第14話 坂上匠の決断。
火曜日に会って以降、寝ても覚めても萩生紅葉のことを考えていた。
そして萩生紅葉のことを考えると、セットで母が出てくる。
追い込まれた俺は、母を突き放す事も考えたが、父を失って坂上家の付き合いはほぼ無くなり、母の旧姓山下家の方は祖母だけは母を歓迎するが、それは俺の負担が二倍になる事を意味していたので、絶対に考えてはならない事だった。
母の事を考えると、次は顔も知らない同期の山田の事になる。
金曜日にアクションを起こすかもしれない。
人肌を知るとは違っているかもしれないが、同衾を知った萩生紅葉は迫る山田を受け入れるかも知れない。
あの家から、俺の為に買ってくれたもの達が処分されて、山田のものが増える。
そう思ったら居ても立っても居られなかった。
だが同時に、萩生紅葉を信じなければと思う。
そしてまた萩生紅葉の事を考え始める。
悶々とした時間。
部屋の中で、もういない父に「父さんならなんて言う?」と問いかけてみたが、答えは出なかった。
これは関谷さんが教えてくれた、父と楓さんの馴れ初めに近いのかもしれないと思った。
・・・
金曜日、朝から落ち着かない。
仕事は身体が覚えているからミスはない。
だが、脳内はずっと萩生紅葉の事を考えていた。
残り1時間になって、ようやく一つの決断に踏み切る。
夕方になり就業時間が終わる。
残業が無ければ俺は5時、萩生紅葉は5時半に仕事が終わる。
俺は普段なら片付ける仕事の残りに、「来週の俺、頼む」と呟いてさっさと会社を後にする。
萩生紅葉も5時半から飲み会ではない。間に合えばまだなんとかなると思っていた俺は、萩生紅葉の迷惑も考えずに、萩生紅葉の勤め先を目指して歩きながらメッセージを送る。
[ごめんなさい。まだ会社ですか?]
返事を見ずに俺は向かう。
出鼻を挫かれてたまるか。
俺は後少しと言うところでスマホを確認すると、萩生紅葉からは[はい。どうしました?]とあった。
[後5分で迎えに行きます。会ってください]
そう送って萩生紅葉の勤め先の前で待つと、すぐに萩生紅葉は出てきて「匠さん?どうしたんですか?」と聞く。
周りの目が気にならないと言えば嘘になるが、「帰りましょう。夕飯を作ろう。話があるんだ」と言うと、萩生紅葉は「はい。今晩は焼き魚か唐揚げです。どっちがいいですか?」と言ってくれたので、俺は「どっちも」と言って手を繋いで萩生紅葉と帰る。
そして俺も小心者で小狡いのは、会社を離れてから「飲み会……」と聞くと、「元々断っていました」と言って萩生紅葉は笑ってくれた。
・・・
萩生紅葉はスーパーの中で俺が持つカゴに食材を入れながら、「話ってなんです?」と聞いてくる。
「え……。大事な話でここだと……」
「ここがいいなぁ」
「え?でも……俺の手にはカゴが……」
「ここがいいです。後だと匠さんは誤魔化しそう」
俺はカゴの中を見ると鯵の開きと目が合う。
鯵の開きが応援してくれている気になった俺は、「紅葉さん、俺を助けてくれないかな?」と言った。
「え?助け?なんか思ってたのと違……」
「そして付き合ってくれないかな?」
「え?そして?」
萩生紅葉は聞き返しながら、「はい」と言ってから「こっちだと思ってました」と続けた。
俺は「後は帰ってから」と言って買い物を済ませて萩生紅葉の家に着くと、萩生紅葉にお願いをしてから俺は母の所に電話をした。
「いつ帰ってくるの?」
挨拶もなく本題に入る母に「彼女のところに寄るし、週末だから泊まる」と言うと、母が超展開に驚いているのがわかる。その間に萩生紅葉に電話を渡す。
萩生紅葉は「初めまして。萩生紅葉です。匠さんとお付き合いさせて貰ってます。今度ご挨拶させてください」と言ってくれて、スマホを回収した俺は「じゃ、そう言う事で」と言うと、電話を切ってから「ありがとう紅葉さん」と言って萩生紅葉を抱きしめた。




