03.図書室での出来事
「ちょうど良かった」
ある日の放課後、本を図書室に返却しようと廊下を歩いていた私、莉桜に担任の先生が声を掛けた。
「なんでしょう?」
先生の話を聞くため私は歩みを止めた。
そんな私に先生はニヤリと笑い……。
「生徒会長ノクトの指名でお前、生徒会役員だから」
「は……?」
(はあぁぁぁッ!?)
な、何故!?なんで私が!?
「おっと。これはまだ内緒の話だった」
思い出したようにわざとらしく先生は言った。
(絶対楽しんでいるこの先生。しかも内緒だとわかっててわざと伝えたんでしょ)
ジトっとした目で先生を見ていると先生は面白そうに笑った。
「あのノクトに気に入られたんだから、まぁ、当然だよな」
「どういう意味ですか?」
ノクトが気に入ったから私を生徒会役員にするつもりなら私は断固反対する。
(そんな私情を優先するような人とは一緒にやっていける自信がない)
「ま、一番の理由はお前の仕事っぷりだろうな」
「……へ?」
(仕事っぷり?何?その理由)
「お前、生徒会役員でもないのに役員だったアイツに仕事を押し付けられたらしいな」
アイツというのは花畑脳ヒロイン、マイのことだろう。
「まあ。そうですね。運悪く見つかってしまって」
マイは私を見つけると何かと面倒なことを押し付けてくる。
まだ私が自分の言うことを聞く駒だと思っているようだ。
(相手にするだけ面倒だし。なら、従うフリをしていたほうが穏便かなと思っていたんだけどね)
まさかそれがノクトに出会うきっかけを作ったなんて誰が思うだろう?
「実際、アイツが生徒会に入ってから生徒会が機能しなくなっていて俺も頭を抱えていたんだよな」
と、言ったこの先生こそ、生徒会の顧問の先生だったりする。
「先生がマイに注意しようとしてもきっとうるうる攻撃を受けて撃沈するだけですよ」
梓紗情報だが、先生も『攻略対象者』らしいし。
私の言葉を聞いて先生はブハッと豪快に吹き出した。
「うるうる攻撃?なんだ?それ」
「マイに注意してみればわかりますよ。オススメしませんけど」
話は済んだとばかりに私は先生に会釈して図書室に向かった。
「ホント、可愛いヤツだよな」
先生が私に向かって小さくそんなことを言っていたなんて当然、気づきはしなかった。
図書室に来るとほわーといつも思ってしまう。
前世でも本だけは私の癒しアイテムだった。今世でも癒しアイテムになってくれている。
前世での巷のブームといったら乙女ゲームや異世界に転生したりトリップしたりの話が数多く本としても出回っていた。
だから梓紗からこの世界が乙女ゲームの世界に酷似していると聞いた時も対して驚かなかった。
『そんなこともある』と重く受け止めていなかった。
だってそうでしょ?重く受け止めようと軽く受け止めようと私の生きる世界、生きている現実は『今』なんだし。
それが乙女ゲームの世界でしたと言われても、あ、そうなのかってくらいしか言えないよ。
一度死んだ身が違う世界で二度目の人生を歩んでいるけど。
(死んだはずなのに生きているってラッキーって思うべきなんだよね)
莉桜としてこの世界で生きると決めたのだから。
(そういえば。前世の私の名前も……莉桜だったような……)
前世の名前すらもう思い出せない。
けど。前世の自分の最期に誰かに呼ばれた気がした。
『莉桜』と。
「莉桜?」
誰かに名前を呼ばれてハッとした。顔を上げるとノクトがいた。
「あ。ノクト」
「どうかした?具合悪い?」
「う、ううんっ!大丈夫。少し考え事をしていただけ」
「そう?」
「うん。えと、ノクトはどうしてここに?」
これ以上の追及はされたくなかったから無理やり話題を変えた。
「借りていた本を返却して、次に読むつもりの本を借りたんだ」
そう言ってノクトが見せてくれた本は私も読みたいと思っていた本だった。
「それ……」
(恋愛小説だけど。読むの?ノクトが?)
いや、本の好みは人それぞれだから、いいんだけどね!
「莉桜も借りようと思ってた?」
「うん。けど急ぎじゃないから。ノクトも恋愛小説読むんだなと思っただけ」
そう言ってはたっとする。
(しまった!つい言ってしまった!)
言ってしまったことを取り消すことはできず微妙な空気が流れた。
「それは読むだろ。俺だって人間なんだし。この手の話は読んだことなかったから興味があったんだよ」
悪いかと言いたげな拗ねた表情をしながらノクトは言った。
(あれ?なんだろう?)
ノクトのそんな表情を見て私の中で小さな感情の芽が生まれた。
その感情は生まれたばかりで温かい感じがした。
そんな感情を抱いた私はノクトの頭を撫でていた。
(なんだろう?ノクトが可愛い)
母性本能がくすぐられたのかノクトの違う一面を見られたのが嬉しかったのかそのどちらもか。まだよくわからない感情のまま、小さな子供にするようによしよしと頭を撫でた。
身長差がありすぎて額にちょこんと手を乗せる感じのなでなでだったけど。
そこで私はようやく我に返った。
(ししっ、しまったー!!せ、生徒会長にななっ、なんてことをー!!)
慌ててノクトから離れると顔を真っ赤にしたノクトの表情を見ることになる。
(え?)
「ノクト、顔が赤いよ?熱でもあるんじゃない?医務室に……っ」
そう言った私の手をノクトがぐっと掴んで引き留めた。
「いい。大丈夫だから」
「本当に?」
そう言う私の手を掴んでいた手が今度は私の頬を撫でた。
「お前、なんなの?……可愛いすぎる」
「……ノクト?」
ノクトが何かを言ったみたいだけど聞き取れずに名前を呼ぶと彼は顔を上げた。
その顔を見てドクッと心臓が動いた。
「え……、あの……、ノクト……?」
ノクトは見たことがない違う表情で私の顔に近づいてきた。
(ひ、ひえっ!)
私の顔も真っ赤になっていくのがわかった。心臓もうるさいくらいに高鳴っている。
ドサッ!持っていた本が落ちた。現実に引き戻されたのかノクトが我に返った。
そして落ちた本を拾って差し出してくれた。
目の前にいるノクトの顔はよく見ているいつもの顔だった。
「ごめん。からかうつもりはなかったの」
差し出された本を胸に抱きながらノクトに言うと彼は首を横に振った。
「俺のほうこそ。怖がらせてごめん。今はもう行くよ」
そう言ってノクトは私の頭を撫でて私から離れて行った。
ノクトがいなくなったのと同時に私は座り込んでしまった。
心臓はまだドキドキしていた。
(ノクトがあんな表情になるなんて……っ。拗ねて可愛いなと思ったら急に男の顔になるなんて……っ)
聞いてないよー!と思っていた同時期に図書室から出たノクトも入り口付近でしゃがみこんで……。
「可愛いすぎる。我慢できるか自信がない」
そんなことをポツリと呟くのだった。
そして。先生が言った通り、私はノクトの指名で生徒会役員になるのだった。




