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狂った針は戻らない  作者: 暦海


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24/39

いかがでしたか?

(……ねえ、知ってる? 由良ゆら先生って、自分のクラスの子に手を出したらしいよ)

(……うっわ、なんか幻滅。いつも優しいし、良い先生だと思ってたのに)

(……それに、聞いた話だと、藤宮ふじみや先生と付き合ってたのに――)



「……はぁ、はぁ、はぁ……」



 四方八方から刺さる視線の中、真っ暗な廊下をただ駆けていく。……いや、正確にはここが廊下なのかも分からない。分からないけど……でも、そんなことはどうでも良い。とにかく、今は――


「…………あ」


 無我夢中で惣闇つつやみを駆けていると、ふと見覚えるある背中が視界に映る。いや、見覚えどころか、もう幾度となく見にした背中が――


「――――なずな先ぱ…………え」


 暗闇の中、初めて差した一条の光。眩いほどのその光に――彼女の背中に向け思いっ切り叫ぶも、その声はピタリとまる。何故なら、振り返った優美な女性――薺先輩の表情が……瞳が、嘗て覚えのないほどに一切の光がなく。すると、ピタリと硬直する僕に、彼女は徐に口を開いて――



「――――きょうちゃん、最低」





「――――違うんです、薺先輩!」



 そう、叫びを上げる。そんな僕の視界には、燦然と星の輝く空と……えっと、夢? ……ただ、それにしても随分と柔ら――



「……いったい、なにが違うのでしょう? 由良先生」

「…………へっ!?」


 そんな夢現の最中さなか、ふと降りてきたひんやりした声にパッと身体を起こす僕。そして、おずおずと視線を向けると――そこには、正座をしながら満面の笑みを湛える蒔野まきのさんの姿が。……ただ、心做しかが笑ってない気が……それに……うん、何も違わないよね。



 ……ただ、それはひとまず措いて――



「…………僕、もしかして寝ちゃってた?」


 そう、逡巡しつつ尋ねる。……いや、まあ疑う余地もないんだけど。ともあれ、そんな僕に対し――


「――ええ。察してはいましたが、ここ最近よほど眠れていなかったのですね。数十分ではありますが、ぐっすり熟睡していましたよ。大変可愛いお顔で」

「……その、ごめんなさい」


 そう、可笑しそうに微笑み話す蒔野さん。と言うことは……その間、彼女は僕を起こすこともなく待ってくれていたということで……うん、本当に申し訳ない。それと……うん、本当に恥ずかしい。



 ……いや、恥ずかしがってる場合じゃない。そんな場合じゃなくて――


「……あの、蒔野さん。僕は――」

「――言わないでください」


 躊躇いつつ口を開いた僕の言葉をピシャリと遮る蒔野さん。そして、


「……流石に、現時点での由良先生の返答は分かっていますから。私の心中を慮ってくださるなら、どうか私を傷つける言葉は胸の内にしまっておいて頂けると幸いです」

「……蒔野さん」


 そう、仄かに微笑み話す蒔野さん。そして、そう言われてしまえば口を噤む他ない。それは卑怯だと、不誠実だと――あるいは、他の文言で以て誰かに罵られるかもしれない。それでも……今、彼女の望まぬ返事をすることで僕だけが楽になるくらいなら――僕は、卑怯でも何でも構わない。



「……とりあえず、今日は帰ろうか。もうすっかり暗くなっちゃったし、送ってくよ蒔野さん」

「ふふっ、ありがとうございます由良先生」


 ともあれ、そう告げると何処か楽しそうに謝意を述べる蒔野さん。……うん、これまた特別扱いに該当する気がしないでもないけど……でも、今回は仕方ないよね? 時間も時間だし。


「それじゃ、これ以上遅くならない内に…………ん?」

「どうかなさいましたか? 由良先生」

「……あ、いや、その……」


 ふと、言葉が止まる。……いや、ほんと今更なんだけど……そう言えば、目を覚ました後のあの随分と柔らかな感触……そして、今更ながらこの場では随分と違和感のある、蒔野さんのあの姿勢――


 じとり、冷や汗が流れる。すると、そんな僕の様子に何か――いや、恐らくはさっきの時点で察していたであろう蒔野さんが、何とも楽しそうな笑顔で口を開いた。



「――いかがでしたか? 私の膝の心地は」

「いやほんとごめんなさい!!」

 


 



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