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第三十五話/三月二十二日

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


「二人は今日、何するの?」

 食事を終えた伽耶が、蜜柑を頬張りつつ問いかける。


「今日は真魚を図書館に連れていくつもりです」

 食後のお茶を飲みつつ、みさきが答えた。


「私は真魚が図書館にいる間、仕事へ行ってきます」


「みさき、仕事をしているのか⁉」

 初耳だ。

 人見知りだったみさきが、自ら人と関わっている事に驚いた。


「ええ、鬼どっきり饅頭というお菓子屋さんを経営しているんです。基本的には従業員の皆さんにお任せしているのですが、人が足りないときはお手伝いに行っているんですよ」


「鬼どっきり饅頭……」


「鬼もどっきりする程のおいしさです」

 みさきが笑顔満面で言い放った。


「吉備津神社でも売ってるよ。結構人気なんだから」

 なぜか伽耶が得意げになっている。


「まずは伽耶を吉備津神社に送ってきますが、真魚も一緒に行きますか?」


「昨日行ったから、いいよ。だいぶ慣れてきたし、テレビを見てる」


「わかりました。伽耶、そろそろ出ましょうか」


「はーい」

 伽耶は湯呑のお茶を一気に飲み干すと、勢いよく立ち上がった。


「それでは行って参りますので、何かあればスマホに連絡して下さい」


「ああ、わかった。いってらっしゃい」


「じゃーねー、真魚」


「ああ、またな」


 二人して出ていくと、程なくしてバイクの咆哮ほうこうが響き渡り、次第に遠ざかっていった。

 途端に静かになり、部屋にはテレビの音だけが漂い始める。


「確か、このリモコンで……」


 チャンネルを変える。

 この時間はニュースばっかりだな。

 ニュースは基礎知識が足りないからか、未だに頭がついていかない。

 何かないかとチャンネルを変えていると、


「何だ、これは……」


 一つの番組に目が留まった。思わず見入ってしまう。


 ・

 ・

 ・


「ただいま戻りました」


 夢中で見入っていると、みさきが帰ってきた。


「これは……時代劇ですか?」


「時代劇?」


「ええ。今から二、三〇〇年前の世界を舞台にした伎楽みたいなものです」


「この世界観、なじみ深いな。車や電気が出てこないと、なんだか安心するよ」


「真魚には時代劇の世界観が合っているのかもしれませんね」


 思わず錫杖を持って立ち上がる。


「助さん、格さん、もういいでしょう!」

 みさきがビクッと体を震わせる。意外と大きな声が出た。


「この錫杖が目に入らぬか!」

 みさきは茫然と成り行きを見つめている。


「……とっても気に入ったみたいで、何よりです」

 苦笑いで誤魔化すみさきを横目に時代劇を堪能した。


「面白かった! みさきは時代劇を見ないのか?」


「私はこの時代を実際に経験していますから。今更、わざわざ見ようとは思わないですね。伽耶は時代劇が好きですよ」


「そうか。今度会ったら、話をしてみよう」


「真魚、そろそろ図書館へ向かいましょうか」


「おお、そうだった」

 昨日もらった辞典と教科書、ノートと筆記用具を鞄に入れて出かける準備を整える。


「真魚、これも持って行って下さい」

 みさきは一つの包みを恭しく差し出した。


「これは?」


「お弁当です。お腹が減ったら食べて下さい」


「ああ、ありがとう」


 お弁当を鞄に詰め、腕時計を右腕に着けると家を出た。


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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感想はもちろん、

舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。

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