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誰も食べない世界に真実を  作者: 農民
第2章:古都の傲焔
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第66話:ミリアリアの断罪


「そうだ……アニーを仲間に入れ、ケビンも仲間に入れた……そして、お主らの力でフェイが龍を取り込んだ。これが私の狙いだ」


 ミリアリアの声から、かつての温かさが完全に消えていた。

 老成した口調はそのままに、刃のような冷たさが言葉に宿っている。


「ケビン、お前を見つけられたのはまさに幸運だったがな。最初は、メグーとアニーさえいれば、フェイに龍を取り込ませることができると考えておった」


 その言葉に、場の空気が一層張り詰めた。


 だが、その沈黙を破ったのは、遠くから響く重い足音だった。

 瓦礫を踏みしめる音が近づき、怒気を孕んだ声が空気を裂く。


「姉御ォ!それに兄貴ィ!?何が起きてんだァ!?」


 オーグだった。

 血走った目でミリアリアとフェイを睨みつける。

 倒れたアニー、動けずにいるケビン、そして冷然と立つミリアリアとフェイ──

 その光景に、彼の顔が険しくなった。


「おい……何がどうなってやがるゥ!?答えろォ!!」


「オーグ、お前は引っ込んでいろ」


「……は?」


 オーグの目が見開かれた。

 その声色に、何かが違うと感じたのだろう。


「姉御ォ……今、なんて……」


 言葉を紡ぎきる前に、フェイが無言で手を突き出した。


 瞬間、空気が歪んだ。目に見えぬ衝撃が空間を裂き、オーグの巨体を容赦なく吹き飛ばす。

 彼の体は宙を舞い、背後の石造りの建物に激突した。

 鈍い音と共に壁が崩れ、瓦礫が雪崩のように降り注ぐ。


「オーグさん!!なんて……なんてことをするんだ!!」


 ケビンの叫びが響く。だが、ミリアリアもフェイも、まるで何も起きていないかのように静かに佇んでいた。


「アニーには感謝せねばなるまい。ケビン、お前のことは見捨てるつもりであったが……そうしていたら、私達の計画は失敗していた」

「そうだね。感謝してもしきれない。本当にありがとう」


 その言葉に、メグーの銀の瞳が怒りに揺れた。


「ふざけないで!!」


「ふざけないで……か。メグー、お主は我らのことを疑っておったのではないか?」

「……そうよ!怪しいとは思っていたわ」


「ならば……なぜ、私を止められんかったのだ?」

「な、何を……」

「疑っておったならば……問いただすことすらせんかったのはなぜだ?」

「それは……貴方を最後まで信じようとしていたからです!!」


「ふん……その結果が……これだ」


 ミリアリアの視線が、地に伏したアニーへと向けられる。その瞳には、哀れみも後悔もなかった。


「……この装置の女性、なぜアニーに似ているのかは気になるが……龍と封印なんぞ繋がっておらんのだろう?」

「気付いていたのね」

「うむ……その反応で私のことを確かめようとしたのだろうが、浅はかであったな。いや、遠回りすぎるやり方だ。こういう時は、いっそのこと、シンプルに動いた方が良い」


 メグーとケビンは言葉を失った。


「それで……アンタ達は龍を使って……どうするつもりなのかしら?」


 メグーの問いに、ミリアリアが一歩、また一歩と歩み出る。

 金色の髪が風に揺れ、蒼い瞳が冷たく光る。


「……ようやく、ここまで来たか」

「ミリアリア……?何を……」

「メグーさん下がって!!」


 ケビンの声に、メグーも構えを取る。

 だが、ミリアリアの微笑みは、もはや慈愛のそれではなかった。


「私の目的は、龍を使って世界を終わらせることだ」


 その言葉が放たれた瞬間、空気が凍りついた。


「な……何を言って……!?歪んだ子供みたいなことを言うな!!」


 ミリアリアは静かに、しかし確信に満ちた声で続ける。


「この世界は、あまりにも長く、歪んだ均衡の上に成り立ってきた」


「歪んだ……均衡?」


「だから、一度、完全に滅ぼして作り直す」


 その瞬間、風が止み、音が消えた。


 フェイが静かに一歩前へ進み、膝をつく。

 その動作には一切の迷いがなかった。


「すべては、あなたの意志のままに……」


 そして──

 フェイの背後に、黒い魔法陣がゆっくりと浮かび上がる。

 空間が軋み、闇が渦を巻く。魔法陣の中心から、赤き龍の幻影が姿を現した。

 咆哮にも似た低い唸りが空気を震わせる。


 アニーの持っていたロールのスキル──彼女の力を、フェイが奪い、今まさに龍を呼び出そうとしている。


 地に伏したアニーの手が、ほんの僅かに地面を掴んだ。

 それだけが、彼女がまだここにいることの証だった。


 龍の幻影が姿を現したとき、空間そのものが赤く染まり始めた。

 世界が、終わりの鐘を鳴らし始めていた。


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