6-3話 機能停止
第六章:歪みゆく世界:
前日の出発が遅かっため、スパイク ロック ピーク手前で野営をしたメンバーは、早い時間に大寺院へと到着していた。
「うわっ、本当にバグってやがるな」
幸太郎が苦笑しながら、半端に開いたままの『蛇』の大門から、ヘイネス大寺院へと入場をする。
内部には、騙し絵の通路に点在する擬態生物共の屍が、倒され状態のまま放置されていた。本来なら場内が無人になれば、自動的に全ての敵が再設置されるはずなのだ。さらには大翔本人に発生するはずの、1週間の入場制限が掛かっていないのも不自然だった。
「だろ? 何度も往復してみたけど、クエストもリスタートしないしさ… クエスト終了の転移石が出現しているから、クリアーはしているはずなんだ… まぁ石は埋もれてるけど…」
「埋もれてる……? えっと当然ボスは倒したんだよね? ヒロト的に心当たりはあるのかな?」
後衛の女子列から、香音が難しい顔をする。彼女の魔力走査では、このフィールドダンジョン内の、全ての魔法陣が停止している状態らしい。
「多分…… 最終ボス部屋のあれのせいだと…」
「あれってどんなあれなのよ?」
大翔と香音の距離感の変化を感じてなのか、昨日から微妙に彩葉が拗ねている…。
「イロハ、イジメないでくれ… とにかく直接見て欲しい。上手いこと言葉では説明出来そうもない」
早々に大翔が説明を放棄したので、この無人?のダンジョンを、さっさと走り抜ける事になった。魔物共が居なければ、ボス部屋まで15分ぐらいだろう。
そうして、ほぼ狩り尽くされた、ただのトリックアート展のような場内を、5人は二列で走り出す。
「そういやヒロトはマジに25になってるな…」
「ああ、みんなにも随分と世話になった。本当にありがとな」
「それは、わたし達の経験値稼ぎにもなったから、全然良いのよ? ただ、やっぱり釈然としない… かな?」
彩葉が可愛く唇を尖らせる。
「わたしが先輩面出来た時間が短くてつまらないわ!!!」
「そんなに早口で、ぶっちゃけられてもなぁ。最初の二ヶ月は、色々と教えてもらっただろ?」
「たった二ヶ月じゃない… もっと後輩に頼りにされたい、慕われたーい」
「いやいつも頼りにしてるって…」
今のは完全に言わされたやつだった。ようやく彼女がニマっと笑った。
「そうだよー サクラだって、レベル24になるのに、3年と7ヶ月掛かったんだよぉ? チートだチートだぁ」
いや… 君の能力も十二分にチートだぞ?
「うげっ、つかサクラいつの間に24になったんだ? オレ聞いてないぞ?」
「ふふーん、今期の戦争でだよぉ。わたし今回討伐数トップだもん。それで24になりましたー」
「やっぱ敵ハンターから搾奪した、経験値が美味しいんか… 俺なんかレベル24まで、まだ37%もあるんだぞ…」
幸太郎が、頭を抱えて苦悩する。火力枠に比べて、盾役に経験値が入りにくいのは仕方がない…。
「まってまって、という事は、ヒロトは飛行スキルを取れたのね?」
これでヒロトと、空の遊覧デートも出来るじゃない!
