【大賢者】【?】【?】
◆◇◆◇◆
教会の荘厳な静寂。わずかに響くのは僕の心臓の鼓動だけだった。本当には響いてはいないけど。聞こえる音と言ったらそれくらいに緊張していた
7歳になった。それは教会で、誰もが生まれ持った【才能】すなわち【スキル】を【具体的な形】へと昇華させる【儀式】が行われる日なのだ
僕の番が刻一刻と迫ってくる
「さあ、ノル。恐れることはない」
親戚のお爺さん『ダル爺』が僕の手を取り、慈愛に満ちた声で祭壇に導いてくれた
◆【神託の儀式を受ける】
「ノル・スタルジアのスキルは【賢者】
この名にふさわしい活躍を祈っている」
期待と不安で揺れ動いていた。周囲から拍手喝采が起こった。幼いながらにそれが僕に向けられた【祝福】であることが分かった
この才能に期待を寄せる大人たちの視線が、暖かくも重くのしかかる。ステンドグラスから差し込む光は、まるで神聖な祝福のように、僕の小さな身体を照らし出していた
「さぁ、その【スキル】の名前を読んでみなさい」
「【賢者】」
◆【世界の理を覗いた】
僕は目を閉じた。数瞬の静寂の後、頭の中に、これまで感じたことのない、壮大で、しかしどこか漠然とした知識の奔流が流れ込んできた。それが僕の【賢者】なのだと、理解した
【◾️賢者】【?】【?】
〈世界の理を覗き、知識として取得する〉
◆【儀式は滞りなく終わりを迎えた】
ダル爺の元から『両親』の元に帰り、僕は満足と安心感で微笑んだ。程なくして周りの声援と羨望を受け、早速【賢者】の力を行使させようと意識を集中させた
「【賢者】ぼ…」
その瞬間だった
◆【頭痛】
「ぐっ…!!」
突然、鉛の杭が貫くような想像を絶する激痛が脳を襲った。頭蓋骨が内側から押し広げられる感覚に加え、視界に虹色の虫が飛ぶ様な錯覚を受ける地獄のような苦痛に膝を折った
「あっ、が…?」
必死に痛みに耐えようとしたが、それは意思を遥かに超えた、容赦のない苦痛。額から冷や汗が噴き出し、視界は激しく揺らめいた
人々のざわめきが、遠い彼方から聞こえてくるかのように耳の鼓膜が突っぱねる
脳に容赦なく詰め込まれていく、知識の奔流はぐちゃぐちゃに神経系を焼き切り、引き裂いていく。不快を超えた不快
◆【最早拷問】
「う、あぁあ!!」
声にならない悲鳴が、教会の静寂を破った。周囲の大人たちは、異様な光景に息を呑み、凍りついた
「これは、一体…」
聞いた話によれば、表情は苦痛に歪み、顔面蒼白になっていたらしい───汚い話。汚物まみれにもなってたとか
◆【鑑定の儀へ】
気絶した僕が運び込まれたのは【鑑定の儀】の間だった。本来ここにくるものは『外の世界』を冒険した者だけながら、その本質は【鑑定】による『個人のステータス』を知るための場所だ
ダル爺は眉をひそめていた。【賢者】のスキルは、理を理解する手助けをするはずなのにも関わらず、実際僕には知識は受け取れなかったどころか、危うく殺され掛けた。まるで制御不能な、破壊的な力だった
「【大賢者】」
そこで【神託の儀】の間違いが発覚した
それは【賢者】の上位【大賢者】なる【スキル】を僕が受け取っていたことをダル爺、両親が知ることになった
「そんなノルは…無事なんですか?」
「ダル爺…この子はどうなるんだ」
「日常生活にはなんの支障もなかろう
ただし、スキルは今後使えぬな」
◆【大賢者が使えない理由】
上位といえば聞こえがいいかもしれない。しかし、上位への昇格はそもそも『経験』ありきのものである
それが指し示すのは『経験』により『成長』した『下地』を持ってしか『活用』のできない【スキル】をただポンと渡されたのだ
免許もなし、車に乗ったことのない7歳児がいきなり車を運転しなさいと言われる様なものである。扱える訳がない
◆【それを聞いた両親】
「何か、方法はないのか?ダル爺」
ダル爺は静かに言った
「200年前にこの土地には
オリヴィア・サーヴァントなる偉人が
スキルを自在に変化させられたと聞くが」
「そんな…」
「分かった。おらが探しにいく」
「あなた、そんな危険よ!」
「この子には賢者の才があったんだ
それも大賢者だ!賢者から積み上げれば
必ずや大賢者を扱える様に」
◆【親不孝者の8年後】
「…」
天井を見上げる。家の天井を
寝汗と冷や汗が額を伝う。今でも夢に見る【無能】の烙印を押されたあの日の【神託の儀】の記憶だ
その後、父は失踪、母は病に伏せり、兄2人は音信不通になった。家には僕と妹と母だけが残された。日々を勉学と家事、仕事で費やす日々
悲観する気はない。スキルがなくとも十分やれてる───なんたって学校も卒業を控えて、貯金もある。スキルの件で手放しに喜べないけど
むしろ夢を見ずに済んでいるのは良いことなのかもしれないだろ?
◆【誰に話してんだってね】
そう自分に言い聞かせながら僕は今日もベッドから身体を起こして、自室の扉を開けた
夢は終わっても日常は続くのだから
「おはようアリス」
「おはようございます。お兄様」




