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汚された聖地 ~Life Goes On~  作者: 神波 由那
第1章
9/14

解ける真実

駿が扉を開けそうになると、綾は慌ててベッドサイドに戻った。


「おはよう。起きてたんだ」


「ちょっと顔を洗おうかと思ったので・・・」


しかし、綾の顔色はあまり良いものではない。


「具合悪いの?」


「そ、そうではありません」


駿は一息つくと切り出した。


「実は自分の実家に車置いて来ちゃって。午前中には取りに行きたいから、午前中から球団の用事が終わるまで、留守にするけど──」


綾はどこかぼんやりとしながらも、駿の方を眺めていた。

彼はそれがなぜだか分からないままに、ある提案をした。


「あのさ。今日の夜、ドライブに行こうか?」


彼女の駿に投げかけた視線がずっと真摯になっているのが分かる程だ。

綾は意外にも即答した。


「ここに居させてって頼んだのはわたしだから、提案には付き合う」


彼女からは同意の言葉を貰って、駿は少しホッとした。


それから、改めて車を取りに行くことを伝えると駿は部屋を後にした。

実家はそう遠くないのですぐ到着したが、彼にはある目的があった。


大吾には例の雑誌を封筒に入れて、渡して貰うよう頼んである。その内容を駿自身が誰より知りたかったのは、言うまてもない。


ひとつでも多くの、綾の事を知りたい。

その感情がなんなのか、自分でもよく分からないが──。


実家の傍の駐車場に着くと大吾が来ていた。


「とりあえず俺が見つけたのはこれで全部だよ。

あとは兄貴が確認して」


「俺、この後友達と用事あるんだ、またね」


そう言って足早に大吾は去っていった。


停止した車内の中で、その封筒の中身を取り出す。数冊は入っている。

綾の記事が載っているページには、大吾が予め付箋を貼っていたようだ。


そこで知ったのは、綾が今年の春まで将来有望なバスケ選手であったこと、

数々の栄光を手にしたこと。


それなのに、3年春の大会直後に故障。


それが夏の大会にも間に合わない程の、絶望的な怪我であったこと。練習中の故障とは、確かに書いてある。

だが、手術するほどではないとも書かれている。


その上、故障の詳細も明らかにはされていないし、検査の結果すら載っていないのだ。


(なんだか、くだりがおかしいな)


他には、彼女は小学生の頃からバスケを始めたこと、それからやはりバスケ選手であった兄がいたことなどが分かった。


(この兄も、彼女には冷たかったのか?──家庭内に問題はなかったのだろうか)


そうでないと彼女を自殺を決意するまで追い込む理由がない。


綾はおそらく、春の故障の時点で何もかも失ったように思えた。


バスケをひたすら頑張ってきながら、それが全て奪われたこと…


(俺には、こんな体験は高校時代なかった…

 昨年の不甲斐ない成績で悔しいと思っているだけだし、

ある程度の生活も、保障されているのだから…)


プロも勿論だが、まだ高校生の選手が選手生命を絶たれた時のショックは年齢的なことも重なって計り知れないものなのだろう…。


駿も実際、高校時代の野球部でそんなチームメイトを数人知っている。

中には退学に追い込まれた者もいた。


彼はため息をつきながら、雑誌を封筒にしまうと助手席に放り投げて車を走らせた。


綾は、例のホテルの一室でずっと考えこんでいた。

昨晩のレストランの食事では少しだが食欲を取り戻したものの、今日は全く食事に手がつかない。


「でも、何か食べないと。夜には約束があるんだし」


駿には、恐らくもうバレている。

自身が駿の事を再起をかける野球選手だと分かったと同時に、綾自身の過去についても駿は何故か分かっている。


「でも、それでも誰でも理解できるものじゃない」


2年生ながら実力がずば抜けていたのは確かだが、先輩には冷ややかな目で見られたこともある。

親に頼んでもいないのに、父は自分をレギュラーメンバーにしようと監督に金を積んだことも知っている。

闇を追えばいくらでも出てくる。

そしてとどめがあの事件だ。


唯一の時間と、癒しと、愛しさを永遠に失われたあの日。


「駿さんは出会ったばかりだけど、どうせ…いつかまたわた しは死にたくなるだろう。

 だから…。打ち明けてもいいのかな。

 彼にとっては、多分ちっぽけな事でしかないかもしれない」


綾は金銭的のお世話になりっぱなしだったし、遠慮は要らないと言われてはいたが、外に出る気力がなかったので、申し訳ないと思いつつ少しだけルームサービスというものを使って、昼食をすませた。

余りに考えすぎて、また身体が眠たい。心も眠たい。


いつの間にか、綾はベッドに横になると、そのまま眠りについた。


綾の雑誌を時々余すところなく眺めながら、午後の球団の用件は済みそうだ。

関係者から「また随分珍しい雑誌を読んでるな」とは突っ込まれたが、素っ気なく対応するにとどめた。


「用事も終わったし、そろそろホテルに戻らないと。その前に綾ちゃんにLINEをしておこう」


暫くしても既読がつかない。


「部屋にいるだろうし、どうかしたのかな…」


一応、ドライブの計画は駿なりに色々な計画を立てた。ベイブリッジの見える昨日とは思考の違うレストランに彼女を連れて行った後に、夜景を二人で眺めながら、もっと話がしたい。


何故俺はこんなに、綾ちゃんと話したいんだろう?

1回放りだしたら、後は知った事でもない筈なのに。


そうすると、綾から返信がきた。


「すみません。昼寝してしまいました。帰り、気を付けてください」


自分が辛い状況なのに、彼女は精一杯の気遣いをくれる。


実際、また3日しか経っていないのに、出会った初めのころを除いたら彼女に迷惑をかけられるどころか、逆に心配してくれる。

駿にとって、綾は居心地のいい存在になっていた。


「これが本当に疲れない相手ってことなのかな」


そう思い、彼は車をホテルに向けて走らせたいた。

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