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断章 穢れた山

遅くなって申し訳ない

今日は本編をもう一つ投稿します


アーダ・フーデマン著、『私見 アルプ霊峰』より抜粋


 古来、数え切れないほどの歴史の舞台となってきたアルプの山々であるが、今日に於いてフェトン山と呼ばれている彼の山ほどにおぞましい名で呼ばれた山は他にない。


 この山は太古の昔、古ドワーフ族によって縦横無尽に坑道が拓かれ一大都市国家になったと言われているがその真偽は定かでない。

 それというのも冥王の侵略に際してこの国は滅ぼされ、その全てはゴブリンのものになったからである。

 この山は冥王の没落後もゴブリンの強大な勢力として君臨し、彼らの言語で偉大な山を意味するらしい「バルシャザク」という国となった。


 一方のドワーフ族からは「バダムシャム」と呼ばれたようで、この言葉が“最も穢れた山”を意味したことからエルフ族や獣人に膾炙かいしゃし「穢れた山」の名前を冠するに至ったようである。


 さて、この穢れた山に対して歴史上何度かドワーフは大きな攻勢に出てゴブリンの駆逐を目指したようであるが、その驚異的な繁殖力と狡猾さに苦渋を飲まされ、ついにはモリエンヌ山——ドワーフ族が言うところのヴェルノルク——から通じる道には堅牢な不撓ふとう砦が築かれたのである。


 それから幾星霜の歳月の後、フェトン王による連合軍によって穢れた山からゴブリンが追い出されて古の都に人の手が入ったわけだが、残念ながら文化的、歴史的資料のほとんどは失われていたようである。

 これらはゴブリンによる広範囲な破壊活動が最たる原因であったが、古ドワーフ族の手による人智を超えた頑強な建築物が崩壊したのは別の要因があったのは間違いない。


 現在確認されている歴史上においてフェトン王の前に穢れた山に踏み入る偉業を成し遂げたのは、ルドルフ暦三二四九年、かの英雄タチバナ=ケイゴとわずかな手勢だけである。

 この戦いに加わっていたドワーフ族のヴァリは彼自身の手記にこう書き残している。


“黎明、勢い盛んとなり、我らバダムシャムへ打ち入る”

“小鬼の王ガジュルド殪さる時、にわかに山震えけり”

“山の主、現る”


 彼の言う山の主については議論が分かれるところであるが、自身も考古学に通じていたフェトン王は残されていた破壊痕からそれが相当に巨大な古代生物であったのではないかと推測している。

 私自身もフェトン山には幾度か学術調査に赴き、多角的な視座で検証したことがあるが、ここでは端的に述べるにとどまろう。

 私は、フェトン王の考えを肯定する。




ヴェルノルク山のドワーフ族、ヴァリ著、『手記二一号』より抜粋


 ルドルフ歴三二四九年、ヘプテの二七日。

 魔法使い殿、我らがヴェルノルクに来たる。

 バダムシャム、冥王のしもべに溢るるの知らせなり。

 我らがヴィーザル王、援兵を決す。


 ルドルフ歴三二四九年、ヘプテの二八日。

 鉄壁ゴーリン、不撓砦に向け進発す。

 守りに負けなしの将軍、王の信厚し。

 援兵、千を超えしは確かなり。


 ルドルフ歴三二四九年、ヘプテ三〇日。

 ヴィザール王、ヴィーリを招聘す。

 かの豪傑をもてニュンパへの援兵とす。

 ヴィーリ、精鋭を求め、王、これを許す。

 我、アーン、ニーイ、ロー二、これに応ず。




 ルドルフ歴三二四九年、ディニの一日。

 我ら五人の勇士、ヴィーリに率いられ進発す。

 七日もってニュンパに至るべし。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニの三日。

 霊峰の頂高く、たなびく雲に隠れ見えることなし。

 古の街道、先人の美しき技に飽くることなし。

 雪けぶる尾根、雲と境うこと能わず。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニ八日。

 我らニュンパに至り、盟友に迎えられり。

 アニムの友、皆猛々しき戦士なり。

 アルヴの友、皆賢き友人なり。

 我、いっときの休息を得り。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニの十一日。

 隠れ里よりアニム族の援兵来たり。

 六人の戦士、ことごとく猛きものなり。

 各々、長ずるもの選ぶべしと決す。

 我ら率いるはヴィーリなり。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニの十二日。

 アルヴの友を率いるはイシリオンなり。

 アニムの友を率いるはカレルヴォなり。

 何事も三人の長にて決すべし。




 ルドルフ歴三二四九年、ディニ十八日。

 ニュンパの守り固く、小鬼など取り付く事も能わじ。

 我ら、揚々として其の時を待たん。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニの二四日。

 小鬼ども来たるよしもなく、徒らに斧砥ぐ。


 ルドルフ歴三二四九年、ディニの三一日。

 イシリオン、手勢もって進発す。

 冥王のしもべ、忍び寄りしか。


 ルドルフ歴三二四九年、アルショー四日。

 小鬼ども来襲す。

 我らが砦、奴儕超える事能わず。

 イシリオン、挟撃す。

 勝鬨、ニュンパの頂に木霊す。


 ルドルフ歴三二四九年、アルショーの十日。

 小鬼ども、二日と置かず攻め寄せり。

 煩わし事限りなし。

 不撓砦より勝ち戦のよし、さらなり。


 ルドルフ歴三二四九年、アルショーの十五日。

 小鬼ども大勢もって攻め寄せり。

 我ら勝つべくも、一人とて欠けざらんや。

 蓋し、我らが友は猛き戦士なり。

 我が斧もて友守るべし。

 ガザドの斧もて奴儕を打つべし。



【脚注のようなもの】

不撓……ふとう。強い意思でもって、どんな困難にも挫けないこと。死にましぇん!

奴儕……やつばら。複数の人を賤しめていう言葉。良い子は使ってはいけません。

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