番外編 とこのペット事情
夕暮れ道を歩く、二人の男女がいた。
さりげなく道路側を歩くのは、3年生の古賀秋兎だ。
その隣を歩く、1年生の椎葉とこ。
一見、兄妹にも見えるが、二人は正真正銘のカップルだ。
今日は、そんな二人の会話を覗いてみましょう。
「とこね、昔ハムスター飼ってたんだよ。3匹飼ってたんだよ。」
「知らねぇよ、聞いてねえし。」
喧嘩しているように見えるが、これが二人の日常会話だ。
「あっ、3匹って言ってもね、3回だよ。一匹ずつだよ!」
とこは両手で3を作って言った。だが、それでは3ではなく6だった。
「一匹目はね、2年生の時でね、1週間で死んじゃったんだ!」
とこは「えへへー」と言いながら言った。
「1週間ってセミかよ。」
「それ、誰かにも言われた!」
秋兎は呆れながら言ったが、すでに誰かに言われていたようだ。
とこは続けて、「1滴も涙でなかったよ!」と笑った。
だが、到底笑い事ではなかった。
「2匹目はね、1ヶ月で脱走しちゃったんだぁ。」
今度は困ったように言った。
そんなとこに、秋兎は言った。
「むしろよく1ヶ月がんばったな、そいつ。」
「でもね、ほんとはとこ、知ってるんだよ!」
とこは手を上下に振って言った。
「脱走する前の夜、ゲージの蓋が少し開いてたの!でも見なかったことにした!」
「閉めろよ!!」
そんな秋兎をお構いなしに、とこは話を続けた。
「しかもね、次の日、お父さんが庭で大きいアオダイショウ見たんだって。」
そう、とこは気づいてしまったのだ。
今頃アオダイショウではなく、アカダイショウになっていたことを。
「えっ?2年生の話だよな?2年生でそんな悟ってたの?」
秋兎はとこの思わぬ一言に驚愕した。
「そうだよ!とこは賢い女なんだから!」
賢いどころじゃないだろ…と秋兎は思ったが、それは口には出さなかった。
「3匹目はね、3年生くらいのころで、4年も生きたんだよ!」
とこは「ふふーん」と言って、大きく胸を張った。
そこで、秋兎は気づいた。
「お前、ハムスターの寿命って2年くらいだからな?」
「えぇー?じゃあ、いくつなの?」
とこは首を傾げた。
「人間で言うと200歳だな。」
「えっ!!?」
秋兎の一言に、とこは「ひえぇぇ」とオーバーにリアクションした。
そんなとこを見て、秋兎はまた言った。
「バケモノかよ。」
それを聞いたとこは、自分はバケモノを飼っていたことに気づき、たらたらと冷や汗をかいた。
「ほんとだぁぁっ!とこ、バケモノ飼ってたんだ!」
だが、言い終えたとたん、何かを思い出したようにはっとした。
「そういえばね、とこ、最後の1ヶ月、餌あげるの忘れてけど生きてたよ?」
「おい!!」
今度はあわあわすることなく、「忘れてたっ☆」と言った。
「1ヶ月って、人間で言うとどれくらい?」
とこは首を傾げて秋兎に問いかけた。
そんなとこを見て、秋兎も頭の中で計算し始めた。
「4年くらい…?」
「バケモノだね…。」
「バケモノだな…。」
とこのハムスターは、(人間で言うと)4年近く何も食べずに生きていたらしい。
そんな事実を知ったとこも、さすがにそれにはびびっていた。
「なんか…とこ、もう絶対ハムスター飼わない。」
「オレだって飼わねぇよ…。」
ハムスターの新たな一面を知ってしまった二人は、もちろんこれ以来ハムスターを飼うことはなかった。
ハムスターに絶望した瞬間…
すべて実話です。