4-11話 鋼鉄の四脚砲台
第四章:ヘイネス マーダートリック:
危ないです! ギリ投稿、間に合いました…!(ぜえぜえ)
四本の腕を生やした鋼鉄の甲羅が、腕を曲げ伸ばしして安定した姿勢を探していた。躯体の正面にある短身砲のような突起が、ぐりぐりと動くと此方を捉えて静止する。
「来るぞ!!」
殺気が盛り上がるのを察して、大翔は咄嗟に鋭く叫んだ。突起の先端が霧状に霞むと、青いレーザーのような射撃が、少年に向かって放たれていた。時間差でドンッと、重い発射音が轟いてくる。
「なるほど… 超高圧の水流か」
一瞬で左右に散るメンバーと、横に一歩を移動して、余裕の表情でそれを躱してみせる少年。背後では着弾で壊された欄干から、熱気が沸くように立ち上がっていた。攻撃はそれなりの破壊力があり、かなりの高温でもあるらしい…。
「擬態生物系の面倒なところはね、同じ種族でも攻撃方法が千差万別なのよ。どうやら攻撃手段までも、何かの模写をしているみたい」
彩葉が牽制の気功弾を、散弾のようにばら撒くが、流石に鋼鉄の装甲に阻まれてピクリとも反応しない。
「なるほど、この子は超圧の熱水を、噴射してくるんだね。とても面白い… にしても鋼鉄擬態生物は、特別に硬い種だから厄介かな」
香音が冷静に語りながら、杖先へと集約した炎弾を、アンダースローで放り投げる。それは綺麗な放物線を描くと、甲羅の頭上で大爆発を引き起こした。爆圧が球状に衝撃波を生み出すと、吹き上がる熱波が此方まで届いてきた。
流石の破壊魔法だな… これ一発で獣喰らいを燃やせそうなんだけど…。
キノコ状に巻き上がる火炎の中から、ドン、ドンと連射された熱湯を、香音が横へのステップで避け続ける。すぐに燃える炎の中心から、鋼鉄の蟹がぬっと現れた。
「はッ!? まじかよ、カノンの火炎爆破の直撃でも、無傷ときたか」
幸太郎が嫌そうに顔をしかめた。擬態生物が、何のダメージも見せずに、熱水ビームを撃ち続ける。彼らにとって、毎秒1発程度の、射撃を避けるのは容易いだろう。しかし、敵の分厚い装甲に阻まれて、攻撃の決め手には欠けていた。
「まさに重装甲の四脚砲台って感じだな…」
大翔の趣味に合うのか、何やら言い方が嬉しそうだ。
そこで甲羅の前面が横に割れると、水流の噴射突起が5本ほど生えてくる。それが順番に射撃を開始して、一気に回避が忙しくなった。常に水流が視界を走り、既に背後の欄干と石畳は、あちこちが破壊され、湯溜まりに沈んでいた。
「あー 面倒くさいなコイツは!! これお湯だろ? カノンの氷魔法で凍結させちまえば良いじゃないか?」
地にめり込ませた大盾の影で、悪魔騎士がエルフの少女をチラ見する。その背後では猫耳娘が、やる気が無さそうにハミングを続けていた。
「頑張って! これは私の仕事じゃなーい」
多分、防御型同士で相性が悪いのだろう…。
「そうだね、氷雪嵐あたりであれば、十分に完封できそうなんだけれど… なんかヒロトが殺りたそうなんだ」
「あ、ああ… 看破と鑑定スキルを併用したら、内構造と弱点までが透過表示で見えちゃってさ… これ便利だな」
半透明に見えている鋼鉄の蟹は、見たままの外骨格構造で、内部は筋組織に似たワイヤー状の魔力鋼糸で支えられている、肉の変わりの流動的な魔力ゼリーが充填されて、心臓に見える高熱の核と、水流の圧縮装置らしい袋以外に、内臓らしいものは見当たらなかった。
「内部は結構な高温らしいな… 背と側面に開いた12本の排気スリッドと、水流の噴射突起の内部が弱点の赤表示だな」
さて… 妖聖剣さん、あの装甲は切れるのかい?
