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これが恋なら終わってる  作者: たろさん
第二章 住むこそものの上手なれ
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12/14

第12話 厚意

彼女の視点、中華です。

 当たりだ。


 パラパラではない、ベチャーハン。すぐこぼす私にはありがたい。

 レバーは臭くないし、エビも大きく食べ応えがある。


 味もしょっぱくなくて、ちょうどいい。


「こら、こぼしてんぞ」


 彼に言われて下を見ると、細かいネギがいくつか落ちていた。

 急に恥ずかしくなってしまって「はあ」とため息のようなものが出る。


「おいしくないのか」


「いいえ、おいしいです。でも、食べるのが下手なのか、今みたいに、よくこぼしてしまうんです」


「それは俺もだ。だから、このチャーハン特注なんだ。パラパラしてるの嫌いでな、親父さんに無理言って、特別にベチャーにしてもらってる」


 なるほど、そういう要望も聞いてくれるのか。今度、ひとりのとき、お店に行ってみようかな。あの学生もかわいかったし、もし彼について知っていることがあったら聞いてみたいけど……。


「あの、食べ終わったらお風呂の入れ方、教えてください」


「ああ、そうだな。今日は最初の日だから、おまえ先に入れよ」


「いいんですか、一番風呂」と言うと、彼はフッと笑って頷いた。



 食べ終わったあと、皿洗いをしようとしたら、彼が「これは俺が」と言って譲ろうとはしなかった。ちょっと頑固な一面もあるのかしら。


 その後、彼のあとについて風呂の入れ方を教わった。食べてすぐ入るのはよくないことは知っていたので、少し休憩してから脱衣所に向かった。


 全身を洗って湯舟に浸かり「あぁ~」と息を吐いた。

 今日買ってきた入浴剤、勝手に入れてしまったけど怒られないかな。


 でも、一番風呂なんて久しぶり。健康ランドに比べたらだいぶ狭いけど、気持ちがいい。あっ、やっちゃんどうしてるかな。あとで電話してみようか。



「お風呂、お先にいただきました」


「おう、どうだった?」


「やっぱり湯舟があるといいですね。足は伸ばせないけど」


「だろ?」と彼はなぜか得意げに言って見せた。その顔は、無邪気な子どものようにも見えた。


「お、なんかいい匂いがすんな。入浴剤かなんか入れたのか」


「はい、勝手に入れてしまって。平気ですか」


「別に、気にしねえけど」と言ったあと、彼は「よっこいしょういち」と言いながら立ち上がり、脱衣所へ入っていった。

 

 一年に一回は聞く掛け声であったが、まさかここで聞くことになるとは。

 そうだ。今のうちに、電話しとこ。こそこそするのは、なんだか嫌だけど。


「あ、もしもし。今、大丈夫?」


 やっちゃんに電話すると、大抵すぐに出てくれるが、今日は妙に早く感じる。


「おお、ちょうど一段落ついたところだ。さては、見てたな」


「見てないし。今ね、ご飯食べて、お風呂にも入ったよ」


「なんの報告よ。もう、仲良くなったんか」


「うん、仲は悪くはないかな」


「じゃあ、いいじゃん。あと、なにか気になることでもあるんか」


 これからどうすればいい? なんて聞いたら、また怒られるだろうな。


「……ない、けど。やっちゃん、さみしくない?」


「いや、別に。こうして電話もできるし、おまえがいなくなって、その分忙しいからなぁ。ああ、常連のじいちゃんばあちゃんがさみしがってたぞ。話し相手がいないからって呼ばれっけど、やっぱおまえがいいって」


「そう。だったら、そっちに戻った方がいいかな」


「いやぁ、そこから結構距離あるからな。働くんだったら、家から近い方がいい。もし、無職を気にしてるんだったら、同居人に相談してみたらどうだ」


 そうだ、私は無職だった。学生でもなんでもないんだ。


「そうね。いつまでも家にいるのも悪いものね。あとで話してみる」


「あっ、じいさんが呼んでるから切るぞ。またな」


「うん、ありがとう。じゃあ」と言って電話を切った。


 その数分後、彼はシャツとパンツ姿で目の前に現れた。シャツは同じような色と形だが、パンツは奇抜な柄だった。


「あの、ちょっとお話が……」


「なんだ、あらたまって」


 彼は紅潮した顔で、テーブルの前にドカッと座った。その拍子に、ふわっと入浴剤の香りが漂った。


「今、働いてないので、いずれはと思っているんですけど。それで、相談したくて」


「そんなの、明日から考えればいい。別に、そんな、すぐ家賃払えとか言わねえし。まあ、気にしてるんだったら、あれだけど」


 彼は頭をガシガシと搔きむしった。トニックシャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「少し休みたいのもあるけど、就職活動も再開しようかとも考えていて。あなたが、もし、私がずっと家にいるの嫌だったら……」


「嫌じゃないっ。むしろ嬉しい……いや、なんていうか。なんだな」


 彼は口をもごもごさせ、恥ずかしそうに俯いた。なんで、そんな顔するの?


「では、この生活に慣れるまで、しばらくお家にいますね。あっ、そうだ。お仕事の日、お弁当作りましょうか? よさそうなお弁当箱あったんで買って来たんです。私のお昼のついでなんですけど」


 彼は「えっ!」と頭を上げた。その顔はすごく驚いているように見えたが、少し笑っているように見えた。


「そ、そんなこともしてくれるのか……ハハッ、昼食代が浮くな。いつも、コンビニ弁当か社食だからな。いいな~」


「では、月曜日からでいいですか」


「おお、頼むよ。あ、いや、月曜は急に休みになったんだった。だから、火曜日からだな。うん、そう」


「あら、そうなんですか。じゃあ、月曜日も一緒にいられるんですね」


「そうっ……だな。ハハ」


 私がなんとなしに言ったことではあったが、彼は妙に嬉しそうだった。

次回は俺の視点です。

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