第5.5話 昼戦・左翼側の敗北
戦いの疲れで眠ってしまったルナリェナを抱き上げ、深都は蛍にこの左翼の前線を任せて後退した。
ルナリェナの攻略した右翼は瀕死の疾風の氷皇回収した後、深都の部隊が引き継いでいる。蛍の部隊と同じく中型五芒星浮遊陣を6騎展開して皇都騎士団と戦い平行線を保っている。
「まさかルーナが負けるなんて思ってもいなかったよ、リェナも消耗が激しいし…」
月の一族の指揮官の1人として、予想外過ぎる状況だ。昼間の戦いはいつも通り前線の維持をするにしても今夜の戦いにはルーナクレシエンテもルナリェナも参加させられる状態には無い。
「ル、ナー…」
深都の腕の中で眠るルナリェナの言葉が彼の心に突き刺さる。どうしてもっと早くルーナクレシエンテの方に蛍を援軍に送ったりできなかったのだろうか…。でも俺は、終わってしまったことは悔やんでも何も変わらないと知らないほど子供じゃない。
ーーー次は絶対に間違えない。
深都は後衛の仲間の1人にルナリェナを預けて月に帰るのを見送ると、ルーナクレシエンテとの戦いでスタミナの大分削られている深紅の炎皇と戦う蛍を一瞬だけ見た。
「蛍、ルーナを早く」
〈分かってるよ!〉
通信術で蛍と会話をし、深都は自分の部隊の戦っている右翼へと向かった。
左翼では深紅の炎皇と戦う蛍の部隊は地上に倒れているルーナクレシエンテを連れ帰ろうと必死だった。
「くそっ!ルーナに近づけない」
太陽神の加護のせいで蛍達の部隊は深紅の炎皇に手一杯になり、早く助けたいルーナクレシエンテのいる地上に近付けないでいる。
蛍はどう部隊を展開すれば深紅の炎皇を足止めでき、ルーナクレシエンテの所に行けるか考えている…剣を打ち合った後に互いに距離を取ったそんな瞬間、いきなり深紅の炎皇の魔力が膨れ上がった。
「お前らぁ!!」
怒号と共に強い殺気が蛍達、月の一族に飛んでくる。
それよりも強く、鋭く、殺気を向けたいのは他でもない蛍自身だ。深紅の炎皇さえいなければ妹を助けられる、地球人さえ存在しなければ、戦争なんてやってない!!
「どけ!邪魔だー!!」
ルーナクレシエンテの側に行くために蛍は力強く空中を蹴った。その瞬間…魔力の気配無く無数に広がる稲妻が蛍を撃った。
ーーー無影‥の、雷皇…
いつもながら、気付けなかった。無影の雷皇の攻撃が防御も、ルーナクレシエンテを助けることで頭がいっぱいだったためにいつも忘れるはずもない警戒も忘れていた…何もしていなかった蛍達の部隊はもろにその攻撃をくらう。
「雅己様、ここは恭夜様が率いる我々第弌部隊が戦います」
お休みになって下さい、と皇都騎士団の第弌部隊の副隊長を務める鷹臣・グランノースが第弌部隊を連れて現れた。第弌部隊の数名が好機とばかりに、自分達の尊敬する隊長の稲妻をくらった蛍に襲い掛かる。
痛みに顔を歪めていた蛍はその攻撃に反応できずにいたが、途中から防御して後ろに後退していった。
「無影の雷皇の部隊に攻撃を受けてる…このままだとルーナを連れていかれる」
蛍が結界術を展開しながら、通信術で皆に伝える。
敵の攻撃が止まない。動けない。皇都騎士団に無造作に扱われて回収されるルーナクレシエンテを見付けても、助けることができない自分に怒りをおぼえる。
〈蛍!左翼が急激に押し返されてる…ルーナは絶対に連れて帰るんだ。それに左翼側にもお前の方に割ける援軍の余裕はないし…〉
深都の通信術の声は司令塔としても兄妹としても、納得のいくものではないはずだ。蛍もそう思っている。そのはずなのに…連れて行かれるルーナクレシエンテを見ていることしかできない。
ダメージを受けたこの体では、この状況では、敵の攻撃を防御することしかできない。
右翼は戦線を維持し、左翼では戦線が押し戻されてルーナクレシエンテを皇都騎士団に捕虜として連れて行かれるという結果になった。




