05.ゲームイベント発生!?裏生徒会ができるまで①
新生生徒会が発足して1ヶ月が過ぎた。
初めはかなりぎこちなかったことは否めないけど、顧問であるアリオス先生の鶴の一声により毎日ミーティングをすることになった。
自己紹介から始まったミーティングは雑談を交えながら役割を決めていき、どうでもいいようなくだらない話でもするようになり、今では遠慮なくバンバン意見を言い合うくらいまでになっていた。
毎日ミーティングは今でも恒例となって続けている。
とはいってもほとんど雑談メインのミーティングになっているけどね。
(……。これもだ)
私、莉桜は生徒会庶務に任命をされた。今やっているのは書類の仕分け。書類……というより数枚の紙なのだけども。
学校に通っている生徒たちに自由に気になっていることなどを紙に書いて用意しているポストに入れてもらうことが決まり、実施中である。
大半はノクトやアリオス先生のことなんだけど、そのことを2人に話すと、
「「そういう内容の紙はシュレッダーにかけていいから」」
即座にそう言われた。ちなみにそういう内容とは彼女がいるのか?とか好きな食べ物はなんですか?とかいわゆるプライベートなことを質問してくることを指す。
ただ。私が気になったのは同じ内容の紙が複数の生徒から寄せられていることだった。
最近、私を悩ませている要因のひとつでもある。
「どうかしたか?顔色が良くない」
小さくため息をついた私に後ろから声を掛けられ、ビクッと肩が揺れた。
「あ。クリス……。うん、ちょっとね」
振り向いた先にいたのが見知っている顔であったことに安堵した私は肩の力を抜いた。私に声を掛けてきたのは生徒会役員で広報のクリスこと、クリスティーナ。銀色の長い髪、青い瞳はキリッと澄んでいて美人さん。女性だけど男勝りなところもある。最初は失礼ながら冷たい印象を抱いてしまったけれど、接していくうちに優しい人だということに気付き今では頼りにしていたりする。
「ちょっとにしては顔色が真っ青だぞ?」
「そう、見える?」
私の言葉にクリスはすぐ頷いた。
「ミーティングで話をしてみては?」
「そう、だね。そうしてみる。ありがとう、クリス」
少し歯切れが悪いのはあまり言いたくない内容でもあるためだけど、クリスは気にならないのか深く聞いてこなかった。
「いや。ところで莉桜、ペンの芯はあるだろうか?」
「ペンの芯?えっと。ちょっと待ってね」
「莉桜ー!助けて!パソコンフリーズしたぁ!」
ペンの芯を探しているところに同じく庶務のシャルロットが話しかけてきた。
「莉桜、生徒会のミーティングでまとめた内容の紙をファイルしたいんだけど」
更には書記であるタスクまでやってきた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
いくら私でも次々に舞い込んでくる仕事を1度にできる訳がない。
「シャルロットもタスクも急がないなら少し待って。今はクリスの頼まれごとをしているから」
「わかったよ〜。……あれ?コレ……」
ノートパソコンを数枚の紙がある机の上に置いたシャルロットが私が顔を真っ青にしていた内容が書かれている紙に気付いてしまった。
「ちょっと莉桜!コレ、何!?」
「わ!?シャ、シャルロットっ、それ!ミーティングで話そうと思っていたのにっ!」
止めに入ろうとしてもあとのまつりである。同じ内容の紙まで見つけられ、本日のミーティング内容が決まってしまった……。
「それで?莉桜」
優しい声音でノクトに呼び掛けられるも私は縮こまるしかない。
(優しい声音が逆に怖いです!)
「いつからだ?なんで黙っていた?」
アリオス先生は不機嫌そうな声で聞いてきた。
「恐らくノクトやアリオス先生のプライベートを聞く内容の紙が入っていた頃からだと思います」
「ほとんど最初の頃じゃねぇかよ」
「莉桜、何もされてない!?なんで言わないの!?」
「今のところ被害は遭ってなかったから……」
「被害に遭ってからじゃ遅いよ!」
梓紗に抱きつかれながら私は私を誹謗中傷する内容の紙を眺めていた。
『リオは生徒会を辞めろ』
最初はこんな文面だった。その紙は複数の生徒が書いたもののようだった。
『リオは学校に来るな』
『色目を使いやがって』
『人間のクズ』
『学校に来れなくしてやろうか?』
そういった内容にまでエスカレートしていった。
「顔色を変えていたのはこれか?」
クリスが1枚の紙を手にとって見た。
『お前のルームメイトにもヒドイ目を遭わせてやるぞ』
『さっさと消えろ』
『リオはいなく』
グシャッと紙が握り潰された。
「……最低だな」
クリスは静かに怒っていた。
「で、どうする?」
会計のウィリアムくんがそう聞くと静かになった。
「あの」
私は自分の考えを言葉にしようとしたけど。
「駄目だよ」
「駄目だ」
まだ何も言っていないのにノクトと何故かアリオス先生までもがそう言った。
「辞めることは許さないから」
(ああ。やっぱりバレたか)
私の心の内などお見通しだと言わんばかりにノクトは言った。
「けど、迷惑をかけます。きっといっぱい。実際、何でも話してと言われたこの場で言わなかったし」
「私、誹謗中傷されてるの〜って、言えないんじゃない?私だって言えないよ」
「お前なら真っ先に言いそうだけどな」
「なんですってぇ!?」
シャルロットとウィリアムくんは言い争いを繰り広げそうになるところを副会長のシンさんが止めた。
「梓紗にも黙ってたわ」
「本当だよ!今日初めて知ったよ!……黙ってるなんてヒドイ!」
「ごめん……」
梓紗は泣きながらまた私を抱き締めてきた。
「莉桜」
「はい?」
ふいにノクトに呼び掛けられた私はノクトのほうを見た。
「おつかいを頼んでもいい?」
「え?今、ですか?」
「そ、今すぐ。隣町のタトールっていうコーヒー屋コーヒーが飲みたいから行ってこい」
(ノクトが言い出したことなのに、なんでアリオス先生が言うんだろう?)
私が首を傾げるとノクトは苦笑しながらこう言った。
「そういう訳だから、いいかな?」
「え……、で、でも……」
今は私の誹謗中傷の紙についての話し合い中だったと思ったからすぐに動くことができなかった。
そんな私のすぐ横でガタン!と立ち上がる人物がいた。
「わかりました!すぐ行ってきます!……ほら、行くよ!莉桜!」
「へ?ちょっ、あ、あず……っ」
生徒会役員の広報で私のルームメイトである梓紗が私を引っ張りながら言った。
私はされるがまま梓紗と一緒に生徒会室を出て行った。
「梓紗、本当に行くの?私のことだよ?」
私は声を掛けてみるけど梓紗が止まる気配はない。それどころか本当に外に出たから驚いた……のだが。
(……ん?何かおかしいぞ?)
そんなことを思ったのは頼まれたおつかいに行くのではなく校舎を外からぐるりと回り生徒会室の窓の近くに梓紗は向かっていたようだったからだ。
「あの、梓紗?おつかいに行くのでは?」
私の言葉に梓紗はピタリと立ち止まり、くるっと私のほうを向きこう言ってきた。
「ゲームのイベント発生よ!」
「……はい?」
私はぽかんとしてそんな風に返事をしていた。




