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6.次期王配

お久しぶりです。

続けられるか非常に心配な再開。←だめじゃん。

 少し前に義理の妹である第五王女のスキルが魔道具で封じられる珍事件があった。


「鑑定眼だけ発動させてみろ。」

「むぅ…」

「コラ。カウンターが働いてる。やりなおし。」

「むきー!」


 問題自体は友であるSランカーの傭兵によって、解決されてはいるのだが。


「あらあら、うふふ。仲良しさんねぇ~」

「そうだねぇ…」


 妹君のカウンターを片手で封じてる(物理的に)光景に、おや?と思うところがあった。



 ◇◇◇



 彼女が臨月・初産から公務復帰までの数カ月程、とにかく彼女から仕事を奪って休ませるのが僕と友と政務官の仕事だった。

 ちなみに一番に仕事を奪いに来そうな妹君は、彼女から『ちょうだいお休みしましょうね』と没収され、その間、ひたすらスキル出力制御練習を繰り返すという宿題を課されていた。


「お姉さま!なんで!」

「むぁ!えぁー!」

「前にも言ったでしょう?貴女が万が一にでも傷ついたら、お姉ちゃんは泣いちゃうわよ?って。だから暫くは反省会です。」

「うあーん!愛情満点の門前払いー!」

「んぁーぅ!あぱー!」

「うふふ~二人とも可愛いわぁ~」


 妹君がだっこしている我が子も、一緒に抗議の真似っ子してて、それを愛でる彼女もかわいい。きゅん。

 ちなみに妹君への宿題は追々増やすようだ。あの妹君を振り回せるのは彼女だけかもしれない。きゅん。



 さて、次期王配として彼女に回ってくる書類を引き受け、各部署や機関に指示を出し、必要に応じて騎士団長や宰相や陛下に署名をもらうよう采配する。

 今日も執務室にこもって書類と闘う。そろそろ外に出て体を動かしたい。


「ほい。西の地から嘆願書。山岳地帯から出てくる獣が多く、作物への影響が出てるらしい。領主と冒険者ギルドから、間引きは適時行ってるが原因がわからんときてる。あー…アレかも。」

「地図見せて。崖地帯…有翼種で周囲に影響出せるモノだと竜種だけど、それなら個体の目撃があるはずだよね?山付近で微細振動…火山活動か?うーん、もしかして例の卵?」

「ん。たぶんな。専任で受けるよ。情報集めてもらっていいか?」


 妹君のスキル封じに対応すべく、友が某国の魔道具少年に依頼しに行った際、その家の縁者から竜種に関する噂話を聞いていたようだ。

 間諜を生業とする家だけに、信憑性も高く、該当しそうな件があれば直接自分か友のところへ情報が届くよう手配をかけていた。あれから数カ月、やはり噂話通り動きが出てきた。

 ちらりと友を伺えば、「あー、不在中に姫さん大人しくしてくれるかなー」とぼやいてる。竜種よりも妹君の方が手がかかるらしい。わかる。


「あとこの箱の書類を捌いたら息抜きできるぞ。四日以内なら狩りに出てもいい。」


 ピラっと渡されたのは近くの領海で賊が出たという騎士団宛ての依頼書に、『あさりが獲れる』『巨大ハンマー海老漁解禁』『交易品多数』のメモ書き。


「夜釣りもいいな。」


 当然、速攻仕事を終わらせた。新鮮な食材が僕を呼んでいる!



 ◇◇◇



 二日かけて50名程の海賊を捕縛したものの、組織の一部だったようで、本拠地までは特定できなかった。上層部を城に連れ帰って、BL護衛官に尋問してもらうにしても、少し人数が多い。

 頭領は勿論だけど、どいつなら情報ゲロってくれるかなぁ?面倒だからここでゲロってくれないかなぁ?と考えてたら、友の指示で連れてきた騎士達が野営地に竈を作り始めた。別の騎士達も何やら荷物を運んでいる。


「どうしたの?これ。」

「ん。今回の討伐の件で感謝の印にだと。

 魚介類は漁業関係者から、牛肉と野菜類は交易関係者から、乾燥麺とパンと少量だが米、調味料や調理器具は港町の奥様方から。簡単に捌いてある。いつもの頼んだぞ。」


 すれ違いざまにポンっと僕の肩を叩く友の向こう側に、騎士達がまとめてくれたであろう大量の食材が…目に入った瞬間、『料理男子』スキルを発動した。瞬時にレシピを組み立てる。

 反射的にいつも携帯している大小のマイ包丁を取り出し、早速下拵えを始める。友も隣でのほほんと野菜の皮むきを始めた。


「そ、側近殿。これはいったい?」

「ん。コイツの十八番『野戦交響曲第一番 夜食』だ。手が空いてるヤツを集めろ。旨いメシが待ってるぞ。」

「はい!」

「とりあえず、皮むき、下拵え、洗い物とごみの分別を手分けして配置だ。下拵え班は細かい指示が出るからそれに従え。洗い物班はできるだけ汚れは拭い環境に配慮しろ。ごみ班は分類をきちんと行うように。俺たちは場を借りてるだけだ。綺麗に使うぞ!」

「はい!!」


 全員に行き渡る程の量ではないが、米もあったので炊いておこう。余れば握り飯にすればいい。

 ぐらぐらと湯を炊き、ショートタイプの乾燥麺を入れて、その間にブロックベーコンとカブと芽キャベツのクリームソースを作る。

 隣でバゲットにバターとガーリックを塗らせ鉄板に並べる。片面を焼いてからひっくり返し、上にチーズにブラックペッパーとパセリをかければ、次第に香ばしい風が野営地を駆け抜けた。


