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これが恋なら終わってる  作者: たろさん
第二章 住むこそものの上手なれ
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第17話 躊躇い

俺の視点、永田と電話で話します。

「ちょっと電話してくる」


 気まずくなった俺は、自分の部屋に逃げ込んだ。

 今は彼女の顔を見られない。あのことを聞いてしまったから。


 電話をかけようとスマホを触ったとき、ちょうど永田からかかってきた。


「どうしたんだ。今、かけようと思ってたんだが」


「あらっ、彼女とケンカでもしたんですか」


「ちげーよ。お互いに自分の生い立ちを話したら、なんか気まずくなっちまって」


「え~、言ったんですか()()だって」


「お、おい、おめえ、何で知ってんだよ、そんなこと」


 永田はいつも核心を突いてくる。やはり超能力者だな。


「え? 当たったんですか。長い付き合いだから、なんとなくわかりますって、経験なさそうなの。ああ、でも、だからって馬鹿にはしませんよ。なんたって、野中さんは純潔そのものですからね」


「そのものってなんだよ。いや、まあ、そういう機会がなかったってだけで」


「で、それを聞いた彼女はどんな反応しました?」


「いや、特には。そのあと、あっちの生い立ちも聞いたんだが、俺が余計なこと聞いてさ。それで、なんか変な空気になって逃げてしまった」


「わっ、ひどい。どうして逃げるんですか」


「だって、あの子、口滑らせたんだか知らんが……しょ、処女だって。なんだか悪い気がして、俺は何も聞いてないからって言って……」


 永田は「あぁ~、もう」と呆れたような声を出した。


「性に関しては人それぞれですから。でも、良かったじゃないですか、お互いに純潔で。もしも、どちらか経験豊富だったら、それはそれで気まずいでしょうよ」


「それもそうか? うーん、でも困ったな。これから、どうすりゃいいんだ。あの子の顔を真正面から見る自信ないわ」


「まぁだそんなこと言ってるんですか。いいかげん、大人になってくださいよ。彼女だって、わかってくれますって」


「そうだよな……あ、ところでお前、なんで電話かけてきたんだ」


「……いえ、なんとなく気になったんです」と、永田は珍しく言葉を詰まらせた。


「その、彼女さんのことが」


「は? どういうことだ。俺がなんかするとでも思ったか」


「いえ、その反対です。なにもしないんじゃないかと心配で」


 こいつ、なに言ってるんだ? 俺より彼女のことが心配ってか。


「突然ですけど、彼女さんに代わってもらえますか」


「はあ? そんなことしてどうするつもりだ」


「助言ですよ。なにかと言いにくい野中さんの代わりにオレが言っときますよ」


「いいって、そんなの」


「それを決めるのは彼女ですよ。いいから、聞いてみてくださいよぉ」


 電話の向こうで永田が少し怒っているような気がした。

 何か悪いことをしたとでも言うのか?


 俺は仕方なく部屋を出ると、彼女はまだ、そこにいた。

 居間のテーブルの前に座り、外を眺めている。


「電話、代わってくれって。同僚の永田っていうやつなんだけど、出てくれるか?」


「……私が、ですか」と、彼女は首を傾げた。当然の反応ではあったが、彼女は差し出したスマホを受け取ってくれた。


「もしもし、代わりました。あの、町家と申します。はい」


 永田、余計なこと言うなよ。


「え、はい。まだですけど、ええ。でも、私、彼の、野中さんの口から聞きたいんですけど」


 俺の口から、何を聞きたいんだよ。


「……あ、はい。そうです、忍です。ほんとに、あの永田さんですか? わあ、お久しぶりです」


 彼女の顔が一瞬にして明るくなった。もしや、永田と知り合いなのか?


「突然、店がダメになっちゃったから大変でしたよ。永田さんは、お元気でしたか」


 彼女はニコニコと見たことのない笑顔で話している。

 たぶん、従業員と客の間柄なんだろうけど、なんか感じ悪いわ。


「はい。いますよ、目の前に。でも、いいんでしょうか、本人から聞かなくて」


「おおーい、永田。変なこと吹き込むなよっ!」


 俺の大声が届いたのか、電話の向こうから永田の笑い声が聞こえた。

 そのあと、続けて彼女がクスクスと笑い出した。こいつら、何がおかしいんだ?


「ちょっと、子どもっぽいところあるみたいですね。ふふっ。でも、そういうのっていいですよね。あ、永田さんも分かります?」


 なんだよ、話が弾んでんじゃねえかよ。いいかげん、早く終われよ。


 そのあとも談笑が続く。俺だけ蚊帳の外かよ。

 

 ふいに、彼女と目が合った。その顔には、自然な笑みが浮かんでいる。

 あいつは一体、何を言ったんだ。


「あは、わざわざありがとうございます。いえ、こちらこそ。久しぶりに声が聞けてよかった。ええ、お元気そうで。では、野中さんに代わりますね」


 彼女は、心なしか満足そうな顔で俺にスマホを渡した。


「おい、変なこと言ったら承知しねえぞ。休み明け覚悟しとけよ」


「まったく、子どもみたいなこと言わんでくださいよ。彼女に笑われますよ?」


 彼女は口を押え、必死に笑いを堪えている。そんなにおかしいか。


「……もう、笑われてるよ。切るぞ」


「はっはは。仲良いですね。では、休み明け待ってますからね」


 電話を切ると、自然と深いため息が出た。彼女はまだ、クスクスと笑っている。


「何がおかしいんだ」


「いえ、別に。あの、今日はあなたのこと教えてくれてありがとうございました」


 なんだ、急にかしこまって。気味悪いな。


「こちらこそ、おまえのこと教えてくれて、どうもありがとう」


「はい。ありがとうございます、佐一郎さいちろうさん」


 なんだと? その名前を聞き、全身から汗が噴き出した。

 彼女は頬を赤くしながら俺を見ている。


 永田め、やりやがったな。

次回は、彼女の視点です。

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