優勝候補
初戦の相手は、研究科二年ビスタル・モリ率いる四人パーティ。構成は研究科二年二人、高等科三年二人だ。先ほどの戦いを見た限りでは、守備一人、魔法攻撃に三人という攻撃特化の陣形をとっていた。連携重視のモネたちと違って、三人の大火力で押し切るタイプのパーティだ。
《さぁて! 次の試合はラウル・アルバーン君が率いるパーティの初戦です。天才ラウル君が率いているということで注目のパーティではありますが、そのほかのメンバーは高等科一年生二人と、先日異国留学から帰ってきたばかりの学生で構成されている異色のパーティ。対するビスタル・モリ君率いるパーティは高学年ぞろいの大火力パーティです。優勝候補筆頭ともくされるこのビスタル・パーティ相手に、はたしてラウル・パーティがどこまでくらいついていけるのか!》
《まあラウル君が天才といっても彼は守備専門ですからねえ。他の学生たちがどこまで踏ん張れるかだよねぇ。ははは》
「おうおう、あの司会ども。ずいぶんな言いようだな」
「なーんかおれたちのパーティが格下確定みたいな言い方っすよね」
ソルムスとエルドリアスは司会者たちの見解に憤慨していた。そんな彼らを見てか、対戦相手が便乗してくる。
「あれあれぇ? 誰かと思えば天才ラウル君じゃないか。どうしたんだい、そんな凡人メンバーしか集められないなんて。天才も地に落ちたものだね」
「んだと、てめえ。ラウルが嫌々オレたちと組んでるって言いたいのか」
ソルムスが脊髄反射で突撃しそうになるのをラウルがさっと制した。
「こらこら相手の挑発に乗るんじゃない。ああいうのは言わせておけばいいの」
「ほお、さすが守りの天才は悪ガキたちのお守りも上手だなー」
相手パーティがゲラゲラ笑う。ソルムスはラウルに押さえられながらも悪態はとまらない。
「けっ、あんなこと言われてほっといていいのかよ。なあおい、モネだって腹立ってるだろ。なんか言ってやれよ」
「何を言われたって関係ありません。勝つのは私たちですから」
「モネの言うとおりだソルムス。あのお先輩方を黙らせるにはそれが一番ってことだ」
まだ不貞腐れ気味のソルムスに、ラウルは話題を変える。
「そんなことより、おまえたちモネの作戦はちゃんと覚えてるか?」
「おう。それはもちろんだ」
「ちゃんと頭に叩き込んできたっす」
「ようし、なら思いっきり暴れてこい。背中は俺が守る」
「おう!」
「はいっ!」
「よろしくお願いします」
両パーティが向かい合って整列する。
ピーっと試合開始の合図が鳴った。
相手のビスタル・パーティの攻撃陣がすぐに魔法詠唱をはじめる。そこへソルムスがさっそく突っ込んでいった。
「うおりゃあああ!!!」
ソルムスの鉄拳が相手のパーティに届く寸前、魔法防壁がソルムスの拳を妨げた。
「くそっ!」
威力の強い魔法を使うには詠唱の時間が長くなる。相手パーティの守備担当はその間、一人でメンバーを守らなければならない。相手の守備担当もそれなりに優秀な学生のようだ。
(でも安心した)
相手パーティは今回も同じ戦法だ。
こうして守備担当が一人で他三人を守りながら詠唱の時間を稼ぎ、最後に大火力で一気に攻める。さっきの一回戦でも、こうやって相手パーティを力でねじ伏せていた。相手のペースで戦えばこちらに勝ち目はない。天才ラウルの防壁があるとはいえ、攻撃の総和としてははるかに相手パーティの方が優っているのは事実だ。
(だったらまともにやり合ってはダメだよね)
ソルムスと相手の守備担当は一進一退の攻防を繰り広げていた。そこへエルドリアスの補助魔法が加わる。
「行きますよう! ソルムスさん!」
「うおお! 頼むぜエル!」
補助魔法によって威力を増したソルムスの攻撃は、相手の魔法防壁をジリジリと押し返していく。相手の守備担当も負けじと、いっそうソルムスの攻撃に集中している様子だ。場内の人々もその様子を固唾を飲んで見守っている。
会場の誰もが、彼ら二人の派手な攻防に集中していた。
そのとき。
モネがソルムスの影から飛び出した。と同時に流れるような動作で弓を構え、矢を放つ。
このときモネの動きを追えた者が何人いただろう。
相手の守備担当がモネの姿をとらえたときにはすでに、モネが放った矢が守備担当の体を射抜いたあとだった。彼の頭上に『脱落』の文字が浮かびあがる。