腰の短剣に手を掛けて尋ねてみると、《今しばらくのご鍛錬を》と不思議な感覚の意思表示が伝わってきた。さしもの妖精さんでも、厚さ200ミリの鋼鉄の装甲板は切れないらしい…。
まぁ重戦車なみの装甲厚だろうからな…。 というか、俺ら普通に意思疎通してないか?
ー スキルはその使い方と解釈で、様々な効果に変化するんだよ ー
桜咲の解説が、印象に強く残っていた。彼は視界下段にコンソールを呼び出すと、『倉庫』タブを横一列の最小表示で、開いたままにした。ゲームでよく見る、ショートカットキーにも見えなくもない…。
それなら幾つか、試してみようかな?
「ちょっと実験したいんだ。あの大蟹は俺に殺らせてくれ」
少年が妖聖剣を抜刀すると、逆手に構えて敵を見据えていた。それに答えるように、桜咲の『韋駄天の舞』が、軽やかなリズムの歌声に乗って支援効果を乗せてくる。
「いてらー! ちなみにその子レベル23のユニークだよ。名前は『ドアノッカー』ねぇ」
そういう情報は先にください…。
大翔は疾風の極意で、一瞬で蟹腕の懐へと到達していた。鋼鉄の蟹は、驚いたように射撃を止めて、身を屈めて彼への射線を探そうとした。
ドシュドシュ!っと水流の5連射を、目標に向けて射撃をすれば、それは大地に穴を開けただけになる。すでに彼の姿は反対側の腹下だ。
蟹は巨体を小刻みに横回転させて、斜めに下ろした砲口で彼を捉えようとする。まぁ、そんな鈍足な攻撃が当たるはずもなく、高水圧の破壊の連鎖が、寺院の壁から、入り口奥の石柱にまでを連爆していく。
蟹は怒ったように、その場で地団駄を踏むと、腕を伸ばしてリフトのように身を高く掲げてしまう。そして一気に巨体を打ち付け、少年を潰そうと暴れ始めた。
「大丈夫なのかしら? 彼のスキルじゃ火力不足じゃない?」
彩葉が、欄干の一部に擬態していた、蝙蝠タイプの擬態生物を、赤龍の腕で握りつぶした。
確かに彼の技術では、重装甲の敵に対して、有効な術は限られていた。元々が暗殺者ベースの、人形魔物と対人特化の構成なのだ。
突然、側面の排気スリッドから、高温の蒸気が吹き出して、全周囲を高熱のスモークで覆い隠した。
音もなく瞬間移動で、熱気の外へと抜け出す少年。仲間のほうに横顔を向けると、にこっと不敵な笑みを浮かべてみせた。と……。
バアアアアアアアアアンッ!!!!
