4-12話 皆殺しの仏殿にて
第四章:ヘイネス マーダートリック:
土曜日ですが最新話を投稿しました!
「またこんなんかよ、面倒な…」
その通路は左右に別れて、右が階下に、左が上階の闇へと続いている。場所は第三層の黄金仏像の回廊。入り口の鋼鉄擬態生物の撃破からは、ニ時間ほどが経過していた。
大寺院の内部は、社殿と通路が広めの迷路のように入り組んだ構造で、地下1階地上3階の立体的な、遺跡都市とも呼べる広大なものだった。
この回廊に左右交互に設置されている、金箔の仏像群は、時には台座が牙のように割れて襲いかかり、時には足元の石畳自体が巻き付いてきたり、そして時には普通に仏像がゴーレムだったりと、遊園地のアトラクションのようなビックリ通路だ。
もちろん此処までの第一、第二層に隔てられていた迷宮都市も、真っ直ぐ進んでいると見せかけて、目の錯覚で下り坂であったり、横並びした赤と金の社殿が、実は水面に映った天井であったり、石畳の溝に潜んでいたのは、棒状の骨格だけのジャングジムのような擬態生物だったりと… よくもこれだけバラエティに富んだ、トリックを揃えたものだと、感心せずにはいられなかった。
流石に、壁一面の積石が、甲虫擬態生物となって雪崩れてきたときは、ゾワゾワと悪寒が走ったが… それも香音の火炎魔法で、あっさりと焼却処分されていた。
「わかっていると思うけど、その左右の階段どっちも擬態生物だな」
少年が確認するように、もう一度声にする。前衛の三人が目配せすると、右の下りに幸太郎、左階段に大翔が向かい、そして何故か中央の分岐の角に、彩葉が気功術身体強化で自己強化をしながら、サイクロプスの豪腕を振り上げていた。
「先制あるのみね!!!」
石壁の角に焚かれた、魔法角灯の直下を、彼女の巨大な青腕が撃ち抜いた。
ピギャアアアアアアアアッ!!!!!
陥没するように、後方へと吹き飛ばされるコーナーに、口が裂け、魔法角灯に見えていた鼻の上に、1つ目がカッと見開いた。その目玉を中心にして階段部がバラケながら引きずられると、それは連結した棒状の蛇となって動き出す。
「なかなか滑稽な魔物のようね…」
壁から階段に掛けての全てが擬態で、それが殴り飛ばされた事で、壁に縦長の欠落が出来ている。その奥に開けている、第四層の広場には、角張った目玉付きのトーテンポールが、両腕の蛇を引きずったまま、二転三転と転がっていった。
元階段だった連結板が、蛇のように鎌首を掲げて反撃してくるが、重騎士のシールドスタンと、大翔の魔力腕に阻まれて、衝突した列車のようにジグザグに折れ曲がってしまう。
「もう一発!!」
得意の強烈な踏み込みで、加速した彩葉の腕が、気を纏って数倍に膨れ上がる。
「やぁあああああああ!!!!」
それは目玉の中心に直撃すると、簡単に逆側へと撃ち抜いてしまった。目玉を失った本体は、ピキっと亀裂が上下に走り、棒状の躯体が左右に割れて力なく崩壊していった…。
「岩石系までなら余裕でいけるわね」
