7-11話 タウバァ市街交戦
第七章:君に逢いたくて:
ツキカ…… !?
望遠鏡のレンズ越しに見つけたのは、あの娘に良く似た、長い黒髪の後ろ姿だった。屋上に吹き溜まった雪の背後から、大翔は夢中で飛び出していた。
その人影は、出口にたむろする十数人の影に隠れて、再び神殿の中へと見えなくなる。
頼む! そこから動かないでくれ!
やっと巡ってきた可能性に、祈るような気持ちで神殿を凝視した。
高鳴る胸の動悸を、掌で掴むと、力ずくでぎゅっと押さえこむ。潜伏の繋ぎも乱暴に、探知の届く距離まで、屋上と屋根の死角を渡っていく。
帰還兵たちが大挙する大通り沿いを、最短距離で移動すれば、何度か廃屋の雪を蹴って、小さく周囲に舞い散らせた。
と、高速移動する大翔の目前に、突然と横殴りの暴風雪が襲い掛かる。
なにっ!!!
まさに瞬間移動の着地点を狙われて、まともに氷雪嵐に突っ込んでしまったのだ。急激に体表温度が低下して、足元が白い霜に凍結した。
「あらら…? ユイトの言った通りだわ。良い感じに当たちゃった」
美しいレモンカラーのチャイナドレスに、全身ファーの防寒コートを羽織った妖艶な女性が、隣の戦士の手を握っている。
「そりゃ雪を蹴り散らすとか、北の戦に慣れてねぇヤツだろ? 潜伏しててもバレバレだぜ?」
戦士の方は元『クラン サーダス ネスト』の200人隊長『ユイト ナルサワ』。そして大規模な氷雪嵐を放った魔術師が、慈悲無き殺戮魔道士の二つ名を持つ『ウタノ L フェルニード』だった。
こいつらっ!! この距離で潜伏を看破しやがるか!
凍結による移動速度低下と同時に、大翔の潜伏が強制解除されていた。どうやら効果範囲を拡大させた、隠蔽スキル潰しらしい。その瞬間、数十人の猛者共が、一斉に大翔に敵意を向けた。
くそっ! 今、戦闘してる場合じゃないんだって!!
焦りによって無理な最短コースを優先して、敵の警戒範囲に引っ掛けていたようだ。それでも普通の相手なら、十分に安全な距離だったのだが…。
つか、あいつ戦士の見たくれで看破すんのかよ。
凍結してもつれた脚で、咄嗟に神隠しでリカバーしながら、屋上から裏路地へと背面ダイブして逃げる。
「待てやああああああああああ!!!!!」
少年の気配が消える直前、赤い竜鎧の騎士が絶叫を上げた。その瞬間潜伏は強制解除され、逆に彼の認識から他のハンターが消失する。
くそっ! 騎士の挑発の叫びかよ! 神隠しを無効化されたし。
絶妙のタイミングで三種の潜伏スキルを使い切ってしまった大翔。この時点でスキルディレイは360秒もある。
彼は、すぐに状態異常解除を使って、挑発の叫び効果を相殺した。詠唱者以外の認識が薄くなる、盾役の特殊スキルも、実は状態異常の一種なのだ。
バク転を決め、狭い路地裏に着地した少年の目に、疾風の極意をした格闘家が、躊躇無く気功の強撃を蹴り上げてきた。
その直前、分割思考で並行詠唱した各種強化が、全ての効果を発揮した。背後の土壁が下から上へ、削り取られるように破裂すると、その蹴り上げを一瞬の揺らぎで躱してしまう。
こんな細い隙間から視線を通して、疾風の極意したのかよ… こいつらみんな戦い慣れてるな。
それでもフル強化した大翔の能力は圧倒的だ。男の蹴り上がった利き足を掴み上げ、伸び切った逆足の関節に体術のように互いの体重を一気に掛ける。ゴキっと嫌な音がして、格闘家が顔面蒼白で路地に転がった。軽い防御的な動きだけで、男は膝を潰されていた。
すぐに路地の先へと瞬間移動するが、飛び出して来た敵に行く手を阻まれる。
狭い路地の間を塞ぐようにして、二人の大剣持ちが、同時に踏み出し突き技を仕掛けてきた。覇気を纏った巨漢の突撃は、まるで熊二頭に襲われるような威圧感がある。
左右から襲いくる連撃の剣を、下方から二本の魔力腕で、手元を狙い跳ね上げた。一段目の突きでスキルキャンセルされた二人が、得物を手放しそうになって、前のめりにバランスを崩す。
