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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
改訂版
12/111

12話

 闘技場の中央に、雪と修の二人が向かい合って立っていた。


「それじゃあ、得意な魔術を使ってみてくれないか?」


「得意な魔術……」


 困ったように半笑いを浮かべる雪を見て、修はすぐに察した。


「あー……それじゃ、好きな魔術でもいい」


「好きな魔術……」


 雪は何度か魔術を使おうとする素振りを見せるが、すぐに小さく首を振ってやめてしまう。

 どうやら彼女の魔術の実力は修が想像していた以上に深刻らしい。


「それなら、【灯火】を試してみようか」


「……わかりました」


 雪は自信なさげに頷く。

 とはいえ、【灯火】は魔術師を志す者が最初に学ぶ基本中の基本といえる魔術だ。

 火属性とはいえ、せいぜい小さな明かりを生む程度で、危険性はほとんどない。


「準備ができたら、いつでも始めてくれ」


 雪は頷き、深呼吸をひとつ。顔を引き締めて手をまっすぐに伸ばした。


「いきます」


 彼女が開いた手のひらの前に、淡い光の線が現れ、ゆっくりと魔法陣が描かれていく。


(……この魔術で詠唱? しかも構築が遅い)


【灯火】は無詠唱でも容易に使える魔術。

 徒弟制度に受かった見習いなら、当然のように無詠唱で扱えるはずだ。

 ところが雪は、たっぷり時間をかけて魔法陣を構築している。

 ただ、修が気になったのはその遅さではない。ほとんど構築が終わっている魔法陣に違和感を覚え、修がじっと目を凝らした瞬間——


「【灯火】!!」


「うわっ!」


 闘技場いっぱいに、まるで閃光弾のような強烈な光が炸裂した。

 ただ、それは継続するものではなく、幸いにも、光は一瞬で収まり、眩んでいた修の視界もすぐに戻った。


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄る雪に修は笑って返す。


「あぁ、大丈夫だよ。それよりも……」


 修の頭の中は暴発した魔術ではなく、雪が組み上げた魔法陣で埋め尽くされていた。


「葛西さん。もう一度見せてくれるか? 今度は【雫】を頼む。できるか?」


「は、はい」


 少し前のめりになった修に圧されながらも、雪は素直に魔術の準備を始めた。

【雫】はただ水を生み出すだけの基礎魔術で、【灯火】と同等の初歩にすぎない。

 しかし、彼女はまたもや、「最も丁寧な構築方法」《フルアセンブリ》で陣を描き始めた。


(……まさか。綺麗すぎる)


 一本の線、ひとつの文字に至るまでほとんど狂いがない。

 異様なまでの精度で組み上げられていく魔法陣に、修は息を呑む。


「【雫】」


 その瞬間、バケツ一杯分の水が彼女の両手からどっと溢れ落ちた。


「す、すみません……」


 足元をびしょ濡れにしながら謝る雪。

 しかし修は微動だにせず、ただ眉をひそめていた。


「あ、あの……」


「ん? あぁ、ごめん。どうした?」


「いえ、また、失敗してしまって……。すみません、これじゃ参考にならないですよね……」


「いや、むしろ大収穫だ。やってみて良かったよ」


 修の声色には落胆どころか、むしろ高揚すら滲んでいた。

 その一方で、雪は修の言う「大収穫」の意味が掴みきれず、見捨てられるのではないか、という不安な気持ちを抱えることとなった。

 そして、この日はそれで終わり、雪は不安な気持ちのまま帰路につくことになった。

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