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第二十一話/三月二十一日/真魚⑩

“三月二十一日、午前四時、世界は光に包まれる”

佐伯美緒は、自らの身体へ弘法大師、空海の魂を転生させる。

圧倒的な祈りの力、法力を伴って……


千二百年の時を経て、遍照金剛が現世へと降り立つ。


弘法大師『空海』・・・真魚

吉備の鬼神『温羅』・・・みさき

『吉備津神社』宮司の娘・・・伽耶

空海を追う『摩』法少女・・・七瀬


四人の女子高生が織りなす、「因縁生起」を巡る物語――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


岡山・香川の実在の旧跡・名所を舞台に繰り広げられる、バトルコメディ奇譚。

小旅行気分でお読みください。


弘法大師 生誕一二五〇年 入定一二〇〇年 祈念作品


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体、等とは一切関係ありません。

 また、特定の宗教・教義を礼賛するものではありません。


 空高くまで届いた金色こんじきの光が大地に吸い込まれるように収束していく。

 伽耶は未だに放心した様子で、虚空を見つめていた。


「これで信じてもらえるかな?」

 伽耶よりも先に、みさきから抗議の声が上がる。


「なんてことをしてるんですか! 追っ手に見つかりますよ!」


「お前の言いたい事はわかる。だが、他に証明する方法を思いつかない。追っ手が来ても必ず守ってくれるんだろう?」


「誰しも、好んで追われたくはないでしょう」

 そりゃそうだ。


「しかし、隠し事はしたくないんだ。みさきの見込んだ者なのだから」


「真魚……変わらないですね……」

 みさきの頬にはうっすらと朱が差していた。


「この世界では、そういうのをキザというのですよ」

 サギ? キザ? なんとなく恥ずかしくなった。


「とと、ともかく、伽耶よ、信じてもらえたかな?」

 咄嗟にみさきから視線を外し、伽耶の方へ向き直る。


 伽耶はハッと意識を取り戻すと、立ち上がりグシグシと袖で両目を拭った。

 ドシドシと足音がしそうな大股で目の前まで来ると、


「信じるよ、弘法大師、空海。ちょっとびっくりしちゃった……」


 先程までの尊大な態度とは別人のように大人しく言った。


「詳しいことは後で話すとして……みさき、遅刻しちゃうよ!」

 切り替えが早いな。


「そうでした! 真魚、四時間くらいで戻ってきますが、ここで待っていて頂けますか?」


「四時間?」


「あぁー、えっと、二辰刻にしんこくくらいです」


「ああ。わかった。ここがみさきの家なのか?」


「そうです。真魚はこの家は初めてですね。実は、鬼ノ城を諸事情で追い出されまして、最近引っ越したんですよ。鍵を開けて行きますので、寛いでいて下さい」


「わかった。そうさせてもらおう」


 みさきは鍵を取り出すと、玄関を開け放った。


「あ、そうだ、テレビ。テレビをつけときますね」


「てれびぃ?」


 みさきは中へ入っていくと、コイコイと手招きする。


「よくわからないと思いますが、暇つぶしにはなりますので。こちらへどうぞ」

 呼ばれるままに家の中へ入ると、廊下の先の広い部屋へと通された。


「さあ、こちらへ」


 部屋の中はほんのりと暖かかった。

 白梅の控えめな香りが漂っている。低めの腰掛に促されるままに座った。

 腰掛の前には平卓を挟んで大きく黒い屏風が鎮座している。


「この思わせぶりな屏風は何なのだ? 硯屏風すずりびょうぶ?」


「これがテレビですよ。電源を入れると……」

 うぉっ! 人が出てきた!


「いやいやいや、誰っ? 人が入ってんの? お友達?」

 裏に回ってみるが、誰もいない。


「何、この人! とんでもなく薄い人なのっ?」


「真魚、これは動く絵物語なんです。この屏風には入れませんし、出てもきませんよ」


 そう言いながら茶を注ぎ、急須と一緒に平卓の上へ置く。

 湯呑からはほんのりと湯気が上がっている。どんな早業で湯を沸かしたのだ……。

 もう驚くまいと思いつつも、一つ一つの所作に何度も驚かされる。


「帰ってくるまで、こちらで寛いでいて下さい」


「ああ、わかった」


「それでは行って参ります」

 そう言うと、みさきは踵を返し、ささっと玄関へ向かった。

 見送りのために後を追う。すでに伽耶は鉄騎の後ろに跨っていた。


「伽耶、行く前に一つ疑問があるんだが……」


「何よ?」


「何故射った?」

 伽耶はニヤリと口元を歪めた。


「私を待たせた罰よ」


 刃物少女といい、弓女といい、この世界の女はどうなっているのだ。

 みさきと伽耶を乗せた鉄騎が唸りを上げて駆け出した。


お読みいただきありがとうございます。

皆様の応援が、執筆の糧です。


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感想はもちろん、

舞台となる岡山・香川の旧跡・名所のリクエストもお待ちしております。

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