表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/192

4-11話 鋼鉄の四脚砲台

第四章:ヘイネス マーダートリック:


危ないです! ギリ投稿、間に合いました…!(ぜえぜえ)


 四本の(アーム)を生やした鋼鉄の甲羅が、腕を曲げ伸ばしして安定した姿勢を探していた。躯体の正面にある短身砲のような突起が、ぐりぐりと動くと此方(こちら)を捉えて静止する。


「来るぞ!!」


 殺気が盛り上がるのを察して、大翔(ヒロト)は咄嗟に鋭く叫んだ。突起の先端が霧状に霞むと、青いレーザーのような射撃が、少年に向かって放たれていた。時間差でドンッと、重い発射音が(とどろ)いてくる。


「なるほど… 超高圧の水流か」


 一瞬で左右に散るメンバーと、横に一歩を移動して、余裕の表情でそれを(かわ)してみせる少年。背後では着弾で壊された欄干から、熱気が沸くように立ち上がっていた。攻撃はそれなりの破壊力があり、かなりの高温でもあるらしい…。


擬態生物(ミミック)系の面倒なところはね、同じ種族でも攻撃方法が千差万別なのよ。どうやら攻撃手段までも、何かの模写をしているみたい」


 彩葉(イロハ)が牽制の気功弾を、散弾のようにばら撒くが、流石に鋼鉄の装甲に阻まれてピクリとも反応しない。


「なるほど、この子は超圧の熱水を、噴射してくるんだね。とても面白い… にしても鋼鉄擬態生物(アイアン ミミック)は、特別に硬い種だから厄介かな」


 香音(カノン)が冷静に語りながら、杖先へと集約した炎弾を、アンダースローで放り投げる。それは綺麗な放物線を描くと、甲羅の頭上で大爆発を引き起こした。爆圧が球状に衝撃波を生み出すと、吹き上がる熱波が此方(こちら)まで届いてきた。


 流石の破壊魔法だな… これ一発で獣喰らい(ビースト イーター)を燃やせそうなんだけど…。


 キノコ状に巻き上がる火炎の中から、ドン、ドンと連射された熱湯を、香音(カノン)が横へのステップで避け続ける。すぐに燃える炎の中心から、鋼鉄の蟹がぬっと現れた。


「はッ!? まじかよ、カノンの火炎爆破(フレイム ボム)の直撃でも、無傷ときたか」


 幸太郎(コウタロウ)が嫌そうに顔をしかめた。擬態生物(ミミック)が、何のダメージも見せずに、熱水ビームを撃ち続ける。彼らにとって、毎秒1発程度の、射撃を避けるのは容易(たやす)いだろう。しかし、敵の分厚い装甲に阻まれて、攻撃の決め手には欠けていた。


「まさに重装甲の四脚砲台って感じだな…」


 大翔(ヒロト)の趣味に合うのか、何やら言い方が嬉しそうだ。


 そこで甲羅の前面が横に割れると、水流の噴射突起が5本ほど生えてくる。それが順番に射撃を開始して、一気に回避が忙しくなった。常に水流が視界を走り、既に背後の欄干と石畳は、あちこちが破壊され、湯溜まりに沈んでいた。


「あー 面倒くさいなコイツは!! これお湯だろ? カノンの氷魔法で凍結させちまえば良いじゃないか?」


 地にめり込ませた大盾の影で、悪魔騎士(デビルナイト)がエルフの少女をチラ見する。その背後では猫耳娘が、やる気が無さそうにハミングを続けていた。


「頑張って! これは私の仕事じゃなーい」


 多分、防御型同士で相性が悪いのだろう…。


「そうだね、氷雪嵐(ブリザード)あたりであれば、十分に完封できそうなんだけれど… なんかヒロトが殺りたそうなんだ」


「あ、ああ… 看破と鑑定スキルを併用したら、内構造と弱点までが透過表示で見えちゃってさ… これ便利だな」


 半透明に見えている鋼鉄の蟹は、見たままの外骨格構造で、内部は筋組織に似たワイヤー状の魔力鋼糸で支えられている、肉の変わりの流動的な魔力ゼリーが充填されて、心臓に見える高熱の核と、水流の圧縮装置らしい袋以外に、内臓らしいものは見当たらなかった。


「内部は結構な高温らしいな… 背と側面に開いた12本の排気スリッドと、水流の噴射突起の内部が弱点の赤表示だな」


 さて… 妖聖剣(ネルフィヌ)さん、あの装甲は切れるのかい?


