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汚された聖地 ~Life Goes On~  作者: 神波 由那
第1章
6/14

食事の夜

ホテルの部屋を出た2人は、最上階のレストランに入った。

そこは大層高そうな店で、一目みただけで高級店と分かる。


綾は、さすがに慣れていなさそうなので、駿も出来るだけ気遣いをした。

席までエスコートし、彼女を椅子に座らせた。


それは日頃の駿の悪い行いが、初めて良い意味で役に立ったのかも知れなかった。


「何頼む?好きそうなのある?」


綾は2品程の一品料理に、ソフトドリンクを注文した。


(本当にこれだけで足りるのかな?それとも遠慮してるんだろうか)


そう思いながら自分の分を頼むと、食事が来るまで綾と向き合う事になる。


向かい合って座るのは、これが初めてだ。


(何から聞いたらいいんだろうな)


そう思っていると、綾の口が開いた。


「部屋のテレビ見ました。怪我していたんですね。

来年は投げれそうなんですか?ピッチャーなんでしょう?」


俺の出てるテレビ見たのか・・・。

綾はどう思ったんだろう?


「・・来年、投げれなかったら俺は戦力外になるな」


特に心配させる訳でもなく、駿は現実味を交えた上でそう答えた。


「綾ちゃんは、まだ高校あるよね?

詳しくは聞くつもりはないけどどうしてこっちまで来て

あそこにいたの?」


綾は少し考えてから、


「この辺りが思い出の場所のひとつだったから」


「そうなんだ」


駿は余り今深追いしまいと決めて、運ばれてきた料理を食べ始めながら綾を見ていた。


最初店に入った時にぎこちなく見えた彼女だったが、食事に手をつけるときの仕草は綺麗そのものに見える。


マナーもきちんとしていて、何より手つきや食べ方が綺麗だ。


(高校生のように思えないなあ)


そう思いながら綾を見つめている。


「駿さん。凄く美味しい。」


少しはにかみながら笑ったのを見たのは初めてだ。


「そうか。良かった。沢山食べて」


「・・・太っちゃうから」


そう話す彼女はごく普通な女の子だ。


(あんな状態だったのに、ちゃんと笑えるんじゃん)


「駿さんの方が、あまり食べてないような気がしますけど・・・?」


しまった。綾ばかり見てたから自分の目の前の食事をすっかり忘れている。


「大丈夫。食べるよ」


出会った時は投げやりで悲しそうな表情しかしなかった彼女は、今見違えた姿で目の前にいる。


しかも、所作のひとつひとつは女性の誰もが出来るそれではない。


(アンバランス過ぎて、とても自殺に来た子に見えない・・・だけど、心の奥底には大きな傷がある。

でなければ、思い出の場所とかで死ぬ勇気なんか湧くのだろうか?)


そう思いながら、食事の時間は進んでいった。


部屋に戻ると、またお互いシャワーと着替えでバタバタしながら、寝る前の時間になった。


女性用のパジャマは調達出来なかったので、男性用の新品で買ったものを綾に着させることになった。


しかし彼女は背が高いからか、袖は些か長めだが、下はすんなり着こなせていた。脚が長いのか。


(そういや、さっき並んで歩いてても違和感なかったよな)


「綾ちゃんって、背が高いよね」


「・・・コンプレックスなんです」


「それでもいいじゃん。何か部活は?」


駿が、しまったと思ったのはその直後だ。

それは彼女が出会った時のように黙り込み、ベッドの上で小さくうずくまってしまったからだった。


「ゴメン。変なこと聞いちゃったかな」


綾は一生懸命首を振った。


「そうじゃないんです・・・

ただ、わたしは」


駿さんと違って、諦めてしまったんです。


その言葉を聞いた時に、駿は何故かあのキーホルダーと十字架のネックレスらしきものが頭に浮かんだ。


「・・・よく分からないけど、諦めたからこっちに来たの?」


「そうかも知れません」


「今からじゃダメなの?」


「遅いです・・・

大学も推薦・・・取り消されたから」


恐らく、綾はとても辛い思いをしたに違いない。

それが自殺未遂の原因だろう。

だが、諦めて推薦を取り消されただけで、死のうと思うだろうか?

いじめ?妬み?嫉妬?

背景はなんだろう?


「学校で酷い目にでもあった?」


「・・・それもありますけど、それだけじゃないです」


「学校には・・・卒業前に戻れそうなの?」


綾はいま高校3年で、卒業も間近だとは聞いた。


「分からないです。でも卒業出来なくてもいいんです」


「なんで?」


「あなたが・・・どんな人で、どんな思いをして

やり直そうって決めたのかを、知りたいです」


「・・・」


「ずっと先を見るのが怖い。

だから、しばらく近くに居てくれますか?」


時期はもう年末間近に迫っている。

正月が明けたら、自主トレが始まる。

幸い、駿は出身高校で自主トレをやるので、まだしばらくは居れても・・・

彼女は立ち直って神戸に帰れるんだろうか。


でも、近くに居てくれと言われると、何故か悪い気はしない。

特定の女性が今いるわけでもない。というのか、居たかも分からない。


「ずっと先か・・・確かにな。怖いよな。だけど」


「・・・?」


「約束して欲しいことがある。それは綾ちゃんが立ち直ったら、ちゃんと神戸に帰らないとダメだから。

綾ちゃんは、卒業だけはして欲しいから」


多分、それが一番の答えでしかない。

何が大きな原因か、まだ分からないが。


「自信がない・・・」


「ずっと先じゃない。ちょっとの先だけクリアすれば

きっと、大丈夫だから」


どうか、マイナスの勇気をプラスの勇気に変えて欲しい。


駿はただ、その時点でそう思うしかなかった。

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