『エマ・ブライトネス』〈偶像・出資者〉
◆◇◆◇◆
『準男爵』のバッヂを外し、傾いた陽の光に翳し、『Sランク』のバッヂも同様に陽に翳す。本当に受かったんだなと心のどこかでこの出来事を『夢』なのではないかと思いつつ、込み上げてきた熱を咀嚼して飲み込むと高揚感が再び湧き上がる
◆【950】
何はともあれ、気分が高揚するのには変わりなし───晴れやかな気分で帰路に向かう
「盗人です、どなたかー!」
なんて楽しい気分だったのに背後から助けを求める声が聞こえて振り返ると中年っぽい男がこちらに走ってきていた
『盗人らしき』人は短剣を取り出すと走りながら振り回し始め、こちらを威嚇、一直線に走り込んできた
「邪魔だ!!」
穏やかな雰囲気では決してなかった。邪魔って言うなら『お前』が退けよ。全くいい気分だってのに、空気を読まない奴もいたもんだ
◆【手で照準を合わせる】
【石弾C】で両足を素早く狙い、射出する。威力がそこそこなおかげか大事になる怪我はなさそうだった。転けそうになり足がもつれる『盗人』が構えていた短剣を【魔弾】で弾き飛ばす
構えていた手から短剣が弾け、盗んだそれを抱えていた手と空いた手で『盗人』は『硬貨』をぶち撒けながら地面に突っ伏した
「大人しくして下さい」
【魔弾】による『溜め』により【石弾C】は『30』まで溜まっており、目に見えて『無事では済まない』大きさに膨張していた
「い、命だけは…」
◆【周囲の人が取り押さえた】
「これどうしよう…」
【32】まで膨張した石弾の処分に困る。それにしてもこの『石弾』は何を対価に生成されているのだろうか───不思議に思う
「ご協力感謝…ってノル?」
「ブライトネスさん!奇遇ですね」
「奇遇ですね〜じゃないでしょ!
司書の仕事から外されたなんて聞いてない!」
「あはは…それに関してはですね」
「それに【石弾】だよね。どうして使えるの?」
「ん〜一先ずは、その───」
『溜めた』ものの『解除方法』を学んだ
◆【調整の仕方を教わった】
「ありがとうございます。ブライトネスさん」
「あたしが【風撃】を覚えててヨカッタね」
『解雇されたこと』を黙っていたことに対してかなり御立腹の様子だった
「ねぇ…その手にある奴」
ブライトネスさんが矢継ぎ早に質問をしてきた。その対象は僕の手にあった『準男爵』と『英雄学校章』だった
「受けたの?受かったの!?」
「…はい。一応は」
「そう」
「それでは僕はこれで…」
「ねぇ、久しぶりに話さない?」
「え?僕で良ければ是非」
◆【1000】
思いがけずお茶に誘われ、時計塔の見える喫茶店に入った。夕陽に差し掛かろうとする景色は冗長的でいて、何処か落ち着く雰囲気を見せていた
「そういえば
さっきの男は何を盗んだんですか?」
「乞食の人のお金。カップごとね…」
「しょうもないですね」
「ねぇ〜、働けばいいのに」
【鑑定眼】で見てはいなかったものの、短剣捌きや体幹に関して、不自由な所はなく、単に『働くのが嫌』という理由で盗んだのが丸わかりなのが余計に腹立ってきた
「ノル。4日も家を空けるなんてお母さん
心配するんじゃない?」
「帰ってないわけではないですよ
それに最近は調子が良いって言ってますし」
「そう?なら良かった」
「ありがとうございます」
「…っ、別に」
頼んだ飲み物をそれぞれ飲みながら、景色が変わる窓際の席で『休憩』をした
「ノルさ?石弾。どうして使えるの?」
「男子、三日会わざれば刮目して見よ
きっかけがあって使えるようになりました」
「凄いっ!?四日だけど…
魔法なんて1から覚えるの大変なのに」
「師の教え方…ですかね?それが良かったんですよ」
「…女の人?」
「え?はい、そうですが」
「むー、あたしにそっけないと思ったらー」
「変な関係ではありませんよ。ただ本当に
スキルについて教えてくれる不器用?だけど
とてもいい人、ですよ」
「んんん///何その顔反則っ」
「ん?」
「何でもない」
口を尖らせるブライトネスさんは何処か落ち着きを欠いた様子だった
◆【帰りに】
「それでさノル?英雄学校の学費
どうするの?払い続けられるの?」
「辞退しようかと考えています」
元々は『実績』が欲しいだけだったので今更惜しくはない選択だ
「えぇ〜勿体無い!」
自分の事のように変わる表情が『人気』の理由を物語る。親身になって接してくれることが嬉しいと感じる
前を歩く彼女はそれだけで絵になる。なぜ一緒に歩くことが叶っているのかが不思議でならなかった───見惚れていると不意に振り返った『ブライトネスさん』が甘く鋭い提案をしてきた
◆【立て替え】
「学費、うちが貸してあげるよ?」
「っ!?そんなとんでもないですよ」
卒業までの学費を全面的支援することを申し出られた。入学金『30万リア』+『4年間の学費』=しめて『350万リア』言わずもがな大金だ
◆【風が彼女の髪を梳いた】
「何でここまでよくしてくれるんですか…
僕ができることなんて」
「…もう、ノルのバカドン」
彼女が告げた言葉が脳裏の靄を晴らした
「…ッそれ!その言葉は───」
「『僕らは死ぬまで一心同体だー』って
あの時計塔で、誓ってくれたじゃない」
「…っ」
◆【頭痛で片眼を閉じる】
頭が痛い、呼吸が乱れる───まただ。また『あの痛み』だ
「大丈夫ノル!」
「はい、大丈夫…です」
この痛み。何かを無理やりにでも思い出そうとするたびに襲ってくる───『一心同体』という言葉。聞き覚えがあるのにそれに紐づく記憶が出すことができなかった
「もしかして【大賢者】の…」
「いえ、使っていません…これは、多分疲れです」
精一杯の言い訳を連ねて、息を整える。今日はもう帰らないと辛くて倒れそうだ
「大丈夫?肩貸そうか?」
「ありがとうございます
でも大丈夫…っ!?」
ひとりで歩き出そうとした時、ブライトネスさんが返答を待たずに肩を貸してきた───近くなった顔に思わず『心臓が跳ね』、続くいい匂いが鼻に触れて心臓がうるさく鼓動を始めた
◆【1100】
『LP変換』!今だけは自重してくれ!頼むから相手は助けるためにやってくれてるんだ
「家も近いんだから、遠慮しない」
「すみません、ありがとうございます」
「幼なじみでしょ?それに
今度はあたしが支える番だから」
「…」
【1200】───こんなの惚れてしまう。分不相応なのを承知な上で惚れてしまう。皆んなに分け隔てなく接し、優しくする彼女の好意が自分に向けられているなんて。これこそ夢なんじゃないだろうか
◆【出資者と契約を結んだ】