 腰の短剣に手を掛けて尋ねてみると、《今しばらくのご鍛錬を》と不思議な感覚の意思表示が伝わってきた。さしもの妖精さんでも、厚さ200ミリの鋼鉄の装甲板は切れないらしい…。


 まぁ重戦車なみの装甲厚だろうからな…。 というか、俺ら普通に意思疎通してないか?


 ー スキルはその使い方と解釈で、様々な効果に変化するんだよ ー


 桜咲(サクラ)の解説が、印象に強く残っていた。彼は視界下段にコンソールを呼び出すと、『倉庫』タブを横一列の最小表示で、開いたままにした。ゲームでよく見る、ショートカットキーにも見えなくもない…。


 それなら幾つか、試してみようかな? 


「ちょっと実験したいんだ。あの大蟹は俺に殺らせてくれ」

 

 少年が妖聖剣(ネルフィヌ)を抜刀すると、逆手に構えて敵を見据えていた。それに答えるように、桜咲(サクラ)の『韋駄天の舞』が、軽やかなリズムの歌声に乗って支援効果を乗せてくる。


「いてらー! ちなみにその子レベル23のユニークだよ。名前は『ドアノッカー』ねぇ」


 そういう情報は先にください…。


 大翔(ヒロト)疾風の極意(クイックムーブ)で、一瞬で蟹腕の懐へと到達していた。鋼鉄の蟹は、驚いたように射撃を止めて、身を屈めて彼への射線を探そうとした。


 ドシュドシュ!っと水流の5連射を、目標に向けて射撃をすれば、それは大地に穴を開けただけになる。すでに彼の姿は反対側の腹下だ。


 蟹は巨体を小刻みに横回転させて、斜めに下ろした砲口で彼を捉えようとする。まぁ、そんな鈍足な攻撃が当たるはずもなく、高水圧の破壊の連鎖が、寺院の壁から、入り口奥の石柱にまでを連爆していく。


 蟹は怒ったように、その場で地団駄を踏むと、腕を伸ばしてリフトのように身を高く掲げてしまう。そして一気に巨体を打ち付け、少年を潰そうと暴れ始めた。


「大丈夫なのかしら? 彼のスキルじゃ火力不足じゃない?」


 彩葉(イロハ)が、欄干の一部に擬態していた、蝙蝠(こうもり)タイプの擬態生物(ミミック)を、赤龍の腕(コンポスキル)で握りつぶした。


 確かに彼の技術(スキル)では、重装甲の敵に対して、有効な術は限られていた。元々が暗殺者(アサシン)ベースの、人形(ひとがた)魔物と対人特化の構成なのだ。


 突然、側面の排気スリッドから、高温の蒸気が吹き出して、全周囲を高熱のスモークで覆い隠した。


 音もなく瞬間移動(テレポート)で、熱気の外へと抜け出す少年。仲間のほうに横顔を向けると、にこっと不敵な笑みを浮かべてみせた。と……。


 バアアアアアアアアアンッ!!!!


「ふぇ?」 「ちょっと!!」 「うわー」 「マジかぁ!!!」


 その瞬間、全員が一斉に驚きの叫びを上げてしまう。


 凄まじい爆音が(とどろ)くと、熱気を一気に吹き飛ばして、土煙と石片が全周に破裂した。くの字にひしゃげた鋼鉄の躯体が、腕の一本を飛ばしながら、煙を纏って上空へ突き上げられていた。地には巨大な穴が空き、その中央は黒光りする立方体(キューブ)がニ個、地に食い込んで煙を上げている。


「な、な、何だそりゃ!!! ヒロトのやつ何をした!? あの超重量級の擬態生物(ミミック)を高々と打ち上げやがったぞ」


 さしもの幸太郎(コウタロウ)も、その破壊力に度肝を抜かれてしまう。百戦錬磨の悪魔使い(デビルマスター)も、これだけの威力のある打撃技術(スキル)を見たことが無かったのだ。