彩葉は左右の爪で蛇の根本を握り潰すと、一瞬で数メートルを跳ね上がり、その勢いで鞭のように天井へと叩きつけ、そして地へと振り下ろした。蛇の連結が耐え切れずに破断すると、ただの石板に戻って四方にバラケて飛び散っていった。
うは… 安定の脳筋パワーファイト…。
彼女は「ふぅ…」と色気のある吐息を残すと、赤いドレスの裾をふわりと浮かして、第四層へと踏み込んでいく。
ゴゴゴゴゴ……。
遠くから地鳴りのような音が響いてきた。それはゴリゴリと岩を押し合いながら、此方へと近づいてくる。
「各層が動き出したな、全員、早く壁の向こうに!」
幸太郎に促され、みんなが続けて穴を潜る。とたんに音が足元まで届くと、ゆっくりと街そのものが横移動しているのが感じられた。広場の天部は一部が吹き抜けになっていて、尖り屋根の塔が、位置をずらしていくのが見えている…。
「遺跡全体が回転しているのか… 実際に体験すると、このスケールに驚くな」
今さっき潜ってきた、縦穴の向こうに煉瓦の壁が現れて、横にスライドしながらそれを塞いでしまった。
全員が路地に開けた、広場に立ち尽くして、遺跡の移動が完了するのを待っていた。10分ほどそれは続くと、ゴンゴンゴンと岩が何かに固定して、地響きが遠ざかっていった。
「まぁ、特に問題はないようだね」
周囲を警戒していたメンバーが、香音の一言で気を緩めた。
「しっかしヤバイなこのダンジョン… これレベル20程度じゃ、まず踏破不可能だろ?」
先程レベル20になったばかりの少年が、此処までの行程を思い返して疲れた顔を見せている。確かにトリックだらけの高難易度に加えて、待ち受ける魔物達も、ほとんどがレベル20超えの高位擬態生物ばかりなのだ。
「そうだね、僕がこの世界に来た直後ぐらいに、一度だけハイネス大寺院 攻略大規模戦闘が組まれた事があったんだ… 6x5の30名が、1週間を掛けてスパイクロックを越えて、あの鳥居を潜ったのさ」
「おいおい、到着するだけで普通に1週間も掛かってるぞ…?」
「あはは、まぁ人数が増えれば、それだけ脚も遅くなるものだよ。当然、初見の彼らは、ヒロトが落ちた鳥居で一人欠け、入り口の守護者で二人欠けと、次々に擬態生物達の餌食になったらしい」
「その状況が、見ていたように思い浮かぶな…」
「第二層に到達するのに、ほぼ丸一日… たどり着けた者は、僅かに5人だけだったそうだよ。そして当然に、彼らはもう進むことも、戻ることもままならずに、何度も組み変わる遺跡の内部で迷い、最後の一人まで遺跡に喰われていったんだ… そこで忌みを込めてついた通り名が『皆殺しの仏殿』なんだ」
「なんかゾっとした… 今その事故物件の只中だからな」
顔をしかめて、怖々と第四層を見回している。
「刺激的で有益な場所だとおもうよ? 実際にヒロトは、あっという間に、並行操作と分割思考を覚えている」
彼は此処までの行程で、四分割思考までは問題なく体得していた。本気で周囲警戒に集中すれば、気配探知、索敵領域、心眼看破の技術に、鑑定士と探検家の二次職まで併用できてしまう。
更に所有する、二重の潜伏と、上位コンポの神隠しまで考慮すれば、すでに陣営内最強の斥候と言えるだろう。いや、やはり暗殺者か…?
