表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/65

第二章 ポーション騒動 その1

魔力を帯びた薬草、霊草を同じく魔力を帯びた水、霊水で煎じながら様々なものを加えていく。

加えるものは霊草の種類によって変わり、これらはすべて師から弟子への秘伝になる。そのため作る人によって変わるのだが目的はただ一つ、ポーションの効果上昇である。


並べたガラス管に入れたポーションへと分量を変えた粉末を混ぜ込んでいき、混ざり終わったところで魔力に反応する石へと垂らして状態を確認していく。

石はポーションに反応するも、それぞれの反応に違いは無い。

「ねぇサザキ、ポーションの効果が上がるもの知らない」

「専門家のルーネイが知らないものを俺が分かるわけないだろ」

部屋の隅で唸りながら魔法の基礎の本を読んでいたサザキはその質問におざなりに答えた。

「素人だからこその閃きとかあるかもしれないでしょ」

サザキはルーネイを無視して本を読み続けている。

というのもこの質問、これが最初ではないのだ。疲れて集中が途切れるとサザキに絡んでくるので、最初は相手をしていたサザキも今ではろくに取り合っていない。

「俺は魔法の勉強で忙しいの」

最初の魔法で失敗をしたサザキは、それに懲りたようで実技より座学を優先するようになっていた。今訓練している実技は物を飛ばす魔法、本人の言うところのサイコキネシスのみとなっている。

「サザキのせいでこんなに必死にお金稼がなきゃならなくなったんだから」

そう愚痴るもサザキは背を向けてだんまりを決め込んでしまった。


魔法で失敗してからのサザキはルーネイが思った通り実技より座学を重視していた。といっても本を読んでいる時間は半分程度で残りの半分は記憶を頼りに日本の知識を掘り起こしている。

元素なんて理解できてないものを扱ったのが悪かったのだろう、事故の際に魔法を制御できなかった原因をそう結論づけていた。

魔法は想像力が全てである。自分でもCGで描いたような絵図らが元素をきちんと想像出来ていたとは思えないからだ。

「ねぇ、ねぇったら」

ちなみにサザキの使える魔法はどうやら付与魔法というらしい。

なぜ分かったかというとステータスに追加されたからだ。


≪名前≫  サザキ

≪レベル≫  27

 (体力)62 (魔力)10 (筋力)64 (器用)82 (敏捷)71 

 (知力)99 (精神)106

≪スキル≫

 異世界の理、付与魔法


魔法で自滅した経験でレベルが1上がり、今のサザキはレベル27となっていた。

そしてスキルに付与魔法が追加されていたのだ。

これについてルーネイに聞くとルーネイだと水魔法、火が使える人は火魔法と使える魔法が載るとの事。

付与魔法は稀に表れるユニークスキルで、物に魔力が込められるためこのスキルを持つ人の大半は物作りで大成するらしい。

「戦闘で使えるなんて聞いたこと無いわ」とはルーネイの談。

サザキの考えではこの世界にある魔法で分類したら付与魔法になっただけで、内容は別物ではないかと考えている。だからこそ知識を必死に集めているわけだ。


そんな思いから溜めた知識を、忘れさせようとするかのように頭が揺さぶられる。

「無視するな」

ルーネイが後ろから抱きかかえるように頭をつかみ揺らしてくる。

傍から見れば恋人同士がいちゃついているようにしか見えない行為をしてくるルーネイの無防備さが心配になりつつも、その役得を手放したくないので注意も出来ない、そんな心境に悩むサザキであった。

「案を出してくれたら借金減らしてもいいわよ」

「そう言われてもな。ルーネイは今何を試しているの?」

「今は濃度を上げるために余分な水分を減らせないか試しているところ」

ポーションは、原理は分かっておらずマジックレジストが関係するのではといわれているのだが、一定量を摂取すると拒絶反応が起きて効果が無くなる。このため効果が上がるほど価値は跳ね上がり薬師は効率を上げることに執心するのだ。