「今、何の魔力も()も感じなかったよ。彼はいったい何をしたんだい? 火薬の爆発か何かだろうか?」


 それは手練の香音(カノン)でさえも、同じだったらしい。打ち上げられた無防備な蟹の背に、妖聖剣(ネルフィヌ)を構える大翔(ヒロト)陰影(シルエット)が乗っている。


「頼むぞ夜妖精(ネルフィヌ)!!」


 剣を引いて構えを取る少年が、手の得物に声を掛ける。それは握った(てのひら)から、共感となって(あふれ)れ出ると、膨大な闇の力場がこの世界に顕現していた。短剣に分類される妖聖剣(ネルフィヌ)が、藍色の夜闇を蒸着すると、十数倍の大太刀(おおたち)へと、その(やいば)を一変させていた。


 その自由落下する蟹の背にいて、吹き上がる土煙や、弾けた金属片や、浮遊するあらゆるものが、ほぼ停止したように見えていた。そして一閃… 闇色の軌跡を残して、妖聖剣(ネルフィヌ)の一撃が装甲板を貫通した。


 排気スリッドから、生きたまま串刺しにされた蟹が、ピキイイイイイっと悲鳴を上げて腕を暴れさす。大翔(ヒロト)は装甲の亀裂から妖聖剣(ネルフィヌ)を引き抜くと、冷静に盛り上げていた()と魔力の追撃を、その裂け目へと打ち込んだ。


 得意のコンポスキル魔力(マジック)腕気(ソウル)功撃(アームズ)… しかしそれは腕の形ではなく、鋭く細い針状に圧縮された一撃だった。


 魔力気(マジックソウル)突刺撃(スティンガー)

 

 妖聖剣(ネルフィヌ)が破いた装甲の亀裂に、深く突き刺さる高硬度の技術(スキル)突刺(つっさ)。完全に歪んだ鋼鉄の蟹が、地上に激突する寸前に、その針が体内で破裂した。


 追撃… 魔力気(マジックソウル)全開放(バースト)


 極限まで圧縮された()と魔力の束が、装甲内部の魔力ゼリーの中心で、破裂するように膨張したのだ。


 ドオオオオンッ!!!  鋼鉄の躯体が地にめり込むのと、躯体の節々から高熱の蒸気を吹き出すのが一緒になった。


 白く霞む視界の中で、鋼鉄擬態生物(アイアン ミミック)の蟹体は、メリメリと二周りも膨張すると、熱水の噴射突起が次々に破裂して、扉を模した腹と甲羅の継ぎ目から、大量に白煙を吹き出していた。


 やがてガチャガチャと壊れた玩具のように、痙攣していた腕が力を失い、ようやくと全ての活動を停止した。


(Congratulations!)


 脳内にアナウンスらしい電子音声が流れてくる。


(貴方のパーティは攻略クエスト『ヘイネス マーダートリック』を開始しました)


 驚いた表情の大翔(ヒロト)が、無意識に足元のドロップアイテムを拾い上げる。


「ようするに、入り口の守護者(ユニーク)を撃破する事で、クエストのフラグが立つ訳か…」


(全4階層の寺院を突破して、中央仏殿のボスモンスターを討伐してください。制限時間は48時間 挑戦を開始しました) 



: 47:59:55  :

 


