第15話:覇者、降臨
それは、突如として空から現れた。
青空を裂くようにして降下してきた巨影が、地面に着地した瞬間、地鳴りが腹の底を揺らした。
砕けた岩が舞い上がり、視界が一瞬、灰色に染まる。
その怪物は、咥えたキマイラの体をぶら下げたまま、悠然とこちらを見下ろしていた。
牙と鱗は岩と金属の中間のように光を反射し、触れれば砕けそうで、触れられれば刃のように冷たい。
血に濡れた牙の隙間から、まだ微かに動く蛇の尾が覗いている。
巨大な瞳が私たちを捉えた。
冷たい、感情のない視線──まるで次の獲物を選別する狩人のようだった。
地龍──。
キマイラも、グリフォンすらも敵わぬ、地上の覇者。
顎が跳ね上がり、キマイラの巨体が喉奥へと吸い込まれていく。
骨が砕け、肉が裂ける湿った音が、耳にこびりついた。
上空にいたグリフォンが、翼を大きく広げた。
嵐を呼ぶはずの翼が、今は恐怖から逃げるためだけに動いている。
空の支配者が──あのグリフォンが、地龍の前で逃げ惑っている。
やがてその羽音は遠ざかり、ダンジョンの深い暗がりの奥へと消えていった。
地龍は追わない。
ただ静かにこちらへと顔を向ける。
その瞳に宿るのは、冷たい捕食者の光。
「アニー。メグーを頼む」
「……わかりました」
震える手で、メグーちゃんを背負った。
背中越しに伝わる鼓動が、私の心臓と重なり、強く響いた。
ミリアリアさんが剣を抜く。
オーグさんが拳を鳴らしながらその隣に立つ。
「行くぜ、姉御。やるしかねェ」
「うむ」
二人は地龍へと駆け出した。
ミリアリアさんの剣が閃く。
だが刃は鱗の上を滑り、火花が散って跳ね返された。
オーグさんの拳が側腹に叩き込まれる。
金属音が空気を裂く──けれど地龍はほんのわずかに体を揺らしただけだった。
分厚い鱗が、衝撃をことごとく吸収している。
剣も拳も、通っていない。
地龍が尾を振り払う。
オーグさんが吹き飛ばされ、地面を転がった。
ミリアリアさんも薙ぎ払いを紙一重で避けたが、頬に赤い線が走る。
ふたりとも、追い詰められている。
ケビンさんの手が震えている。
私も唇を噛みしめる。
目の前で仲間が押されているのに、何もできない──その無力さが胸に広がる。
でも。
(どうにか……どうにか手助けできる方法は……!)
メグーちゃんの鼓動が、背中越しにまだ伝わっている。
この子を守るために、私は後ろにいる。
それは本当だ。
でも、それだけでいいのか。
ミリアリアさんの背は光を帯び、オーグさんの背は影のように重かった。
その光と影が、私の視界に刻まれる。
勝てる保証など、どこにもない。それでも、彼らは前へ進んでいる。
メグーちゃんの銀の瞳が、一瞬だけ揺らいだ。
リンゴを握る手に力が入る。
唇を噛みしめ、拳を固く握った。
──だから、私も動かなければならない。