相手パーティも観客も、その文字をポカンと口を開け見つめていた。
《おおっと! なんということでしょーう! いきなり味方の影から飛び出した一年モネ・ルオント。瞬く間に相手守備を射抜いたあ!》
《今のは守備が全く追いつけてなかったですねえ。うまく隙をついたなあ》
《ええ、ええ! ソルムス君の攻撃が派手なだけに、みんなそちらに意識が持っていかれてましたよね。これはこの後の試合展開が分からなくなってまいりました!》
相手パーティにも動揺がはしっている様子だった。射抜かれた当の守備担当は何が起こったのか分からない、といった顔をしている。
「くそ。守備をやったくらいで調子に乗るなよ!」
相手攻撃陣の詠唱が終わった。彼らは焦ったのか三人同時に攻撃を放ってくる。強力な魔法攻撃がモネとソルムスを襲った。が。
モネの眼前には美しい魔法防壁が浮かんでいた。強火力の攻撃にもびくともしない不破の防壁。
ラウルの口元に仄暗い笑みが浮かんでいた。
「あれあれ、こんなものですか。先輩?」
「ちっ」
守備担当がいなくなったパーティが、長い時間、敵の攻撃を凌ぐのは困難だ。一人がソルムスからの攻撃を防ぎに回るが長くは持たないだろう。相手パーティは早くに決着をつけようと火力を抑え、詠唱の短い攻撃に切り替える。たとえ威力が弱まっても、持続的な飽和攻撃でラウルの魔力切れを狙えば勝機があると踏んだのだろう。が。
(もう遅い)
モネは最初からこの流れを読んでいた。いや、この流れに持ち込んだのである。
相手が新たな攻撃の詠唱をはじめた時には、すでにこちらのエルドリアスは詠唱を終えたあと。
エルドリアスの魔法によって強化されたモネの矢が、フェニックスのごとく炎をまとう。炎に包まれた矢は、必死に詠唱をしている相手三人を次々につらぬいていった。
わー! と場内が歓声に包まれる。
《なあんとモネ・ルオント、一本の矢で相手パーティを蹴散らしたぁ! これでラウル・パーティが優勝候補を見事撃破です!》
《これは戦略勝ちでしょうねえ。ラウル君のパーティには優秀な参謀でもいたのかな》
《大火力パーティの隙をうまくついた戦略でしたね。今年の校内戦は早くも波乱の予感がしてまいりました! これは次の試合も目が離せません》
場内がまだどよめきに包まれていた。
「すげえ、見たか今の」
「モネ・ルオントって誰だ。そんなやつ一年にいたか?」
「遠距離アタッカー兼、戦略担当なんだって〜。なんかカッコいいね」
これで本格的にモネの名が学園中に知られてしまった。
(これでもう後戻りはできない)
しかし知られてしまえば、案外腹もすわるものである。
「いよっしゃあ!」
みんながモネのところへ駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっと! ほんとにモネさんの言うとおりにしたら勝てたっす!」
「うおお! 気持ちいいぜー!」
「ふっふっふ。うちの参謀は優秀なんだよ」
「何でお前がドヤってんだよ。ラウル」
四人とも笑った。
「さあ、ここからですね」
こうしてモネたちは三回戦へと駒を進めた。
三回戦は二回戦以上にあっという間にけりがついた。
そして明日は準決勝だ。これに勝てば、お待ちかねの魔物狩りができる。
「よぉし! 次もこの調子でぶっ飛ばすか!」
「そっすね! このまま決勝までいきましょ!」
「いえ、次は戦略を変えます」
モネの言葉に、他の三人が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「え? 何でだよ。せっかく調子いいのに」
「この調子は続きません。そろそろ効果が切れる頃ですから」
「効果?」
「ええ。最初はみんな私たちのことを知らないから、こちらの策略にうまく乗ってくれました。しかし、そろそろ私たちの攻撃パターンを攻略される頃です。さっきの三回戦の相手も、最後の方は私たちの攻撃に慣れてきてる様子でした」
「そうかあ?」
「ああでも、言われたらそうかもしんないっすね」
「何か考えがあるんだな、モネ」
モネは三人に新たな作戦を伝えた。戦略を変えることにもリスクはある。しかし不安はなかった。
「くくっ」
モネは静かに笑う。他の三人が不思議そうな顔をしていたが、モネはすでに明日のことで頭がいっぱいだった。
「対人戦も、案外楽しいものですね」