「熱したらだめなのか?」

「変質して効果は低くなるわ」

「なら透析とかは」

「透析?」

「すっごいきめの細かいものでろ過するようなものかな」

「よく分からないわ」

どうやらまだこの世界には透析という言葉は無いらしい。

サザキもよく分かっていないし魔法での失敗もあるのではぐらかして次の案を出す。

「あとは遠心分離機とかか」

「それも分からないわ」

「物の重さで成分を分けるやり方だ」

遠心分離機は遠心力により微量な質量の差を増大させ、それにより物質を分離させる。水に不純物が沈殿するのと同じなのでサザキにも説明が出来た。


「理屈は分かったわ」

重いものと軽いものどっちが良く飛ぶかという話から始めてルーネイが理解するまでにそう時間はかからなかった。

「でも、その遠心力をどうやってやるかが問題よ」

確かにこの世界で遠心分離器のような機械を作る技術は無いだろう。

けれど、この場に限ればそれは問題では無かった。

「俺の魔法があるだろ」

サザキの魔法は物体を加速させる、まさにそれなのだから。


3日、サザキがルーネイの部屋に居た時間であり、働き続けた時間であった。

遠心分離の実験は最初に容器の用意など問題はあったもののすぐに成果は出た。

金属の支え棒に同じく金属のポーションを入れた容器を縄で結び安定させることで高速回転は可能になった。

そして実験に芽があると見るやルーネイは狂気の研究者になった。

魔力の少ないサザキはすぐに魔力切れを起こすのだが、そうなると強制的に睡眠薬を飲まされ寝かされる。起きるのも当然自然にではなく刺激臭を嗅がされてだ。

サザキはひたすらポーションを回し、ルーネイが結果を調べる。それを続けて3日目でなんとか今後の研究の目途が立ったのだ。


差し込む朝日のまぶしさに目が覚める。

昼夜関係ない生活だったためそれがずいぶん久しぶりの事に感じられた。

ルーネイはまだ寝ている。

サザキを起こしてから寝ようとしたのか、サザキが寝ていることすら構わなかったのかベッドに倒れ込むような姿勢でサザキに覆いかぶさっていた。ローブが毛布のように広がりルーネイの体温を逃がさず伝えてくる。

汗ばむこの季節だというのにその温かさは冬場の布団より抜け出るのが難しくサザキをとらえて離さない。


整っておりきつめに見える顔立ちも寝ているときは幼さが際立つ。

小さな唇が呼吸に合わせてかすかに震える。

胸や尻だとやましさから自制して視線を離すところだが、唇だとそういった感情も薄くしげしげと見つめてしまう。

ここ3日不摂生にさらされた唇はカサカサになっており、けれどプルンとした張りと薄い朱色はまだ未熟で若い彼女自身を象徴しているかのようであった。

あの唇の柔らかさを確かめたい。どんな食感で、どんな味で……。

「うぅん」

ルーネイが身じろぎをする。

何をしようとしていたんだ俺は。サザキは自分の行為に固まっていた。

年端もいかない少女の寝こみを襲おうとした事に動揺しつつ、ルーネイが寝続けていることに安心してからそっとベッドを抜け出した。


井戸の冷えた水で顔を洗うとようやく呆けていた気持ちが冷めたような気がした。

「そこまで溜まっているのかな」

いろいろとご無沙汰である。金が出来たらそういったお店に行くことも真剣に考えつつも何食わぬ様子を心がけて受け取った朝食をルーネイの元へ運ぶのだった。


サザキが部屋に戻るとルーネイはすでに身だしなみを整えていた。

「おはよう」

普段と変わりなく挨拶をしてくるルーネイに安堵しつつ返事を返す。

「ああ、おはよう」

ベッドの上しかスペースが無いのでそこに朝食のトレーを置き傍らに二人が腰かける。

「これからの事なんだけど、霊草を取りにダンジョンに行きたいの」

切り出したのはルーネイからだった。これまではルーネイが元々持っていた霊草でポーションの実験をしていたが昨日の実験で使い果たしてしまったのだ。

「ポーションを作るだけなら霊草を買い取ればいいんじゃないか?」

「だめね。買うためのお金がないし、安い霊草を買って高品質のポーションを下ろしていたら目をつけられるわ」

完成した研究を公表するのはいいが、半端な状態では研究成果を横取りされかねないらしい。そのため自前で材料を調達し少しでも注目を避けようというのだ。

「そうなると装備が必要で、つまりはお金が必要って事だな」

世知辛い話ではあるが何をするにもお金が必要なのが世の常なのである。

「それは大丈夫よ。試作で作ったポーションを売ればそのくらいのお金にはなるわ」

「ポーションってそんなに高いの?」

サザキは今までポーションにお世話になったことは無い。というのも、漠然と高いと知っておりしかも使用期限が意外と短いのだ。このため必要な時に確認をと思いそのままであった。

