『斉民要術』中の「麴」類に関するメモ
訳本は『斉民要術 現存する最古の料理書』(1997年版)がベース。
ただあくまでメモというか、要所だけ抜き出したり、意訳したりではある。
基本的に「麴」という語は「酒類の製造に用いるもの」を指す単語であり、現代日本のように味噌や醤油などの製造に用いるものはそう呼ばれていない。
醤や漬物の製造時に加える、蒸した小麦粒に黄色のカビ着けをしたものは、斉民要術だと「黄衣」にあたる。
以下に出てくる単位に関しては、容量単位の石・斗は比率程度に捉えておけばよい。
尺・寸は北魏~隋代だと一寸=2.96cmであり、3㎝という感覚で用いて不都合はない。
巻七
・造神麴并酒第六十四
「作三斛麥麴法」
七月の最初の寅の日
小麦粉を蒸・炒・生でそれぞれ一斛ずつ使用
水を加え、直径二寸半、厚さ九分となるよう手でこねる
麴室は板で仕切り、泥で密封し風が入らないようにする
七日後、麴を翻し、再度入り口を塞ぐ
十四日後、麴を集め、再度入り口を塞ぐ
二十一日後、麴を取り出し甕の中へ入れ、塞ぐ
二十八日後、穴を開け縄を通し、日に晒して乾かす
「又造神麴法」
原料は同様
水を加え、直径五寸、厚さ一寸五分の鉄枠に入れ、踏み固める
その後の操作は概ね同様だが
二十一日後、取り出して天日で乾燥させる
「又神麴法」
操作的にはほぼ同様だが、直径三寸、厚さ二寸
「又作神麴方」
七月中旬が最適期
基本の原料は同様
オナモミの葉を細かく刻み、三回煮立て、冷やして上澄みを取り、加える
その他の操作はほぼ同様
「河東神麴方」
通常七月七日に作るが、二十日以前であればいつでもよい
小麦粉一石のうち、六斗は炒、三斗は蒸、一斗は生
木枠を用いて方形にする
クワの葉五分、オナモミ・ヨモギ・カラハジカミ各一分を混合して煮出し、冷えるのを待って加える
・白醪麴第六十五 - 皇甫吏部家法
「作白醪麴法」
小麦は炒・蒸・生それぞれ一石ずつ使用し、混ぜ合わせた後製粉する
オナモミの葉の煮汁を一晩置き、冷たくして加える
直径五寸、厚さ一寸ほどの円形の鉄枠に入れ、踏み固める
竹で作った簀の子を置き、クワの灰を二寸の厚さに敷く
沸騰したオナモミの煮汁の中に麴を投じ、取り出したら灰の中に寝かせ、生のオナモミの葉で一晩覆う
七日後翻し、十四日後集め、二十一日後に屋外で乾かす
(近世日本の種麴製造と直接連続するとも言えないだろうが、灰を用いるタイプの製麴法もかなり古い時期からあったのだなと感じる)
・笨麴并酒第六十六
「作秦州春酒麴法」(「はる」では無く「ツく」の字、であるらしい)
七月に作る
原料の小麦は全て炒り、水を加えてこね、翌日よく搗く
方一尺、厚さ一寸の木型に入れ、踏み固める
よく乾かしておいたヨモギを蚕座の上に敷き、麴を載せ、ヨモギで覆う
窓や戸口を密閉しておき、二十一日
割ってみて、内部が乾き五色になっていれば完成
五色のカビが生えていなければ、さらに数日置く
この麴一斗で米七斗をこなせる
(神麴の場合は米二石一斗としており、糖化力が低いと見做されている)
「作頤麴法」
七月が最適であるが、九月に作っても不都合はない
操作としては春酒麴に同じ
(老酒を製造する場合に用いるものであるらしい)
・法酒第六十七
「大州白堕麴方餅法」
アワ三石を用意し、二石は蒸し、一石は生
別々に臼で搗き、細かくして混ぜ合わせる
クワの葉、オナモミの葉、ヨモギを束ねて煮出し、冷水と混ぜて麴に加える
ムギ藁を厚さ二寸に敷いた床の上に並べ、その上に二寸のムギ藁で覆う
巻八
・黄衣、黄蒸及糵第六十八
「作黄衣法」(「麥䴷」「女麴」とも)
六月中に小麦をよく洗い甕に入れ、水に浸す
酸味が出てくるようになったら、水を切って蒸し上げる
(乳酸発酵。糖質原料と嫌気性条件を揃えれば進む)
蚕座にムシロを敷き、蒸した小麦を厚さ二寸で盛る
その上をオギの葉(無ければオナモミの葉)で覆う
七日を経て色が十分についたならば、乾燥させる
(「黄衣」は、現代日本でのいわゆる麴を指す語として用いる場合と、「黄色のカビ」の表現として用いる場合とがある)
「作黄蒸法」
六月か七月、生の小麦を細かく挽き、水でこねて蒸す
蒸し上がったものは広げて冷まし、オギの葉で覆っておくと出来上がる
・作豉法第七十二
「作豉法」
(大豆に黄麴菌を生育させて作る食品なのだが、日本人には馴染みの薄い食品でもあり、極めて長くもあり、全ては扱わない。
業者向けの大量製造法である点にも注意)
製造適期は四月と五月
ほかの時期でも作れるが、大寒と大暑の頃はうまくいかない
原料の大豆は古いほどよい(乾燥が進まないと煮え方が一定しにくい)
大釜で煮て、指で潰せる程度の固さにする
水を切って取り出し、清潔な土間に堆積する
一日に二回手を差し込み、腋の下程度の温度になっていたら切り返す
二尺→一尺五寸→一尺→六寸とあり、切り返しの度に積み方を薄くしていく
最初に白色のカビが付き、その後黄色となったならば、三寸の厚みとし、戸を閉め三日待つ
(以後の行程は省略する。温度計の無い時代の表現として、腋下温で切り返しを行うのは面白い)
「《食經》作豉法」
製造適期は五月から八月
大豆をよく洗い、一晩水に漬けておく
翌日取り出し、手でひねって皮が剥けるくらいに蒸す
土間に広げるが、状態が悪いならムシロの上でもよい
厚さ二寸ほどに広げ、大豆を冷ます
生のチガヤを二寸の厚さに覆い、三日後に全部が黄色となっていればよい
(以後の行程は省略)
「作家理食豉法」(家庭向けの製法)
大豆を水に浸して、飯のように炊く
煮えたら取り出し、生のチガヤの上に寝かせる
寝かせる方法は女麴と同様(「作黄衣法」参照)
(以後の行程は省略)
「作麥豉法」
七月か八月に作る
コムギを粉にして、水と混ぜて蒸す
よく蒸れたら、広げて指でもみほぐす
麴を広げたり覆いをする方法は麥麹、黄蒸法と同様(「作黄衣法」参照)
(以後の行程は省略)
ヨモギとオギは水田脇にいくらも生えているので実験も容易。
オナモミは昔は目にしたような気がするものの、いつの間にか近所から絶滅した気がする。