周囲は三層までの石造遺跡の様相から変わって、赤を基調とした木組の社殿が、幾層にも積み上がている。通りの中央には、水無しの堀が掘られていて、可愛らしい赤い欄干の橋が何本も渡っていた。
うわっ、あの橋とか絶対擬態生物だわ…。
すでに彼の探知能力は、個々の赤橋に生体反応を感じてしまう。しかも堀の部分以外は、全て立体的な騙し絵で、足元の木板の通路を行けば、途中から空中へと投げ出される事間違いない…。
「こんなに広く見えるのに、実際はあの一本道しかないのか… て、何でお茶の準備してるんだ…?」
振り返ると彩葉がテーブルと椅子を板床に並べ、桜咲がコンロで湯を沸かし、幸太郎が珈琲と紅茶の茶器セットを並べている。ケーキスタンドまで用意する徹底ぶりだ。
「この先は、中央の仏殿までほとんど止まれないのよ。なので四層入り口では、ティータイムするのが定番よ」
ダークエルフが手招きして、早く座れと椅子を引く。
見上げる多層の社殿と、堀と、そこに並んだテーブルセットが、どこか台湾の観光地に居るような気分にさせられた。もちろん実際に行った事はない…。
「ヒロトは珈琲で良いんだろ?」
フル装備の悪魔騎士が、上品にカップを差し出してくる。
いや、その違和感が半端ないから…。
「そうそう、これはヒロトが使うと良いわ」
ドロップ品の管理担当らしい彩葉が、結構な数のドロップアイテムの中から、有益な護符をカップの横に差し出してきた。
緑色の地に金文字が掘られた、典型的なサイズの護符だった。
:鑑定:
哀れみのお守り(HP+77)
鋼鉄擬態生物の落とした『命と光の勾玉』(HP+172 HP 自動回復+34/25秒)には劣るが、これも体力強化には効果の高い護符だった。正直、妖聖剣以外は、装備の揃っていない彼には、かなりの良品だ。
「いや、なんか俺ばっかりもらって申し訳ないよ…」
「いいのよ、みんなそこそこ装備揃ってるし、どうせ同じアイテムは効果が重複しないんだから。私達が欲しいのが出たら、その時はちゃんと貰うもの。アイテムに関しては、少数精鋭のうちみたいなところの特権よ」
「そうだぞー ヒロトくんが強くなれば、それは私達にとって良いことだもん!」
桜咲も「早く納めろ」と後押しをしてくる。
「そ、そうか… じゃ遠慮なく…」
彼のような新人には、かなりの役得なのだろう。実際このニ種の護符だけで、体力+249の底上げになっている。
「美味しいよー コウタロウの茶は最高ね」
何故か熱々の緑茶を口にする桜咲が、お茶請けにフルーツ入のパウンドケーキをほうばっている。その甘い香りが漂ってくると、大翔が手づかみで、一切れをつまみ食いする。
「こらヒロト、それは品がないと思うよ」
香音に軽く怒られると、彼女は丁寧な手付きで、ケーキを小皿に取り分けてくれた。
「そういえば君はレベル20になったのだろ? 新しい技術が開放されたんじゃないのかい?」
「あぁ… 緊張してて忘れてたわ…」
「ヒロトもう20かよっ! 成長早すぎだって…」
幸太郎が呆れたように、椅子に腰掛けると、その膝上にちょこんと猫耳娘が乗ってくる。暇ができれば、ちょこちょこと自然にいちゃつく恋人のふたり。
それをどこかで羨ましいと感じてしまうと、無意識に隣に座る、美しい蜜色の髪に触れたくなった…。
おっと… やばっ。
持ち上げた手を、不自然に下ろした少年が、新たに開放された技術へと意識を向けた。
昏倒 LV1
攻撃命中時に、一定時間意識を失わせる 効果時間5秒 Delay14.0秒 防御減退効果レベルx9%
盗み LV1
潜伏中、対象の装備から一定の確率でアイテムを抜き取れる Delay45.0秒
魔弾爆破 LV1
魔力弾命中時に、圧縮した魔力が爆発を起こす ダメージ55xレベル+知力 Delay9.0秒
状態異常耐性 解除 LV1
ステータス低下、麻痺、睡眠、石化、などあらゆる状態異常耐性と、回復効果 Delay5.0秒
マントラヒール LV1
傷を治療し体力を回復する。回復力25xレベル+知力 Delay9.0秒
魔弾爆破にマントラヒールか。やっと回復を体得できたよ… 結構長い道のりだったな。
そう言っても、まだ一ヶ月も経っていないのだが…。
「ついに俺も回復を覚えたよ。これを並行操作で運用すれば、戦闘中でも自己回復出来るな… うん、凄い安心感だ!」
「ふふっ、それは良いね。いつか僕も癒やして欲しいな」
何故か香音がカップを差し出すと、全員が同じように手の飲み物を掲げて「おめでとうっ」と乾杯をする。
何か良いな… こういう身内的なノリは…。
少年は照れたように視線を流すと「サンキュー」と言って、甘めの珈琲を一気飲みした。
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