彩葉の機嫌がV字回復すると、エルフ耳がぴくぴくと嬉しそうに反応する。
「ああ、これでやっと空も飛べるよ」
「「 いや、普通に飛んでたろ!! 」」
思わず声を合わせて突っ込んだ。
「いや、あれは飛ぶというか、ジャンプしてるだけだからさ… イロハやコウタロウと、翼を並べて飛びたかったんだって」
「いや、飛行魔法に翼は無いけどな……」
実際大翔は、この飛行スキルを得るために、無茶なレベル上げをしてきたのだ。ソロで敵の支配地域に侵入するには、どうしても未開の高地を越える必要がある。飛行魔法は少年にとって、恋する少女に逢うための、通行手形のようなものなのだ…。
雑談しながらも、あっという間に第一層を通り過ぎる。第二層への境界に、崩れ落ちたジャングルジムのような、パイプの残骸が山になっていた。第一層を守護する、中ボス擬態生物の成れの果てだ。
「ねぇヒロト、新しく開放されたスキルはどうなの?」
「駄目だよイロハ… スキルの詳細を聞くのはマナー違反。親しき仲にも礼儀ありだよ?」
即座に香音が注意する。こういうところはクラマスらしい。
「いや、別に良いよ。連携取るにも知ってて欲しいし」
そう言って両手を差し出すと、香音と彩葉に手繋ぎし、さらに彼女らも幸太郎と桜咲に繋がって輪を作った。最近知ったのだが、クラン員同士なら手繋ぎ状態限定で、互いのスキル欄まで閲覧できる。
: 新スキル :
毒塗り解毒 LV1
武器やアイテムに暗殺用の特殊な猛毒を付与できる またその毒の解毒能力 Delay32.0秒
罠検索、解除 LV1
ダンジョン内の高度な物理罠や魔法陣を検索、解除できる 適応難易度はレベルに依存
飛行魔法 LV1
魔力による継続飛行能力。速度、飛行時間は魔力と知力で乗算される
再生の息吹 LV1
持続性回復付与 自動回復170/20秒 効果時間320秒 Delay45.0秒
双掌打 LV1
気力を消費する防御貫通効果のある衝撃波を撃ち出す、指向性範囲攻撃 Delay15.0秒
: 新スキルコンボ :
マントラヒール スーペリア LV6
範囲効果のある上級マントラヒール。エリア全体の傷を治療し体力を回復する。回復力42xレベル+知力 Delay33.0秒
神々の慈悲と愛 LV6
最高位の神の祝福となる強化セット。あらゆる能力の底上げをする。 効果時間 2xレベル+知力 Delay140.0秒
魔弾重爆撃 LV3
魔弾爆破を複数投射する範囲攻撃 ダメージ125xレベル+知力 投射個数xレベル+知力 Delay18.0秒
猛毒の魔法腕 LV2
超強酸性の猛毒の魔力腕
疾風の多連撃 LV2
疾風の極意最中に多連撃を撃ち出す超高速剣技
攻撃力x315% Delay6.0秒
「すごーい! 再生の息吹 に 上級マントラヒール って、ヒロトくんヒール系だけで3種もあるんだね。もうわたしよりヒーラーぽい」
桜咲が手放しで称賛してくれた。こういう時は素直な良い猫だ。
「つか… 新スキルもそうだけど、ヒロトのコンポスキルも半端ないな… 自分を超強化して、持続ヒールと上位ヒールで連続で回復できて、完璧な隠蔽と超高速移動と、さらに飛行能力まで… ほとんど人間兵器だぞ?」
「ヒロトのクインテットは、索敵と支援系の器用貧乏になりそうな組み合わせだったのに。今では超オールマイティな怪物キャラだよね?」
何気に幸太郎も香音も褒め方が酷い…。
「人はそれを最強と呼ぶのよね… もう何をやってもヒロトには勝てないんだもの」
セクシーなダークエルフが、手繋ぎを引き寄せてから、彼を後ろ抱きにする。本人の目論見はともかく、弟をからかう姉的な何か、にしか見えなかった。
「大丈夫だ… 色んな意味でイロハの方が勝ってる…」
背に当たる柔らかな双丘の感触に、赤面して視線をそらした。
「それ絶対褒めてないわよね?」
「いや、すげえ褒めてるって…」
そうして、更に第四層から、ボス部屋への運河の罠道を進んで行った。途中、生き残っていた屋敷タイプの大型擬態生物と会敵したが、全員の飽和攻撃で、一瞬で粉微塵に爆砕されていた。ほんとに過剰火力にも程がある…。
「これは… 完全に寺院全体が停止してるんだね…」
途中まで塞がれている石壁の開口部から、ボス部屋へと階層を潜る香音。層境界のズレた段差に手を触れると、魔力探知で周囲の魔力量を調べている。どうやら相互に回転していた、ドーナツ状の構造自体が、中途で動きを止めたようだ…。
「うわっ!! 何よこれーー!」
後から境界を越えてきた彩葉が、眼を見開いて驚愕する。
「おおぉ! これは…… 確かに説明出来ないな…」
