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第五十七話【全六十七話】/三月二十四日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 本殿の目前に配された拝殿は堅牢な扉で閉じられていた。

 執務室と同じように術式によって結界が張られているようだ。

 本殿と拝殿の全体が厚い霊力の膜で覆われ、外部からの侵攻を防いでいる。


「こちらへ」


 嘉治が拝殿の裏側へと招き入れた。

 本殿と拝殿の中間に位置する、半地下の通路へと下りていく。

 石造りの通路の中ほどで、嘉治は解呪の呪文を唱えた。

 すると、石積みの隙間から扉が現れる。

 扉をくぐり階段を昇ると、拝殿へ繋がっていた。

 本殿の前に設けられた祭壇には、祝詞のりとを奏上する那珂彦の姿があった。


「那珂彦、大丈夫か?」

 嘉治が駆け寄る。


「摩法使いがここを狙っている。我々では動きが掴めない。できるか」


「今は何とか、祭祀によって侵入を防いでいます。父さん、交代してもらえますか? 敵の居場所を感知する陣を展開します」


「わかった」


 那珂彦に代わって、嘉治が祝詞を奏上し始める。

 那珂彦は拝殿へ下りると、手印しゅいんを結び、呪文を唱えた。


「どうやら相手もこちらの様子をうかがっているようです」


 陣法の描かれた紙を床へ敷くと、その上に透明のたまを置く。

 もう一度呪文を唱えると、珠から光が溢れ出した。

 しばらく輝きを放った後、一つの方向を指し示す。


「捉えた! 御釜殿おかまでんの方向です」


 その瞬間、轟音とともに拝殿が大きく揺れた。


「なにが起こった!」


 轟音と揺れが二度三度と続き、ついに爆音とともに拝殿内が土埃に包まれる。

 土埃が晴れると、壁の大穴の先に大きな黒い影が迫っていた。


「この気配は……」

 みさきが虚ろな瞳で影を見上げている。


「父上……」


 温羅うら


 そこにはみさきの父神である温羅の変わり果てた姿があった。

 巨人のようだが、首はない。

 大きな瘴気の塊に両の足と右手のみが生えている。


「お前たち、何をしやがった……」

 温羅の陰に隠れるように賀陽が立っていた。


「あれだけの瘴気を流し込んだのに神域が破れないなんて、おかしいだろ! 何をした! くそっ……! 計画が台無しだ!」


 御釜殿に封されていた温羅を復活させたのはこいつか!


「奥の手だが仕方がない……この神社の祭神であれば神域に縛られる事もないだろう」


「そんな……御祭神はこの神社そのもの。内側から破られるとは……」

 放心の那珂彦はその場にへたり込むと、微動だにしない。

 そこに温羅の腕がいだ。


「那珂彦っ!」


 那珂彦の身体は風に翻弄される落ち葉のように床を転がっていった。

 ピクリとも動かない。

 那珂彦に向かって駆け出すものの、温羅の巨体がそれを阻む。


「わかっただろう。俺の勝ちだ」

 仮面の奥から高らかな声が響く。


「嘉治! 伽耶と那珂彦を連れて逃げろ!」


「逃がすものかっ! 吉備津彦命きびつひこのみことの宝剣を出せっ! 皆殺しにするぞっ!」


「そんな物のために那珂彦を……七瀬をっ!」


 温羅の黒く太い瘴気の腕が振り下ろされる。

 受け止めたのは、みさきだった。


「真魚……お願いです。こんな父の姿は……見るに堪えません……だから、お願いです」


 濃い瘴気がみさきの両手を黒く染めていく。

 涙が止めどなく流れては落ちていった。


「みさき、あと少しの辛抱だ……」


 左手の人差し指を天に向けると、右手でそれを握り込む。

 智拳印ちけんいんを結ぶ。




オン 阿謨伽アボキャ 尾盧左曩ベイロシャノウ 摩訶母捺囉マカボダラ 麼抳マニ 鉢納麼ハンドマ 入縛攞ジンバラ 鉢囉韈哆耶ハラバリタヤ ウン!』




 法力を解放すると、智拳印を結んだ両手から光が溢れ出した。

 拝殿の内を満たした光が温羅の巨体を覆うと、砂金のようにわずかな輝きを放って消えていく。


 温羅がちりとなり消え去ったその後には、黒い小さな石だけが残された。

 みさきが足を引きずるように歩み寄る。

 その小さな石を両手で拾い上げると、大切そうに胸へ抱きしめた。




「は……?」




 賀陽は唖然として小さく息を吐き出す。

 目を見開き、身体をグラつかせると、堪えきれないように片膝をついた。


「何を……何をした!」

 天を仰いで叫ぶ。


不空大灌頂光真言ふくうだいかんぢょうこうしんごん


「お前は……何者だ!」


「儂は遍照金剛へんじょうこんごう、空海だ」


「空海……? お前のような小娘が?」


 賀陽はゆっくりと立ち上がり、


「ふざけるなっ!」


 短刀を構えると、


「お前を真っ二つにしてから、皆殺しにしてやる!」


 一直線に向かってくる。その姿が視界から消え去った。


「これ以上、神域をけがすことは許さない!」




 オン ハンドマ シンダマニ ジンバラ ウン……




 印を結び、真言を唱えると、身体から金色の光が溢れ出す。

 輝きの中から如意輪観音にょいりんかんのんが顕現した。


 如意輪観音は救済を司る。

 六本の手を有し、智慧ちえを与える如意宝珠にょいほうじゅと、煩悩を破壊する法輪ほうりんを携えている。


 如意輪観音の輝きを放つ手が虚空へと伸びた。

 その光に照らされ、賀陽の姿があらわになる。

 大きく後ろに跳び避けようとするが、六本の手が包み込むように動きを封じた。

 賀陽の意識が如意輪観音を通じて流れ込んでくる――


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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