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最弱の農民ロールの私、裏切った仲間ごと助けて救世主となる  作者: 農民
第3章:聖導リュミエール神聖学院
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第163話:円卓の沈黙と黎明の盟約


 事件から一週間が過ぎ、学院は静かに、しかし確かに日常を取り戻していた。


 朝の光が石畳を照らす中、正門をくぐった先の広場には、生徒たちの笑い声と足音が響いていた。久方ぶりの再会に沸くその光景は、まるで何事もなかったかのように見える。だが、その賑わいを見下ろす高みには、別の空気が流れていた。


 学院本棟の最上階。

 魔導障壁に守られた円卓の間では、重厚な沈黙が支配していた。そこに集うのは、学院の中枢を担う者たち──教導官、研究主任、そして教会から派遣された監察官たち。彼らの視線は、窓の外の平穏を映す風景ではなく、未だ解かれぬ謎と、これから訪れるかもしれぬ波乱を見据えていた。


「此度の一件……王国や帝国からの批難が激しい」


 低く重い声が、静寂に包まれた円卓の間に響いた。

 長く白い髭を撫でながら言葉を紡いだのは、学院の長──カルガンタル老である。


 その瞳には、長年の知恵と、拭いきれぬ憂いが宿っていた。


「なぜ、我が校の地下に、あのような施設が存在していたのだ」


 問いかけに応じたのは、隣に控えていた教導官の一人。


「黎明盟約の手によるものでしょうな」


 声は静かだが、その奥には確信が滲んでいた。


「奴らの狙いは?」


 別の席から鋭く問いが飛ぶ。


「事件を起こし、我ら──教会の権威を地に落とすこと。それが奴らの目的でしょう」


 重苦しい空気が、魔導障壁に守られた空間をさらに沈ませた。誰もが、これがただの偶発的な事件ではないことを理解していた。


「ふん……だとすれば、貴族どもめ、白々しい真似をするものだ」


 重々しい声が、円卓の一角から吐き捨てられた。

 発言者は、鋭い眼光を光らせながら続ける。


「わが校には、あの連中の子女も通っておるかもしれんというのに……無茶をしおる」


 その言葉に呼応するように、別の席から怒気を孕んだ声が飛ぶ。


「だいたい!監察官殿は何をしておったのだ!」

「何だと!?どういう意味だ、それは」

「騎士団がしっかりと見回りをしていれば、未然に防げたのではないかと言っておるのだ!」

「つまり、私の管理が甘いとでも言いたいのか!」


 怒声が交錯し、空気が一気に張り詰める。

 魔導障壁に守られた円卓の間に、火花が散るかのような緊張が走った。だが、その空気を一瞬で断ち切ったのは、やはりこの男だった。


 カルガンタルが椅子からわずかに身を乗り出し、杖の石突きを床に打ちつける。


「静粛にせよ!」


 その一言で、場の空気が凍りつく。


「私が問いたいのは、なぜ、あのような施設が存在していたことに、誰一人として気づけなかったのか……それだけだ」


 その言葉に、誰もが口を閉ざした。

 重苦しい沈黙が、再び円卓を包み込んだ。


「黎明盟約の手によるものであろうと、なかろうと……我らが受けている批難は、甘んじて受け入れねばならぬ。反省し、次に繋げなければ、生徒たちを護ることなどできんのだ」


 カルガンタルの言葉は、静かに、しかし確かな重みをもって円卓の間に響いた。


 その声音には、責任を背負う者の覚悟が滲んでいた。


 その瞬間、場の空気が変わった。

 誰もが息を呑み、言葉を失う。

 先ほどまでの緊張と対立が、まるで霧が晴れるように消えていく。


「……確かに。今回は、猊下に救われましたな」


 そう呟いたのは、銀髪の老齢の男──エルネスト。

 彼は静かに立ち上がると、窓の外、遠くルミナリア地区にある聖女機関本部の方角へと視線を向けた。


 その眼差しには、感謝と、どこか言い知れぬ不安が混じっていた。


「猊下のお力により、此度の件、最低限の被害で済んでいる」


 誰かがそう呟くと、別の声がそれに続いた。


「……ふむ。こうして、わずか一週間で学院を再開できたのも、猊下のご加護あってのこと。数多の魔物を従え、学院を救ったその姿は、いずれ英雄譚として語り継がれることでしょうな」

「その通りですな。猊下の英雄譚を前にしては、帝国や王国の貴族どもも、好き勝手には言えまい」


 誇らしげに語る研究主任の言葉に、教会の監察官が苛立ちを隠さず、拳で机を叩いた。重い音が円卓に響き渡る。


「馬鹿を言うな。それでも、我らは散々な批難を浴びているのだぞ」

「だが……あれほどの事態にもかかわらず、死者は一人も出ておらんではないか」

「そうだ。だからこそ、この程度の批難で済んでいると考えるのが妥当ではないか」


 言葉の応酬は次第に熱を帯び、議論はまたしても堂々巡りの様相を呈していた。その様子に、カルガンタルは深くため息をつき、額に手を当てる。


 ──まるで、子どもたちの喧嘩だ。



「……いや、行方不明者が一人いる」


 沈黙を破ったのは、銀髪の老齢の男エルネストだった。彼は手にしていた一枚の資料を円卓の中央に滑らせた。その動作は静謐でありながら、場の空気を一変させるだけの重みを帯びていた。


「オスカー。魔導学を専門とする研究員だ。あの日を境に、彼の消息が完全に途絶えた」


 一瞬の間を置いて、誰かが低く呟く。


「……もしや、黎明盟約の刺客だったのでは?」


 その言葉に、別の者が即座に反論する。


「あり得ん。彼はミリアリア様の推薦を受けていたのだぞ」

「ふむ……しかし、それでも疑念は残る」


 再び、円卓に重苦しい沈黙が落ちる。

 信頼と疑念が交錯し、誰もが言葉を選びかねていた。オスカーという名が、今やただの行方不明者ではなく、事件の鍵を握る存在として浮かび上がってきたのだった。


 沈黙が支配する円卓の間で、エルネストが口を開いた。

 

「……セラ卿。我が校に潜伏していた、白耀の聖騎士です」


 その名が告げられた瞬間、場の空気が凍りついた。

 学院長カルガンタルでさえ、思わず息を呑み、エルネストの次の言葉を待つ。


「そのセラ卿から、オスカー魔導学講師の所在について問い合わせがあったのです」


 静かに、しかし確かな重みをもって語られる言葉。

 その意味を理解しようと、円卓の面々は顔を見合わせたが、誰一人として明確な答えを持ち合わせてはいなかった。


「……我らは、全力で調査に協力すべきであろう。違いますかな、学院長」


 エルネストの問いかけに、カルガンタルはしばし目を伏せ、やがて重々しく頷いた。


「……エルネスト、君の言う通りだ」


 その声には、どこか諦念にも似た響きがあった。

 学院を守る者としての責務と、避けられぬ現実との狭間で揺れる思いが、表情に滲んでいた。


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