「ふぇ?」 「ちょっと!!」 「うわー」 「マジかぁ!!!」
その瞬間、全員が一斉に驚きの叫びを上げてしまう。
凄まじい爆音が轟くと、熱気を一気に吹き飛ばして、土煙と石片が全周に破裂した。くの字にひしゃげた鋼鉄の躯体が、腕の一本を飛ばしながら、煙を纏って上空へ突き上げられていた。地には巨大な穴が空き、その中央は黒光りする立方体がニ個、地に食い込んで煙を上げている。
「な、な、何だそりゃ!!! ヒロトのやつ何をした!? あの超重量級の擬態生物を高々と打ち上げやがったぞ」
さしもの幸太郎も、その破壊力に度肝を抜かれてしまう。百戦錬磨の悪魔使いも、これだけの威力のある打撃技術を見たことが無かったのだ。
「今、何の魔力も気も感じなかったよ。彼はいったい何をしたんだい? 火薬の爆発か何かだろうか?」
それは手練の香音でさえも、同じだったらしい。打ち上げられた無防備な蟹の背に、妖聖剣を構える大翔の陰影が乗っている。
「頼むぞ夜妖精!!」
剣を引いて構えを取る少年が、手の得物に声を掛ける。それは握った掌から、共感となって溢れ出ると、膨大な闇の力場がこの世界に顕現していた。短剣に分類される妖聖剣が、藍色の夜闇を蒸着すると、十数倍の大太刀へと、その刃を一変させていた。
その自由落下する蟹の背にいて、吹き上がる土煙や、弾けた金属片や、浮遊するあらゆるものが、ほぼ停止したように見えていた。そして一閃… 闇色の軌跡を残して、妖聖剣の一撃が装甲板を貫通した。
排気スリッドから、生きたまま串刺しにされた蟹が、ピキイイイイイっと悲鳴を上げて腕を暴れさす。大翔は装甲の亀裂から妖聖剣を引き抜くと、冷静に盛り上げていた気と魔力の追撃を、その裂け目へと打ち込んだ。
得意のコンポスキル魔力腕気功撃… しかしそれは腕の形ではなく、鋭く細い針状に圧縮された一撃だった。
魔力気突刺撃
妖聖剣が破いた装甲の亀裂に、深く突き刺さる高硬度の技術の突刺。完全に歪んだ鋼鉄の蟹が、地上に激突する寸前に、その針が体内で破裂した。
追撃… 魔力気全開放
極限まで圧縮された気と魔力の束が、装甲内部の魔力ゼリーの中心で、破裂するように膨張したのだ。
ドオオオオンッ!!! 鋼鉄の躯体が地にめり込むのと、躯体の節々から高熱の蒸気を吹き出すのが一緒になった。
白く霞む視界の中で、鋼鉄擬態生物の蟹体は、メリメリと二周りも膨張すると、熱水の噴射突起が次々に破裂して、扉を模した腹と甲羅の継ぎ目から、大量に白煙を吹き出していた。
やがてガチャガチャと壊れた玩具のように、痙攣していた腕が力を失い、ようやくと全ての活動を停止した。
(Congratulations!)
脳内にアナウンスらしい電子音声が流れてくる。
(貴方のパーティは攻略クエスト『ヘイネス マーダートリック』を開始しました)
驚いた表情の大翔が、無意識に足元のドロップアイテムを拾い上げる。
「ようするに、入り口の守護者を撃破する事で、クエストのフラグが立つ訳か…」
(全4階層の寺院を突破して、中央仏殿のボスモンスターを討伐してください。制限時間は48時間 挑戦を開始しました)
: 47:59:55 :
「しかし、此処までゲーム的なイベントは、初めてかもしれないな…」
視界の上部に現れた、カウントダウンの透過文字に、呆れたように言葉にしていた。
「おい、ヒロトよ。お前まだレベル18だろ…? レベル23の格上ユニークをソロで倒しやがって… まったく何者なんだよ?」
「今ので19になったけどなっ、と」
幸太郎が再び背を叩こうとしたので、素早く腕でブロックをする。
「でも本当にどんな技なのよ? 攻城兵器並の威力だったのよ?」
代わりに 彩葉がペシっと叩いた。すぐ横では、蜜髪の可憐なクランマスターが、背伸びをしてワクワクとした表情で待っている。
「いや… あれはその、裏技というか… ちょっとした小技かな? ぶっつけ本番でかましたけど、想像以上の威力で自分でも驚いた」
「小技と言うには、あまりに苛烈な攻撃だったよ? 僕もあんな打撃を見るのは初めてなんだ」
