第二の試験
第二の試験も、やはり先ほどと同じように、名前を呼ばれた者から前に出て試験用の的目掛けて思い思いの魔法を放っていく。
……しかし、『己が撃てる最大級の魔法を撃て』というのは些か意地悪な文言ではないかと思う。
字面だけを考えれば、精度などは度外視した、自分の持つ最大級の魔法を撃てばいい、とも捉えられる。……もちろん、それでは不合格だ。
わざわざ的が用意してあるのだから、最大級の魔法は放てどもそれを確実に的に当てる必要がある。
さて、問題はそれをどの程度の受験者が理解出来ているかという事だ。
先生はそうしたミスリードを狙う為なのか、実力を測るとか、最大級の魔法をとか言っているが、そんなものは魔力測定の段階である程度推し測れるものだ。
だからこそ、威力と精度の両立をさせながら、それが出来る中で撃てる最大級の魔法を……という事になるのだが――。
「……7割ってところかな」
ざっと受験者を確認してみたところ、全体の7割ほどは主旨を理解しているように見える。
平民でも貴族でも『最大級の魔法』と聞いて息巻いているのが1割、『なんだそんな事か。簡単じゃないか』と高を括ってそうなのが2割といったところか。
現に今も、ただ単純に魔法をぶっ放しただけのアホが不合格判定を喰らったようで、納得がいかなかったのか肩を怒らせながら帰っていった。
……魔法の程度も低ければ、おつむの程度も低かったか。魔力は1人前にあるみたいだったが、あれでよく学院に入ろうと思ったもんだ。
「……ねえ、アンタ」
「……………」
「アンタってば」
「そんな名前の奴はいない」
隣のアリアが話し掛けてきたが、そう言って素気無く切り捨ててやる。
こいつ、オレの名前知ってるくせに、なんで普通に『アルマ』って呼ばないんだ? なんなら先生だって呼んでたのにな。
「……アンタ」
「お前……もしかして名前呼べないのか? 人の名前を呼ぶと死ぬ呪いにでも掛かってる、とかか? ……悪いな、呪いは門外漢なんだ」
「違うわよ! どんな思考よ!? そんな呪いになんか掛かってないから!」
「じゃあ普通に名前を呼べよ。知らない仲じゃあるまいし」
「そうだけど! そうだけど……別にいいでしょ? 知らない仲じゃないんだから」
「別にいいけど、絶対返事してやらないからな。壁に向かってアンタアンタって言い続けるようなもんだな。大公家のお嬢様がそれでいいのかね」
「くっ……! 卑怯よ、家を持ち出すなんて!」
「まあ、今はそれでも返事してやるから、さっさと用件を言ってくれ。次は無いけど」
いつまでも押し問答をしていても仕方がないので、とりあえず釘を刺しておいて、話の続きを促してみる。
第一試験の時はそんなに話し掛けてこなかったのに、どうしたんだろうな?
「……まあいいわ。えぇとね、さっきのアルシェーラ学院長の言葉、どういう意味だと思う?」
「……は?」
「だから、さっきの言葉よ」
「いや、わかってるよ。どういう意味ったって、別に……そのままの意味だろ?」
「本当にそう思ってるの? だってあれは――」
「黙れ。……お前は何気ない世間話のつもりかも知れないけど、こんだけ密集してたら盗み聞きくらい余裕だ。アルシェーラ先生の言葉の真意なんてわざわざ話題にするまでもないが、それをここで話してバカな受験者に解答をくれてやる謂れはないな」
「――っ! ……ごめん、私が迂闊だったわ」
「お前は昔からそういう遠回しなやり方が苦手だったもんな。ある意味成長してなくて、オレはちょっと嬉しいよ」
「……なんでよ?」
「そりゃ、お前をまた自由に煙に巻けるからな」
「そんなの許さないわよ……!?」
「はいはい。そういうのは、1発でも魔法を直撃させてから言ってくれな」
「私だって成長してるんだから、余裕よ」
「……先生とオレの鬼ごっこを見てもそう言えるなんて、お前は大した奴だよ」
呆れて溜め息を吐きながら言うと、アリアは何故か嬉しそうに顔を綻ばせた。
……なんだこいつ。まさか変態の道を歩いてるんじゃないだろうな……?