「そ、側近殿…!何故だかわかりませんが、無性におなかが鳴りそうです!」

「あー、それはスキルの影響だ。第一楽章『おなかがすいた』が始まったばかりだし、見張り番は早めに交代の順番確認しとけ。戦略班は仕事にならん。休憩だ。」


 キンメを煮付ける鍋の蓋をとれば、クツクツという音にふわっと立つ生姜と醤油のまろやかな香り。身もホロホロになってきた。葱に味がしみこんで艶々だ。

 さっぱりした物も欲しいなと、茹でた野菜や豆と葉物サラダも用意する。


「そ、側近殿…!つられてやって来る騎士が多いです…!」

「気が緩んでるぞ!出来上がりはまだ先だ! 手が空いた部隊は食器の準備と配膳係を決めろ。まだ第二楽章『そこに漂う極上スープ』だぞ。」


 魚のアラで摂った出汁に切った根菜をこんもり入れて、ひと煮立ち。アクを取って、一度火から外し、仕上げに交易品の中にあった味噌を溶かす。

 それとは別に、たまねぎ、にんじん、セロリの葉を炒め、白ワインにハーブ類に魚とトマトと軽く煮る。海老や貝は身が硬くなるので入れるタイミングに気を付けよう。


「そ、側近殿…!香りの暴力であります!!」

「使い終わった調理器具とゴミは片付けろ。その部隊が先頭にするから片付いたら二列縦隊を作れ。弛んでる奴は供給列からハジく!歯ぁ食いしばれ!

 …これからが本領発揮だ。竈担当は火加減に注意しろ。第三楽章…『焼肉ホイホイ』が来る…!」


 さて、メインディッシュだ。ちぎったキャベツを用意して。ごはんの炊き具合も良さそうだ。

 鉄板に、ネギと甘辛な漬け汁たっぷりの牛肉を乗せれば、ジュワワァァァァという音と香のハーモニーが野営地に響き渡る。

 別の鉄板ではシンプルに焼いた後、ハニーマスタード・オニオンソース・ネギ塩だれ・ニンニクとごまが効いた辛口タレを用意する。鉄板に残った汁に白米を入れ、軽く炒める。


 ごくり。


 最早、固唾を飲んで、一部涎が垂れて、ゾンビのようにそろりそろりと近づき、配膳待機列で今か今かと待ち構える騎士達。


「そ、側近殿…!もう!もう!!」

「仕上げだ。第四楽章…『デザートは別腹』…」

「きゃぁぁーーー!!」

「もうだめぇぇーーー!!」

「がまんできなぃぃぃーーー!!」

「ほしいぃ!ほしぃのぉぉぉーーー!!」

「横入りはゆるさねぇ!ガマンの効かねぇガキは寸止めだ!!」

『あーーーーーーーーーー!!!』


 野太い悲鳴が響き渡り、待機列から外れて抜け駆けしようものなら、友が容赦なく投げ飛ばす。

 配膳係の騎士達がテキパキと食器に、『ほっこり芽キャベツ入りクリームペンネ』『ガーリックチーズトースト』『副菜盛り合わせ』『キンメの田舎風煮付け』『根菜もりもりあったか漁師汁』『最旬・ハンマー海老のブイヤベース』『味比べ焼肉各種』『ご褒美の焼き飯(数量限定)』、おまけにキラキラと宝石箱みたいな『季節のフルーツポンチ』を載せていく。


 野営地のあちこちで、「うんめー」とか「しみるー」とか「てんごくー」とか「おっかさんのあじー」とかいろんな声が聞こえるが、今回出張ってくれた騎士達に満足してもらえたようだ。

 久々の野戦で久々の野営で、こんなに食材も調理器具も揃ってることは滅多にないので、心行くまでごはんづくりができた。


 最後におまけのパンを割って、焼肉ジュゥジュゥな鬼盛りサンドを数個作る。熱でとろけるチーズとトマトに葉物に絡んだピリ辛タレのごまが、たまらなく食欲を掻き立てる。


「ふぅ!いい仕事!」

「お疲れ。じゃ、俺は尋問の方やってくるわ。」

「よろー」


 友が出来上がったサンドを片手に、捕縛してる海賊たち(上層部)の前に行き、一人ずつ香りが行き渡るように歩く。触覚の自由が奪われてる中、視覚も嗅覚も聴覚もだいぶ刺激されたようだ。あとは、味覚…舌だけ。


「攻撃力のある飯テロだろ?これが発動すると飢餓状態に陥り、食わねーと治まらん。で、味は見ての通りだ。」


 おなかの轟音ともはや涎を拭うことのできない海賊たちは、らんらんのギンギンで目の前の鬼盛りサンドに釘づけである。


「ついでにな、これはアイツらが食べれてない特製サンドだ。ジューシィな焼肉をモリモリで挟んで、タレは秘伝の…おっと、これ以上サービスはいらねぇな。」


 ごきゅり、ごきゅりと喉が鳴る音。

 大好物の餌を目前に置いて『待て』で長い時間ガマンしてる犬の反応に似てる気がする。それ以上の本能が剥き出しだったので、犬に失礼だった。お犬様、ごめんなさい。

 先程まで断固として「ケッ、女王の犬に話すことはねぇよ」とか言ってた人間らしさはどこに行った。


 友があくどい顔でニヤァと嗤う。


「聞きたい内容は本体及び本拠地情報。先着三名まで。レディ…」



 どうなったかって?

 勿論、三日目に本拠地を叩いて潰して、そのまま食材獲りに行った。


ノリとしては深夜帯の料理番組気分★★★

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