香音が彼の袖口を引っ張って、早く早くと急かして見せる。
「あっと、えっとな… 君たち『倉庫』内のアイテムを、二枠同時に引き出せる?」
「んん? 元々グループ化して収納した物ではなくてかい? 二枠のアイテムを同時に選択なんて… あらら、これって出来るんだね… 5年目の僕でも知らなかったな…」
「多分これも、アンサンブルのバグってやつだと思うんだ。見たほうが早いかな? ちょっとデモンストレーションを… あ、絶対に俺の右側には来ないでくれよ」
そう言うと、少年は『倉庫』から、サイコロサイズのキューブがニ連結したものを、空中へと引き出して見せた。まだ取り出し位置を固定する前の、半透明のそれらは、何故か競り合うように小刻みに震えている。
「良いか? 見ててくれ…」
キューブを実体化した瞬間、パンッ!!!! と破裂音を残して、2つのキューブは逆方向に銃弾のように弾けていった。一つは寺院の壁に穴を開け、もう一つは大木の幹を貫通している…。
「おおおっ… まるで銃弾みたいだな?」
幸太郎が相当驚いたらしく、大きく眼を見開いている。
「凄い速度で飛んだけど… やはり魔力も気力も感じられないよ? 今のはどんな原理で弾けたんだろうか?」
「俺、昔からゲームでのバグ技や、裏技探すの得意でさ… 偶然に二枠の物体を重ねて実体化すると、反発することに気付いたんだ」
彼はもう一度『倉庫』から小石二個を並べて召喚した。それが実体化した瞬間、今度はゴンと小さく跳ねて、互いに逆方向に転がっていく。
「こんな感じな… それでちょっと閃いてさ、ちょこちょこ試していたら、どうやら同じ質量の物体を、表面の数ピクセル程度重ねて実体化すると、凄まじい反発力で弾きあう事を発見したんだ… これって、ものっそバグ技で、この世界の魔法や物理法則と、まったく別の現象なんだろうな…」
「君は凄いことを思いつくな… それでも、その攻撃方法を確立したら、戦闘自体が変わってしまいそうだね」
香音は関心したように、大翔の横顔を見上げて言う。
「あら、どういうことなの?」
ダークエルフの美少女が、少年から受け取ったドロップアイテムを確認しながら質問する。革袋の中身は『命と光の勾玉』(HP+172 HP 自動回復+34/25秒)だった。比較的出やすい高位護符で、そのまま大翔が使うようにと返却された。
「これって、この発射可能な状態で『倉庫』に保管出来ていたよね? つまり魔力も気力も消費せずに、残弾の数だけ連続発射出来るという事だよ? あんな小さな箱でも、長弓の数倍の威力があるのにね」
「さすがカノン… 一見でそこまで理解できるのか。そう一度このベストな位置に重ねたら、そのまま一つのアイテムとして保管できるんだ。そして武器師や 細工師の能力でコピーまで出来ている… アイテム名とアイコンが文字化けするけどな…」
目前に5メートル四方の、御影石のように黒光りする巨大キューブを浮かべて見せた。
「現状だとサイコロサイズの銃弾系と、この鋼鉄擬態生物を吹き飛ばした20トンの攻城砲タイプが、試作品としては成功してる… まぁデカイほうは『倉庫』圧迫するんで数は持てないな」
それはこの巨大な質量の岩を、弾丸の速度で撃てるという事なのだ。その威力は先程見た通りである。
「それでも… あの破壊力のある攻撃を、まったくステータスを減らさずに連射できるのかよ… 空恐ろしいな」
「ようするにこの技は、銃身が無いだけの、短銃や攻城砲なのだろう?」
何故だか香音が、爽やかな笑顔で背伸びをすると、少年の頭をよしよしと撫ぜだした。よく出来ました! という意味らしい…。
「お、おお… まぁ前後に同じ被害が出るから、使う場面は限られるけど… そしてこれ、アイテムだから量産してみんなに配れたりする…」
「「な… なんですとぉぉぉぉ!!」」
全員が瞳を輝かせて、くれくれと手を差し出していた…。
ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。