その一瞬、ひとりは頚椎を打ち降ろされて、顔面から地面に突っ込み、もうひとりも腹を蹴り飛ばされて、土壁を破壊して廃屋の中へと転がっていった。
その背後から魔道士が、魔弾爆破を発射したが、一瞬で密着した少年に襟元を捕まれると、そのまま上下逆さに跳ね上げられて、頭から地面に叩きつけられてしまう。
大翔の戦闘は、普段とは違う防御主体の気功体術だ。やはり彼は、相棒を抜刀する気が無いのだろう。月歌の住む街で、本気の市街戦はやらないようだ。
誰かさんに、騒ぎを起こすなと念を押されたしな…。
直後に路地の突き当りに、逸れた魔弾爆破が着弾して、派手に一軒を半壊させた。
言ってる側から… こりゃアイナに怒られる……。
大翔は、大通り方向からの追手を避けて、路地を右に折れ、急な階段を一気飛びした。それでも脚の早い軽戦士達が、取り囲むようにMAPを移動してくる。
この先、壁の無い平屋があったよな?
すでに周囲は薄暗く、入り組んだ廃墟の闇影は、少年にとって戦いやすい。階段下をすぐに左折し、記憶通りの崩れた壁を潜り抜けると、更に奥の路地へと経路をずらした。
「ネルフィヌ… 攻撃リソースを防御全振りに出来ないかな?」
背の妖聖剣に手をやると、優しく起こすように、鞘の上からトントンとノックした。
«剣に守れとおっしゃいますの? 本当にお人好し… ふふ、主様の意のままに»
そこで魔力の気配を探知して、壁を蹴って空を素早く側転する。近距離からの影の槍に、手で触れてから回避する神業を披露していた。
「うそ! 必中攻撃って外れるの!?」
真上の屋根で声を上げた女黒魔道士が、夕闇の影を伝って、大翔の背後に影移動をした。そうして壁際の暗闇から抜け出た瞬間、半透明の魔力の拳で壁ごと細身を殴り飛ばされた。
「甘い! タイマンでの瞬間移動系は、視線で行き先が丸わかりだぞ?」
その打撃に、廃屋の壁三枚もぶち抜いた彼女は、全身打撲で簡単に意識を失った。すぐに正面と背後から、潜伏からの奇襲を追撃される。
あんたらだって足跡でバレてるぞ……。
雪の緩みを踏んだ挟撃は、切っ先が届く寸前で、二人の袖口を掴んで軌道を変えるように引き寄せた。お互いに顔から激突して、無様に抱き合った暗殺者共を、斬るような回し蹴りで階段の遥か下まで吹き飛ばす。
少年にすればただの体術なのだが、相手はまったく目で追えずに、神速のカウンターで次々に行動不能にされていく。
転がり落ちた敵を追うように、そのまま坂道を駆け下りると、更に四人の忍者と侍が、まるで辻斬りのように、三叉路から強襲してきた。
狭い通りの暗闇に、青い剣筋がギラギラと走ったが、次々に手から得物を弾き飛ばされ、見えない影に忍者二人が地に踏み潰され、剣士一人は腕を捻じ折られて、大声で叫びを上げている。
最後の浪人風の男は、大翔の手刀を剣の柄で辛うじて受け流す。が、直後に頬に飛んできた開脚蹴りで、身体が綺麗に半回転すると、白目を剥いて隣の屋根上まで吹っ飛んでいった。
それら4つの手合も一瞬で、敵の目には、全員が同時に四方に弾けたようにしか見えなかった。
「何だあいつ近戦強えぞ! もう12人も倒されたって」
「ソロvs多数に慣れてんだよ。上手いこと誘い込んで各個撃破してんじゃん!」
召喚術師達が、偵察従魔で同期した視界から、戦況をレイドグループに逐次流している。
くっそ! どんどん神殿から離されてく…。
分割思考でMAP上の敵配置を把握して、追手の薄い方向を狙って突破を繰り返すしかない。
そうして見覚えのある水路まで追い込まれると、その急な流れに飛び込んで、水面ギリギリを超低空で滑空した。
つうか… なんだかこの街……。
大翔は、妙な親近感をこの街に抱いていた。空間認識のスキルは別にして、この複雑な路地裏を不思議な程に知り過ぎている…。
この状況から脱出するなら、デジャブでも何でもありだって!