「――あ、そうだ。アンタ、この5年どこ行ってたわけ? シーナおば様に聞いても知らないって言うし、フレイ様達も誰1人として知らなかったのよ?」
アリアが思い出したように言う。
まあ……知らないのは、それはそうだろう。
オレが師匠とどこに行って修行していたのかは、それこそオレと師匠しか知らない。
師匠も母上達には『息子さんを借ります』としか言ってないから、追手でも放ってない限りは絶対に知り得ない情報だ。
オレだって、どこに行くかなんて絶対に言わなかったしな。……言ったら、ほら、過保護な母上達に止められそうだし。
「別に、どこだっていいだろ? お前には関係のない話だ」
「関係なくないわよ。アンタが消えたお蔭で、私は勝ち逃げされた気分を味わったんだから」
「それこそ関係ないだろ。大体、お前は昔から、何故か事ある毎に突っかかってきたけど、一体何のつもりなんだ?」
「……それ、は。別に。何だっていいじゃない」
「ふざけんな。大公家の令嬢に怪我させまいと、子供ながらにどれだけ手加減した事か……」
「……手加減、してたの……?」
「当たり前だろ。大公家の令嬢だし、それでなくても女の子。嫁入り前の女の子に魔法で怪我させ、それが大公家のお嬢さんとなれば、クラウディウス家の名折れもいいとこだ」
「……そう」
短く呟くように言うなり、さっきと打って変わって静かになり、少し俯いてしまうアリア。
うーん……失敗したかな?
アリアは結構プライドが高いイメージだから、もっと隠す方にシフトしておいた方が良かったかも知れない。
前世ではあんまり付き合いのなかったタイプの女の子だから、いまいち扱いが難しい。
彼女いない歴=年齢だったのに、恋愛相談だけはされたからなぁ……。
やっぱ、直接顔を合わせて話したり、一緒に生活してたりしないと、なかなか扱いきれないもんだな。
「……ねえ」
「うん?」
「2人共合格だったら……魔法、教えてくれない?」
「……いや、素直に教師の話を聞いて勉強した方がいいと思うぞ?」
「いいから。……ダメ?」
「……前向きに考えとくよ」
「……まあ、それでいいわ」
『――アリア・メルフェム!』
オレの答えを聞いて満足げに頷いたアリアは、名前を呼ばれるとすぐに所定の位置に向かった。
そうして的に向かうと、彼女は早速魔法の詠唱を始めた。聞くに、風属性中級魔法の『ピアシングガスト』だろうか。
その名の通り、対象を貫く突風を生み出す魔法だ。最大射程は200メートル弱くらいで、慣れた魔法使いなら8つくらいは同時に生み出して攻撃出来る。
風であるが故にほぼ不可視で、突風であるが故に回避が難しい。気付けば身体を貫かれていたなんて話は珍しくないと聞く。
弱点は、直線的な攻撃だから、動いてる相手にはそうそう当たらないという事か。
「――『ピアシングガスト』!」
詠唱が終わり、キーワードが発せられると、コンマ数秒のタイムラグを置いて試験用の的が破壊された。
『ピアシングガスト』の威力の前に、流石に的も粉々に砕けてしまっている。
……あれを喰らったら『痛い』じゃ済まなそうだな……。
ともあれ、精度は良く、威力も中級に連なる魔法として申し分ない。間違いなく合格だろうな。
アリアの合否結果は、やはりオレの予想を裏切らなかったようで、彼女はスタスタとオレのいるところに戻ってきた。
「どう? 私、成長したと思わない?」
「……その態度と言葉さえなければ完璧だったかなぁ。まあ……高望みか」
「なんですって……!?」
『――アルマ・クラウディウス!』
アルシェーラ先生が少し苛立ちの混じった声でオレを呼ぶ。
そんな嫌そうに呼ばんでも……。
とにかく、呼ばれたので所定の位置に向かうと、また先生が話し掛けてきた。
「……アルマ。下級魔法だぞ」
「わかってます」
「上級や中級ではないんだぞ。下級だ」
「わかってますってば」
「最上級や神級でもないぞ。下級魔法だ」
「だから、わかってますって! 教え子に大して信用が無さすぎるでしょう、先生!」
「いや、念のためな。うん。念のため」
「はいはい。じゃあ、下級なんで……ボルトエクレールでいいですかね」
「うむ。ちゃんと下級だからな」
――言質は取ったぞ。
アルシェーラ先生が確かに頷いたのを確認して、早速『ボルトエクレール』を発動させる。
ずらりと並べること、その数70本。
それを、魔導具なのか、いつの間にか完全に修復されていた的に向けて一斉に撃ち放つ。
雷速まではいかずともそれなりに高速で射出されたそれは、ズガガガガッ、と音を立てて着弾し、着弾位置の周囲に紫電を飛び散らせた。
「……アルマ」
「なんですか、先生? ボルトエクレールは確かに雷属性の下級魔法のはずですよね?」
「数が多すぎるわ、馬鹿者。あれでは的は小さな破片すら残っていないだろうな」
「まさか。少しは残すように加減しましたよ。もう1分もすれば復活するでしょう」
「……やれやれ。やはりお前は規格外だ」
呆れた様子でそう言う先生に、『褒め言葉として受け取りますね』と言ってから列に戻る。
あんまり考えずに魔法使ってるけど、あとで面倒な事になりそうだよなぁ……。
……仕方ない。ちょっと自重するか。




