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ケモノビト  作者: 光月
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入学試験ひとつめ


 斯くして、アルシェーラ魔導学院の入学試験は恙無(つつがな)く始まりを迎えた。


 そもそも、力の使い方を学ぶために学院に通うのではないのか、と疑問に思うところではあるが、マグナ公国にしてみれば魔力や魔法は扱えて当たり前のものだ。

 他国から来た人間でもない限り老若男女問わずに魔法を使う国民性なのだから、最低限ここまでは出来て当たり前というラインが存在する。


 アルシェーラ魔導学院に入学するためには、各属性の初級魔法25発分の魔力を有し、尚且(なおか)つ、中級魔法を最低1つは完全な形で扱える事、そして魔力操作による魔法の形状や形態の変化を行える事が最低ラインとして存在する。

 元々、『獣人』になったマグナの民に、その力の使い方を教えるために設立された教育機関なので、まあ、これは当然であるとも言えるが。


 ところで、魔法には等級が存在する。

 下から下級、中級、上級、最上級、神級、禁忌級である。

 下級、中級、上級は日常的に使うようなものが多くある。

 普段の生活もそうだが、冒険者として生活している人間で上位に位置する魔法使いは、大抵上級や中級を使っている。

 主婦や子供、農夫などは下級が基本で、たまに中級を使うくらいだ。


 では、最上級、神級、禁忌級とはなんなのか?

 簡単に言えば、最上級は戦術核レベル、神級は戦略核レベル、禁忌級はその名の通り存在を禁忌とするレベルの魔法を指す。

『獣人組成術』はこの禁忌級に相当する魔法だ。

 ちなみに、もっとわかりやすく言うならば、最上級はそれ1つで軍団1つを壊滅せしめるほどの威力を持つ魔法の事であり、神級はそれ1つで国1つを壊滅せしめるほどの威力を持つ魔法の事である。


 もっとも、最上級以上の魔法が扱える人間など、今の世の中では砂漠で砂金を見つけるのに等しいほどに稀少らしいのだが。



 ともあれ、最初の試験は魔力測定だ。

 これは、専用の測定用魔導具を使って、入学試験をパス出来るだけの魔力を持っているかどうかを測るだけのようだ。


 受験者には受付を終えた順に番号が割り振られており、番号と名前を呼ばれたら試験官と測定用魔導具がある場所まで行く。

 魔導具の前まで来たら、魔導具に手を置いて魔力を流す。すると魔導具が魔力を測定し、合否判定を試験官その場で下すのである。

 合格した人間はそのまま整列していた場所に戻り、不合格ならば即時退場という事で学院から去る事になる。

 自分が持つ魔力量はどうやっても誤魔化しが利かないので、まずはこれで(ふるい)にかける、という事らしい。


『――アリア・メルフェム!』

「はい」


 よく通るアルシェーラ先生の声に、隣にいたピンクブロンドの彼女が前に出た。


 アリア……メルフェムだと……?


 瞬間、一気に記憶が呼び覚まされた。

 あれは、まだオレが師匠と出会う前……クラウディウスの屋敷でアルシェーラ先生とシーナ母上に魔法と武術をそれぞれ教わっていた頃の事だ。


 どこからともなく突然現れたその女の子は、名前をアリア・メルフェムといった。

 誰から聞いたのかは定かではなかったが、どこからかオレの話を聞いて、わざわざ屋敷までやって来たのだと、そういう話だった。


『同い年のアンタが私より上なはずがないじゃない! どうせ親の贔屓目で誇張表現されてるだけのボンクラよ! アンタの鼻を明かしてあげるから、私と勝負しなさい!』

 とは、当時の彼女がオレに言った言葉である。


 もちろんストップがかかった。

 彼女の従者を始め、アルシェーラ先生からも母上からも、姉上達や兄上からもストップがかかった。

 しかし、そうして強く止められれば止められただけ、彼女は盛大に燃え上がった。

 彼女は……そう、負けず嫌いだったのだ。


 いよいよもって止める事が出来なくなった頃、アルシェーラ先生の言葉でオレは勝負を受けた。

 曰く『1回負ければ大人しくなるだろうから、適当に魔法撃ち合って負けさせてやれ』と。


 オレは、先生の言葉の通りにした。

 当時からオレと彼女の力量の差は歴然だったので、最初は適当に、様子見をするように、彼女が放つ魔法を同じ属性、同じ規模で相殺した。

 それをしばらく繰り返してから、頃合いを見計らって彼女を負かした。


 何度も言うが、彼女は負けず嫌いだったのだ。


 当然、彼女は納得しなかった。

 負けたという事もそうだが、きっと幼いながらに『自分は手加減をされて負けた』と認識したのだろう。

 いや、本当にアリア・メルフェムがそう感じていたのかどうかはわからないが、とにかく彼女は負けず嫌いだったのだ。

 1度、メルフェム大公からオレ宛に『娘が迷惑かけててごめんね(意訳)』という手紙が来たほどなので、彼女の負けず嫌いっぷりは推して知るべしだ。


 ともあれアリア・メルフェムは、オレと出会ってからオレが師匠と一緒に修行に出るまで、月に1度は必ずクラウディウスの屋敷にやってきて、オレに負かされては帰っていったのである。