「質によって差は出るけど、初級ポーションで銀銭1枚、中級ポーションで銀貨3枚、上級ポーションともなれば年に数回オークションに出るくらいで金貨5枚以上の値が付くこともあるぞ」

「何で上級はそんな高いんだよ」

「それは効果が違うからよ。中級までは体力を回復してくれるだけだけど、上級は回復魔法みたいに傷を治せるの。材料も貴重だから値段も相応になるわ」


金貨5枚、日本円で5千万である。もしサザキたちが今やっているポーションの効果上昇が成功したならそれだけで生涯遊んで暮らせるようになるのだろう。

「それで、今手持ちのポーションはどのくらいの価値なんだ?」

「そうね。下級が5本、中級が2本あるから

質を踏まえても銀貨5枚にはなるわ。それで装備を整えましょう」


金の問題が解決しダンジョンは本決まりとなるのであった。

サザキとしては不安はあったが、なし崩し的にとはいえダンジョンにもいくと約束してパーティを組んだため反対はしなかった。そしてクラスと魔法を手に入れた自分がどれほど変わったかを確かめたい思いもあったのだ。


「サザキさん無事だったのですね。顔を見せないので何かあったのかと思いました」

怪我とポーションの研究でしばらくぶりにギルドに顔を出したためミールシナに心配を掛けていたようだった。

「すいません。ちょっといろいろとあって」

「聞いていますよ。全身大やけどを負ったとか」

「ちょっと不注意で失敗しました」

「無事だったから良かったものの。運び込まれた直後は火を噴く魔物が出たんじゃないかと大わらわだったんですよ」


その情報はサザキの知らない事だった。魔法で術者は怪我をしないはずなので、普通に考えれば火の魔法を使って襲われたという事になるという訳だ。

「で、あんたが馬鹿やったってわかった後はワイバーンが毒で無く火を噴いたって話題だったよ」

隣に現れたモモノからは知りたくない情報が伝えられる。

「久しぶりです。ていうか、まだワイバーンとか話してるんですか」

サザキとしては一刻も早く無くなってほしい噂話である。

「下火になっていたんだけど、当人がいい感じにネタを落としてくれるからわたしの勘だとこれは定着するね」

「嫌ですよ」

「もうあきらめな。二つ名なんて名乗りたいものを名乗れる訳じゃないんだから」

「ところでサザキさん、今日は何か用事があってですか?」

モモノとの話が切れたのを見計らいルーネイが割り込んでくる。

「ダンジョンに行くのでそれを伝えておこうと」


「なんだ、ダンジョンに行くのか」

「ダンジョンに行くんですか」

二人がそろって驚きの声を上げる。

ミールシナにとってはサザキがリターンを取ってリスクを負う判断をしたのが意外であり、モモノにとっては少し前に現実を思い知ったはずのサザキがもうダンジョンに行くといった事が意外だったのだ。

「いつ行く予定なの?」

「明日出て明後日浅い部分だけ回る予定です」

モモノの質問に特に隠す理由も無いしギルドへも伝えるので答える。

「一日遅らせられる?明後日なら私たちも付いていけるわ。途中までになるが一緒に行かない?」


モモノが心配したのはサザキがクラスアップをして有頂天になっている可能性だ。ゴブリンとの戦闘の話も聞いているし、下手に自信を付けていたら危険と判断したのだ。実力が足り無そうなら途中で引き返させる、そう考えての提案だった。