悪魔騎士も同時に驚くと、その本体を見上げてしまった。広い円形の室内には、石床から大きく三方に吹き出したような、赤い大波が天井まで張り付いていた。その中央には網目状に積層した、大仏にも見える歪なシルエットが、手を差し上げるように立っている。
それは赤い蓮の花に乗った、真っ赤で巨大な菩薩像に見えなくもない… 転移石が、大仏の法衣に取り込まれて、薄く発光を繰り返していた。
「あそこに埋まってる転移石には触れたんか?」
「当然試してみたって。普通に正門前に飛ばされるだけだった…」
「でもでも、意味ありげなオブジェだよー これって地面の亀裂から吹き出したのぉ?」
桜咲が躊躇いもなく、飛沫のような形で固まったそれに、指先でちょんと触れて見せた。すると、その赤い物質に光りが滲むと、広がるように伝播していったのだ。モノ自体は、半生状態のようで、つるつるの表面は多少の弾力もありそうだ。
「サクラ、下手に触らないほうが良いって… これどんな魔法攻撃も効かないし、いくら斬ってもゆっくりと再生するんだよ」
突然と巨大スライムに崩れて、襲ってきても不思議ではない。少年は猫耳娘の祭服を摘んで、軽く後ろに引き戻した。入れ替わりに香音が手を伸ばして、赤い波飛沫にかざしている。
「ちょ、カノンまで…」
少年の注意を遮るように「大丈夫」と手を振った。
「そんなに恐れるようなモノじゃないよ… 要するに、これ液漏れかな?」
「液漏れ…? でもこの赤いのは、俺の鑑定でも『不明』としか表示されないんだぞ?」
「なるほど… ヒロトでも看破出来ないんだね… ある意味この世界が秘匿したい、理のひとつなんだろう… それならもっと、地中深くまで調べてみてよ」
「んん? 深部まで調べるのか…? てかなんでそんなに冷静なんだよ?」
彼が空間知覚で、周辺域の詳細構造を再走査する。するとこの赤い不定形体が、地下の深部を十字に走る、極太の配管設備に接しているのが分かってきた。ただし厚い堆積層の遮蔽によって、見える範囲は限られている。
そして気になるのはその上部、ボス部屋直下から続く、長いトンネル状の構造だ。彼が裏通路と呼んでいた、地底を貫く不自然な一本道だった。
「ふふっ、ヒロトだって割とよく見てるモノだよ? ようするにこれ、漏れ出した大量の魔力伝導体だから」
「魔力ゼリーって… 外骨格型のモンスターの内部に充填されている、あれか?」
「そうそう… 倒したモブから漏れ出ているときは、魔力を放出してピンク色に近いけどね。これ妖聖剣が、床の奥深くまでを切り裂いた結果じゃない?」
「え? あ、あぁ… 確かに結構な手応えだったけど…」
地竜型ボスの鱗層を貫通させるため、顕現化した妖聖剣で、上空から派手に串刺しにしたのだが… その直後裂けた床の亀裂から、この魔力伝導体が噴水のように吹き出してきたのだ。
「その時に、この大寺院全体に供給されている、魔力配管を破損させたんだね。これって魔力を吸収、蓄積、伝播する特殊な性質の流体で、うちの砦の魔力炉にも使われているんだよ? 僕の予想では魔赤金鉱の類似物質だと考えてるけれど…」
「それにしても… この奇妙な、仏像の模写は意味があるの?」
彩葉が、自らの魔赤金鉱製のミニドレスを、意味ありげに摘み上げている。
「それはこの大寺院の主、『堅牢地神』の眷属の写しだと思う… 魔力伝導体は、その魔力の記憶までを、劣化させずに保持できるんだ… この巨大な魔力の塊は、地神か地精霊の写し身なんじゃない?」
「つまり、俺が地下の導管を傷つけて、そこから漏れ出した魔力伝導体が、血液の血小板のように、流出を止めるために凝固したとか…?」
「ほぼ正解に近いと思う… これだけの質量の魔力伝導体だし、魔法を撃っても、余裕で吸収されると思うよ」
「でも、これたまに動いてね?」
確かに、緩く全体を揺すってみたり、飛沫の一部が伸びたり縮んだりを繰り返している。
「この巨大なオブジェの中で、主の魔力が今も生きているんだよ。だからこそ世界の回復力では復元されずに、そのままつっかえ棒のように、仏殿の機能を停止させているんじゃない?」
「なるほど… で、問題は… どうやってこれを除去するかだな?」
見回した全員が、その場で沈黙してしまった…。
通い詰めた馴染みのダンジョン『ヘイネス大寺院』は完全に機能を停止しています。その原因は、人間兵器にまで成長した大翔と妖聖剣にありました。
まぁ、バグ技使いすぎてゲーム自体をハングさせた、というところでしょうか?
そしてこの件が、彼らの世界観を歪ませる大事へと、続いて行きます…。
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