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狂った針は戻らない  作者: 暦海


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今更ではありますが。

「…………ん」



 柔らかな光の中、ぼんやり目を覚まし瞼を擦る。何とも心地の良い、幸せな朝で――



「……おはようございます、由良ゆら先生。ふふっ、とっても可愛い寝顔でしたよ?」

「……っ!! あっ、その……」

「……おや、どうして目を逸らすのですか? 悲しいではありませんか。……昨夜は、あんなにも熱烈に求めてくださったというのに」


 そう、そっと頬を手を添え告げる清麗な少女。その雪のような頬が真っ赤に染まっているのは、きっと気のせいではないだろう。


 まあ、それはそうと……うん、自分でも今更だとは思うけど……その、一糸纏わぬその姿を改めて直視するのは少し……いや、すごく恥ずかしくて。




「ところで、由良先生。薄々そうかなとは思っていましたが、もの凄く鍛えられてますよね、先生のお身体。実際にこの目で拝見して流石に驚きました」

「……へっ? あ、ありがと蒔野まきのさん」


 それから、一時間ほど経て。

 食卓にて、閑談の最中さなかそう口にする蒔野さん。そして、そんな彼女にポカンと驚いてしまう僕。不意に褒めてもらえたのもだけど……間違いなく《《あの時》》の記憶ことに関し、こうして普通に言及できるのがすごいなと。……いや、もしかしてそれが普通なのかな?


 まあ、それはともあれ……そっか、そう見えるんだ。一応、あの日から日々トレーニングはしているけど……こうして実際に……それも、他でもない彼女に褒めてもらえると、きちんと成果が出ていると自信が――



「――それで、先生。いかがでしたか、私の方は?」

「…………へっ?」



 自信が湧いていた最中さなか、不意に届いた思わぬ問い。なかなかに漠然とした問いではあるけど、この話の流れから流石に分からないはずもなく。


 ……うん、自然だと思うよ? 流れから言えば、ごく自然な質問ものだとは思う。けれど、流石にそれを直接口にするのは――


「……おや、いかがなさいましたか? よもや、お答え出来ないほどに何の印象も残ってな――」

「いや残ってる! 鮮明に残ってます!」


 すると、にっこり笑顔のまま再び尋ねる蒔野さん。私は言いましたよ? ――心做しか、そんな圧が伝わってくる笑顔で。……うん、そうだよね。もう、こうなったら覚悟を決め――


「……その、すごく綺麗だった。大袈裟でなく、この世のものとは思えないほど」

「…………へっ? あっ、その……ありがとう、ございます……」


 そう、じっとを見つめ伝える。つい逸らしたくなるのを、どうにかぐっと抑えて。すると、思いも寄らない返事こたえだったのか、彼女の方がさっと目を逸らし謝意を告げてくれる。心做しか、その白い頬は朱に染まっ……うん、すっごい恥ずかしい。朝から何してんだろうね、僕ら。





「ふふっ、今日はドキドキの一日でしたね。誰にも言えない秘密を胸に、視線で会話を交わす二人――こんな日が、ずっと続くと良いですね? 先生」

「……いや、ドキドキと言うかは……」


 それから、暫し経た放課後にて。

 茜に染まる空の下、揶揄からかうような笑顔で尋ねる蒔野さん。……でも、ドキドキと言うかヒヤヒヤ……あと、たぶんほぼ出来てなかったと思うよ? 会話。ほぼ視線逸らしちゃってたし、僕。まあ、楽しそうで何よりだけども。



 さて、あらかたの流れを説明すると――あの後、些か居た堪れない雰囲気くうきの中食事を終え、暫しして二人で学校へ。とは言え、流石に二人で校舎へ向かうわけにもいかないので、途中でいったん別々の道へ……まあ、流石に大丈夫だろう。時間も時間だし、どの経路みちでもそこそこ人通りあるし。


 そして、一限目。我らが一年二組の授業は、古文……まあ、僕の担当する科目で。なので、と言うのもおかしいけど……授業の間、終始ある一点から意味深な視線を感じて……うん、たいへんやりづらい。


 ともあれ、平時にはない緊張の中一日を終えこうして二人家路を――


「……あっ、ちょっとごめんね」


 断りを入れ、ポケットからスマホを取り出す。たった今、通知を知らせる電子音が響いたから。そして、発信相手と内容を確認し――



「――ごめん、蒔野さん。突然だけど、少し寄り道しても良いかな?」






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