「そうなんですか。なら途中まで一緒にお願いします」

そんな思いは知らず、ルーネイと二人でどこまでやれるか不安だったサザキはありがたくその提案を受けたのであった。



モモノの杞憂は、幸いなことに杞憂で終わった。

ダンジョンの浅い部分という事でサザキとルーネイのパーティに先陣を任せているがサザキの察知能力とルーネイの知識がかみ合って心配する要素は何一つない。

「というか、あんた変わりすぎでしょ」

モモノは現在の状況に思わず突っ込みを入れた。

足元には4体のゴブリンが死体となって転がっている。それはほぼサザキだけで倒してしまったのだ。


高性能な五感はゴブリンたちの気配をいち早く発見し、ベストとなる奇襲ポイントでの待ち伏せを成功させた。

サザキが放った2本のナイフはこちらに気付いてもいないゴブリンへと命中し、どんな威力で投げたのか柄が半ばまでめり込んでいった。即死である。

突然倒れた仲間に驚くゴブリンへとサザキは躍り掛かる。

どれほどの力があるのか片手で大剣を振り回した。

体を持って行かれそうになりながらも、全身でバランスを取り放った一振りはゴブリンの一体を上下に切断し、もう一体は弾き飛ばされ無様に地面を転がった。

一瞬と言っていい出来事だった。


考えていた通りに動けたことにサザキは満足していた。実力も経験も無いサザキがスキルと魔法を駆使して考えた戦い方が今のものだ。

五感強化による奇襲、投擲スキルと付与魔法の同時使用による驚異的な威力の投擲とその応用による大剣の扱いがサザキの戦い方だ。


初めは付与魔法による加速で大剣を扱う事を考えたのだが、実際にやってみると速度を御することが出来ず剣を持っていられなかった。そこで考えたのがナイフと同じように投擲の併用。構えて振るのではなく遠心力を付けて振り放つようにすることでスキルの補正が加わり太刀筋を安定させることが出来たのだ。


「昨日やけにお前がやりづらそうだった理由がわかったよ」

スドーンがサザキに言ってきたのは昨日付けてもらった稽古のことだろう。

大剣に持ち替えたサザキに対して実力を測るために稽古をつけてくれたのだが、正面から戦う事を想定していないサザキにはろくに構えも取れない有様だった。

それを見たスドーンとモモノはすぐに引き返させるべきかと考えたのだが、ジグが実際にやらせて見ようと言って止めたのだ。

「ジグもこれが分かっていたのか?」

「そんなことは無いよ。昨日の戦い方で違和感があったのは確かだけどね。今見て分かった。サザキは打ち合うためではなく投げるように剣を振るんだね。その考えはすごいな」

 ジグは、長年の経験か同じハンターとしてかサザキの戦いに違和感があり、判断はそれを確かめてからでいいと考えたのだ。


「はい、集合」

ゴブリンを倒した場所から少し離れたところでジグが全員を呼び集めた。

「どうかしたんですか」

自分に見落としがあったのかとサザキが尋ねる。ルーネイも先輩冒険者から何か指摘があるのかと身を固くした。

「サザキたちは気が付いていると思うけど、今回僕たちが付いて来たのは君たちの実力を確認するためなんだよ」

保護というにはサザキとルーネイを前面に押し出していたので何となく予想していた二人はうなずく。

「それで、ここまでの状況を見る限り僕は大丈夫だと思うけど二人はどう?」

そういってジグはスドーンとモモノを見る。

「わたしからは特にいう事ないわ。この前は何もできなかったのが、どうやったらここまで変わるのか知りたいほどよ」

モモノが先に答える。

「冒険者成り立ての成長期ですから。すぐにモモノさんと肩を並べますよ」

「調子ずくな」

「あいたっ」

冗談を言うサザキにモモノがデコピンをして黙らせる。

「俺も大丈夫だと思う。ただ、正面切って戦うのはやめておけ」

「そこは自分でも分かってます」

サザキの戦い方はあくまで奇襲前提だ。正面からの戦いは避けるべきだろう。その点はサザキも分かっているようなのでスドーンはそれ以上言う事はしなかった。

「じゃあここからは別行動としよう。俺たちは中層に向かうんでな」

「わかりました。気を付けて行ってらっしゃい」

「お前たちもな」

短く挨拶を交わすとスドーンたちはルートを変えそのまま奥へと歩みを進め、サザキたちは近場の散策へと進むのであった。


久しぶりのサザキステータス表示です。

スキルとかは数をそれほど増やす気はないので全体から見た際の実力の判断材料と思ってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