬馬様が迷惑だとお考えなら私は……」

「いや! 全然! 迷惑じゃないからここに居てくれ!」

 例のごとく、間髪入れずに俺は答えていた。

「そ……そうですか……?」

 俺の勢いに目を丸くする榊。

 またしても彼女にこんな顔をさせてしまったが、それは仕方のないことだ。

「また何かしら良からぬ輩が貴方を狙ってくるとも限りません。それに魔界人の詳しい能力について、冬馬様には覚えていただきたいことがまだ沢山あるのです」

 久々に彼女の教育係的発言を聞いて苦笑する。

「そうか。頑張るよ」

「はい」

 彼女は満足そうに頷いた。




 そうして彼女は一旦魔界へ帰っていった。

 結局想いは伝えられなかったけど、まだこれから、いくらでもチャンスはある。

 ……やっと、俺にも目標が出来た。


 いつか、あいつを振り向かせられるくらい、

 魔王おやじなんて目に入らないくらい、

 良い男になってやるんだ!!


結局最後は一気に上げてしまいましたが、なんとか改稿完了です。ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


当初の予定だともうちょい早く終わらせる予定だったんですが色々あって少し間が空いてしまいました、すみません。

改稿前より少しばかり重たい部分が増えてしまったこのお話ですが、誰かの気晴らしになれたでしょうか。


さて、話や改稿に関して長々語るのはまた別の場所にして今後の予定ですが。

ご存知の方もおられるかと思いますが無印サイオウマガトキにはサイオウマガトキ/secondという続編がありました。

1を改稿したなら2も改稿しろよという感じでそのうち2も改稿して出します、多分。

2は成分的に98%がべったべたの恋愛もので、残り2%くらいがファンタジー的な感じの、口が裂けても戦闘ありますとは言えないようなお話なのですが、べったべたの恋愛ものが大好きな作者的にはものすごく書いていて楽しかった記憶があります。

1を改稿する際は尺の長さを足すことを1番の目的としていて、なかったエピソードを加えたりしたのですが、2は尺的にはあまり問題はないと思っているので文章を見直す程度で終わると一応踏んでいます、一応。


というわけで、もし続編を読んでやってもかまわないよという方がいらっしゃったら少しばかりサイオウマガトキの名前を心の隅に留めておいて頂けたらと思います。


それではまた、お会いできることを祈りつつ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