「しかし、此処(ここ)までゲーム的なイベントは、初めてかもしれないな…」


 視界の上部に現れた、カウントダウンの透過文字に、呆れたように言葉にしていた。


「おい、ヒロトよ。お前まだレベル18だろ…? レベル23の格上ユニークをソロで倒しやがって… まったく何者なんだよ?」


「今ので19になったけどなっ、と」


 幸太郎(コウタロウ)が再び背を叩こうとしたので、素早く腕でブロックをする。


「でも本当にどんな技なのよ? 攻城兵器並の威力だったのよ?」


 代わりに 彩葉(イロハ)がペシっと叩いた。すぐ横では、蜜髪の可憐なクランマスターが、背伸びをしてワクワクとした表情で待っている。


「いや… あれはその、裏技というか… ちょっとした小技かな? ぶっつけ本番でかましたけど、想像以上の威力で自分でも驚いた」


「小技と言うには、あまりに苛烈な攻撃だったよ? 僕もあんな打撃を見るのは初めてなんだ」


 香音(カノン)が彼の袖口を引っ張って、早く早くと急かして見せる。


「あっと、えっとな… 君たち『倉庫』内のアイテムを、二枠同時に引き出せる?」


「んん? 元々グループ化して収納した物ではなくてかい? 二枠のアイテムを同時に選択なんて… あらら、これって出来るんだね… 5年目の僕でも知らなかったな…」


「多分これも、アンサンブルのバグってやつだと思うんだ。見たほうが早いかな? ちょっとデモンストレーションを… あ、絶対に俺の右側には来ないでくれよ」


 そう言うと、少年は『倉庫』から、サイコロサイズのキューブがニ連結したものを、空中へと引き出して見せた。まだ取り出し位置を固定する前の、半透明のそれらは、何故か競り合うように小刻みに震えている。


「良いか? 見ててくれ…」


 キューブを実体化した瞬間、パンッ!!!! と破裂音を残して、2つのキューブは逆方向に銃弾のように弾けていった。一つは寺院の壁に穴を開け、もう一つは大木の幹を貫通している…。


「おおおっ… まるで銃弾みたいだな?」


 幸太郎(コウタロウ)が相当驚いたらしく、大きく眼を見開いている。


「凄い速度で飛んだけど… やはり魔力も気力も感じられないよ? 今のはどんな原理で弾けたんだろうか?」


「俺、昔からゲームでのバグ技や、裏技探すの得意でさ… 偶然に二枠の物体を重ねて実体化すると、反発することに気付いたんだ」


 彼はもう一度『倉庫』から小石二個を並べて召喚した。それが実体化した瞬間、今度はゴンと小さく跳ねて、互いに逆方向に転がっていく。


「こんな感じな… それでちょっと(ひらめ)いてさ、ちょこちょこ試していたら、どうやら同じ質量の物体を、表面の数ピクセル程度重ねて実体化すると、凄まじい反発力で弾きあう事を発見したんだ… これって、ものっそバグ技で、この世界の魔法や物理法則と、まったく別の現象なんだろうな…」


「君は凄いことを思いつくな… それでも、その攻撃方法を確立したら、戦闘自体が変わってしまいそうだね」


 香音(カノン)は関心したように、大翔(ヒロト)の横顔を見上げて言う。


「あら、どういうことなの?」


 ダークエルフの美少女が、少年から受け取ったドロップアイテムを確認しながら質問する。革袋の中身は『命と光の勾玉(まがたま)』(HP+172 HP 自動回復+34/25秒)だった。比較的出やすい高位護符で、そのまま大翔(ヒロト)が使うようにと返却された。


「これって、この発射可能な状態で『倉庫』に保管出来ていたよね? つまり魔力(MP)気力(VIT)も消費せずに、残弾の数だけ連続発射出来るという事だよ? あんな小さな箱でも、長弓の数倍の威力があるのにね」


「さすがカノン… 一見でそこまで理解できるのか。そう一度このベストな位置に重ねたら、そのまま一つのアイテムとして保管できるんだ。そして武器師や 細工師の能力でコピーまで出来ている… アイテム名とアイコンが文字化けするけどな…」


 目前に5メートル四方の、御影石のように黒光りする巨大キューブを浮かべて見せた。


「現状だとサイコロサイズの銃弾系と、この鋼鉄擬態生物(アイアン ミミック)を吹き飛ばした20トンの攻城砲(キャノン)タイプが、試作品としては成功してる… まぁデカイほうは『倉庫』圧迫するんで数は持てないな」


 それはこの巨大な質量の岩を、弾丸の速度で撃てるという事なのだ。その威力は先程見た通りである。


「それでも… あの破壊力のある攻撃を、まったくステータスを減らさずに連射できるのかよ… 空恐ろしいな」


「ようするにこの技は、銃身が無いだけの、短銃や攻城砲なのだろう?」


 何故だか香音(カノン)が、爽やかな笑顔で背伸びをすると、少年の頭をよしよしと撫ぜだした。よく出来ました! という意味らしい…。


「お、おお… まぁ前後に同じ被害が出るから、使う場面は限られるけど… そしてこれ、アイテムだから量産してみんなに配れたりする…」


「「な… なんですとぉぉぉぉ!!」」


 全員が瞳を輝かせて、くれくれと手を差し出していた…。






 

 ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