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狂った針は戻らない  作者: 暦海


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心からの言葉を。

「………………ん」



 ふと、目が覚める。霞んだ視界に映るは、一面に広がる白い天井。だけど、きっと見覚えの……えっと、ここは……ああ、そうか。あの時、僕は――



「…………おはようございます、由良ゆら先生」


 ふと、鼓膜を揺らす微かな声。誰……なんて、流石に確認するまでもなく。鈍い痛みに顔が歪みそうになるのをどうにかこらえ、ゆっくりと身体を起こす。そして、左斜めへと視線を――笑顔を向ける。病室にて、少し俯き腰掛ける清麗な少女へと。



「…………蒔野まきのさん」





「……あの、蒔野さん。僕、どのくらい寝てたか分かるかな?」


 ともあれ、控えめに尋ねてみる。とは言え、おおかたの推測は付いている。この雰囲気くうきから察するに、恐らくは――



「…………ほぼ四日間、です」

「…………そう、なんだ」



 ……うん、違った。夜だとは思ったので、てっきり丸一日くらいかと……いや、随分と寝てたんだね。ひょっとして、足りてなかったのかな? 睡眠。……まあ、それはともあれ――


「……あの、心配かけてご――」

「……嘘つき」


 ごめん――そう言おうとした僕を遮る形でそう口にする蒔野さん。そして――



「……許さないって、言いましたよね。次に約束を破ったら、今度こそ許さないって……そう、言いましたよね? 私。そして、貴方も約束してくれましたよね? なのに……嘘つき」



 そう、俯いたまま告げる蒔野さん。その声が……身体が、小刻みに震えていて。死ぬつもりはなかった――なんて、何の言い訳にもならない。これだけ不安にさせてしまった時点で、完全に僕の責任。だから――


「……本当に……本当にごめん、蒔野さん」


 そう、深く頭を下げる。謝って許されることじゃない――それは、もちろん分かってる。それでも……今、僕に出来るのは――


「……でも、良かった」

「……へっ?」


 すると、さっと立ち上がり僕を抱き締める蒔野さん。そして――


「……良かった……先生が、ご無事で……ほんどに、よがっだ……」

「…………蒔野さん」


 そう、声を震わせ告げる蒔野さん。生暖かい雫がポツリポツリと、柔らかなその頬から僕の頬へと伝い流れてくる。……きっと、ずっと堪えていたのだろう。この四日間、ずっと――


 ……ほんとに駄目だな、僕は。大切な人との、大切な約束一つ守れず、こうして……だから――



「……本当にごめん、蒔野さん。もう、信じてもらえないかもしれない。それでも……それでも、今度こそここに誓う。もう、どこにも行かない……もう、絶対に離れないから」


 そう、ぎゅっと抱き締め告げる。すると、いっそう強く僕を抱き締める蒔野さん。そして、潤んだ声で小さく答えてくれた。




「ところで、由良先生。今後、決して約束を破らないのはもちろんとして……今回、悲しくも違えた件を許してあげる代わりに、一つお願いをしたいのですが」

「……うん、もちろんだよ。何かな?」


 それから暫しして、何処か悪戯っぽい笑顔でそう口にする蒔野さん。……うん、なんだか少し嫌な予感もするけど……でも、関係ない。彼女が満足してくれるならもちろん何でもするつもりだ。

 ……ただ、それはそれとして……その綺麗な頬が朱に染まっているのは、果たして気のせ――



「――それでは、言ってください。あの時、藤宮ふじみや先生に伝えた言葉を、今ここで」

「……へっ?」


 突然の思わぬ言葉に、ポカンと口を開く僕。……えっと、それはいったい…………ん、まさか――


「……えっと、蒔野さん。どうして、それを……」

「ええ。二日前の夕さり頃、藤宮先生が病室こちらを訪れまして。もちろん、先生の状態を確認するためですが……その際、私に色々と教えてくれたんです。貴女には、伝える義務があるからって」

「……そっか、なずな先輩が……」



 蒔野さんの説明に、すっと納得を覚える僕。うん、それは何と言うか……先輩らしいな。

 ともあれ、今か今かといった様子で待ち構える蒔野さん。有無も言わさぬその笑顔に、少し困惑――それでいて、ふっと微笑ましくなる。そんな彼女のを、真っ直ぐに見つめ告げる。ずっと言えなかった、心からの言葉を。



「――遅くなってごめんね、蒔野さん。僕は……誰よりも、蒔野有栖(ありす)が好きなんだ」







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