「……そうか、アリアか」


 少し感慨深くなりながら、魔導具の前に立つピンクブロンドの彼女を眺める。

 オレと出会った頃は下級魔法の初歩的なものしか使えなかった彼女が、この学院への入学資格を得られるほどに成長していたとは。

 なんというか、娘の成長を見守る父親の気分だ。


「…………ん?」


 そういえば、彼女はさっき、婚約者がどうのこうのと言っていなかっただろうか。


 ……いや、うん、やっぱり記憶にないな。


 何を間違っているのか、あるいは彼女の中では既に求婚を済ませた事になっているのか、はたまたメルフェム大公からの手紙にオレが返事を出したのをどこかで知ってそう言っているのか。

 本当にどういう事なのかさっぱりわからないが、とにかく、彼女が何か勘違いしているのは間違いない。


 そもそも……そもそもだ。

 アリア・メルフェムは、オレの好みのタイプとは正反対にいるような存在だ。

 何度も何度も勝負を挑んでくるところは、迷惑でありながら微笑ましくもあったのだが、しかしその程度だ。別に好きではない。


 ……いや、待てよ?

 まさか……まさかとは思うが、既にメルフェム大公家とクラウディウス家の間でそういった取り決めがなされているのか?

 前世と同じように、酒の席で『うちの娘をお前の息子に』みたいな話がされているという事か?

 仮にそうだとしたら……いや、とにかくノーと言おう。相手が誰であれ、ノーの時にはノーと言える人間になるんだ、オレ!


「……まあ、まだ3年あるし、平気だろ」


 そうだ、オレが成人するまでまだ3年ある。

 その間に恋人をつくり、15になったら結婚してしまえばいい。

 アリアの事だし、彼女の家は大公家だから、正妻の立場にはないとなれば潔く……かどうかは疑問が残るが、諦めてくれるだろう。


 そもそも、本人への意思確認も無しに親同士で話を進めるなんて不義理にも程があるだろ。

 いや、そうと決まったわけじゃないんだけど。

 仮に、本当にそうだったら、オレはクラウディウスの名を捨てて、ただの『アルマ』になろう。

 立場とか利権とか関係のない場所で、相性のいい恋人と暮らして、結婚して、幸せに暮らすんだ。


「――よし」

「何が『よし』よ。次、アンタの番よ?」

「わかってるよ」


 列に戻りながら声を掛けてきたアリアに返事をする。

 列に戻ってきた、という事は、彼女は試験に合格したという事だ。


『――アルマ・クラウディウス!』


 オレの名が呼ばれると同時に、合格者と受験者の列がざわめいた……ような気がした。

 まあ、クラウディウスという名前には、あの門番みたいに憧れを感じる人間もいれば、反感を覚える人間だっているだろう。

 いくら勝利の立役者だとは言え、レオン・クラウディウスは間違いなく大罪人なのだから、


「……まあ、いいか……」


 心無い言葉を吐かれたとしても文句は言えない。

 だが、出来る事なら、せめて。

 クラウディウスの名が背負った汚名だけは漱げるように、頑張るとしよう。


 そんな事を考えながら、アルシェーラ先生のいる測定用魔導具の前まで歩を進める。


「……アルマ、あまり気に病むなよ」

「いや……うん、仕方のない事だから、別に気に病んではいませんよ、先生」

「なら、レオンの事は赦してやれ。あれはただ、シーナを愛しただけなのだからな」

「わかってますって」

「……そうか。では、手を置いて魔力を流せ」

「はい」


 測定用の魔導具は、占いで使うような水晶のような見た目をしていた。

 他の受験者の様子を見て察するに、こいつに魔力を流す事で水晶が発光して、その光の強さで魔力量を判別するんだろう。


 ともあれ、先生に言われた通りに水晶に手を置いて魔力を流し


――パキィィン


 一瞬、周りが見えなくなるほどの強烈な光を放ったかと思えば、そんな音を立てて、水晶は粉々に砕け散った。


「――は?」


 アルシェーラ先生の間抜けな顔が、妙に印象深かった。

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