頭上に纏い付く銀色の従魔達を、一気に距離を離して置き去りにした。それでも位置バレしているようで、爆発系の魔法スキルが、水路の一部を続けざまに連爆していった。
このまま大通りを潜って神殿に…。
水路の橋架下を突っ切ろうと身を縮めた瞬間に、何かが腰に巻き付いて、強引に大通りまで引き寄せられてしまう。急制動を掛けられた衝撃で、内臓を酷く押し潰された。
ぐっ…… これは… 竜騎士の鉤縄拘束かよ!
黒鋼鎧の大男が魔鎖を手にして、鉄兜の隙間で不敵に笑っている。
まるで投げ縄を引き回すように、魔力の鎖にガッチリと拘束され、そのまま敵集団の中央に晒すように振り上げられた。まさに撃ち放題の的のような状況に、攻撃魔法と弓隊の一斉射撃が命中する。
突き刺さる多数の魔弾と弓矢の鏃、すぐに真紅の炎が幾度も破裂して、少年を高熱で燃え上がらせた。
パーン!!!
次の瞬間、その黒鋼鎧の竜騎士が、派手に真横に吹き飛んでいた。少年の召喚した魔力腕が、思い切り彼を平手打ちしたのだ。
敵からの飽和攻撃は、重ねた魔力腕と妖聖剣の夜闇がダメージを軽減してくれた。更には『再生の息吹』による持続回復が、受けた傷をすぐに再生させていたが、痛いものは痛いのだ。
袋叩きにされた苛立ちが、怒りとなってゆらりと湧き上がる…。
鎖の拘束から開放された少年は、軽く肩で息をしながら、大通りのど真ん中に着地した。嫌そうな表情で、脚に刺さった矢を引き抜くと、すぐにマントラヒールで傷と火傷を全回復してみせる。
「不死身かこいつ…… しかもあの状況で、オレを張り倒した…?」
数人のハンターを巻き込んで、雪溜まりに突っ込んだ男が、唾を吐きながら起き上がる。その男『リノ ディヴァイン』の飛行隊総長『トシマサ カナヤ』は、片耳に手を当てて、何やら魔導通話に叫んでいた。
囲む敵ハンターの殺気に当てられ、軽く目眩を感じてしまう。それでも、多数の殺意を相手にするのには慣れていた。
しつこく足止めしやがって! オレはツキカを探さないといけないんだって!
「お前さん、一体どうやって侵入した? 敵地の真ん中で何をする気だったんだ?」
戦士ユイトが、背の大剣を大振りで引き抜いた。それは剣というよりも、巨大な両刃の鉈に見える。その火力は攻城兵器にも匹敵する、ユニーククラスの希少大剣『地裂破砕剣』だ。
「まぁ戦争したいわけじゃないし、出来れば穏便に… って言っても見逃してはくれないか…?」
細マッチョのイケメン戦士は、割と楽しそうに大翔の言葉を聞いている。少年の軽口に怒ったように、取り囲むハンター達が、一斉に凶悪な得物を抜刀した。
おぉ… こわっ…!
「まぁ、そりゃそうだ… お前が大人しく投降すれば、争いにもならないだろうよ?」
「悪い…… 此方も引けないんだな」
互いに距離を置いたまま、両勇は不敵に笑い合った。
ようやくと、望遠鏡のレンズ越しに、ツキカらしい後ろ姿を見つけ出したヒロト。しかし焦りがミスを呼ぶと、敵ランカー数十人に追われる羽目になりました。タウバァの外周市街で起こる、少年との交戦は次第に激しさを増していきます…。
悪化する状況の中で、果たしてツキカとの再開は叶うのか…?
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